アストリアとアタナーズ
「お兄様ー!」
波打つような金の御髪を靡かせる小さな皇女殿下は、若くして皇帝となった兄に走り寄る。
「アストリア、そんなに走ってどうしたの?」
若き皇帝は幼い腹違いの妹を抱き上げる。
「一緒にお昼寝しましょー?」
「お昼寝か。…この後の予定は?」
「本日は執務のみです」
「ならいいか。…アストリア、お兄様とお昼寝しようか」
「うん!」
皇帝の隣に立つ若き側近は、妹の前では年相応の優しい顔を見せる皇帝にホッとする。
皇帝であるアタナーズには、今はもうアストリアしか家族がいない。父であった元皇帝も、その妻であった母や他の妃も、腹違いの兄弟達だって革命で命を落とした。
残されたのは幼い一番下の妹だけとなって、アタナーズは暴走した。魔力で身体を強化して、革命軍を一人で滅ぼした。
「…もっと早い段階で、殲滅してしまえていれば」
「お兄様?」
「なんでもないよ」
アタナーズは、革命軍を滅ぼした後皇帝の座についた。しかし、革命軍への憎しみを噛み殺し平民達のための政治を行った。結果的に、国民から広く支持される最高の皇帝となった。革命軍に掻き回されて被害を受けた貴族達にも、ある程度の優遇措置などを行い貴族からの信頼も厚い。
しかし、胸にはまだ燃えるような復讐心が消えずに残っている。それを落ち着けてくれるのは、やはり幼い妹だけだった。
「ふふ、お兄様の腕枕!」
「アストリア、今日はなんだか甘い匂いがするね」
「うん!実はね…うふふ、今は秘密!」
「何か良いことかな?」
「うん!」
アタナーズはアストリアの頭を撫でる。そして、背中をポンポンと叩いてやった。
「ふぁ…んん…」
それだけでアストリアは眠たそうにする。アタナーズはそんなアストリアに優しい表情で笑いかける。
「いいよ、寝て。お兄様はそばにいるからね」
「うん…」
眠る妹の額に、アタナーズはキスをした。
「悪夢を見ないおまじないだよ、アストリアは優しい夢を見ておいで」
「お兄様、おはよう!」
「ん…ああ、もうこんな時間か。お昼寝しすぎちゃったなぁ」
「うん!でもちょうどできたよ!」
「何がかな?」
「アストリアのお手製ケーキ!」
アタナーズはアストリアが嬉しそうに指を指す方向を見て、少し驚いた。そこには美味しそうなチーズケーキが、テーブルの上に置かれていた。
「アストリアが作ったの?」
「うん!チーズケーキ!みんなと作った!」
パティシエ達に手伝わせたらしい。なるほど、このクオリティーになるわけだ。
「すごいね、アストリア。切り分けてもらって一緒に食べようか」
「うん!」
今日も、アストリアとアタナーズの穏やかな日常は過ぎていく。