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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第98話 第7章「森の中へ」その13

ともに列島世界の旅をしてくださっているみなさま、ながらくお待たせして本当に申し訳ございません。

まず本文中の変更点ですが、学問所のある、洞爺坊や蒼馬たちが暮らす寺の名前を「蓮華寺」から「蓮華の燈院れんげのとういん」に変えています。

前の名前はあまりに月並みで、現実にそういう名前のお寺があったらまずいかな、と思ったからです。

まだあくまで仮名のつもりですが…他の投稿の記載も順次変えていくつもりです。

読んでいる人を混乱させるようなことをしてしまい、申し訳ございません。

いまは猛暑で私もバテ気味なのですが、旅の仲間のみなさまもどうか御自愛ください。作者より。

(その13はじめ)

その頃、雪音は風切丸の背に乗って北練井の街中を走っていた。

安全のためよほどの緊急時でない限り街中で馬を速く駆けさせることは禁じられている。

いまの雪音の乗り方はぎりぎりの速さといったところだった。

雪音は蓮華之(れんげの)(とう)(いん)の門前に着いた。

彼女は愛馬から降りると、手綱(たづな)を持って門の中を(のぞ)き込んだ。

開かれた門の中には本堂や学問所の校舎として使われている(むね)、そして広い庭園が見える。

彼女が探している常人の姿は見えない。

いるのは作務衣(さむえ)を着た洞爺坊(とうやぼう)と弟子の層雲坊(そううんぼう)であった。

年老いた洞爺坊の朝の散策に若い層雲坊が付き添っているらしい。

雪音の姿を見かけて二人は近付いて来た。

「どうしたのですかな、雪姫さま」

洞爺坊が尋ねる。

「北の大門が開いて以来、非常事態とのことで学問所は再開できていないのですが」

と層雲坊が困惑したような顔をする。

もしかしたら学問所が再開されたものと雪音が勘違いして来たのかもしれない、と思ったようであった。

だが雪音の目的は違う。

「あ、あの…」

雪音がわずかに頬を紅くして言いにくそうにしていると、洞爺坊が皺くちゃな顔をいたずらっ子のように()()()とさせた。

「お目当ては蒼馬ですかの?」

と訊く。

「え、ええ」

雪音は答えた。

「彼に急ぎの用件があるんです」

「あいにくですが、蒼馬はいま出払っておりましての」

洞爺坊が言うと、層雲坊が続けて説明した。

「街の外に我々が所有している田畑があります。実習にも使ったから雪音様も覚えておいででしょう。阻壁づくりにも駆り出されなくなったもので彼はいま日中そこに行っているのです。そろそろ()り入れの時期ですから」

「ではそこに行かせて頂いてよろしいですか?」

雪音は少し焦っているような調子で尋ねた。

「無論良いのですが、お一人でですか?」

層雲坊が再び困惑した顔になって横の洞爺坊を見た。

師にお伺いを立てないと、といった風である。

洞爺坊が笑った。

「雪姫さまに何かを禁ずる権利など我らにはございませぬよ。姫さまは好きなときに好きなところに行き、会いたい人に会えばよいのです」

「ありがとうございます」

雪音は深く、だが素早く一礼するとまた風切丸に飛び乗った。

「蒼馬君とは色々話さなければいけないことがあります。時間をとらせてしまうかもしれませんが…」

と雪音が言うと、

「蒼馬が望むならそれも良いでしょう」

洞爺坊はにっこりしたまま答えた。

「ありがとうございます。では」

雪音は改めて馬上から礼をすると手綱を引いて風切丸の向きを変え、北練井の外へ向けすみやかに出発した。

去っていく馬上の雪音の背中とたなびく長い黒髪を目で追ってから、層雲坊は、

「その…本当に良いのですか?」

と師の洞爺坊に心配した顔を向けた。

「何がじゃ?」

洞爺坊は小さくなっていく雪音と風切丸の姿を眺めながら相変わらず微笑んでいた。

「その、なんというか、蛇眼族の姫があまりにも常人の男子と近しい仲になってしまうことなのですが…」

層雲坊が言いにくそうにすると洞爺坊はまた笑った。

「では止められると思うか?誰にも雪姫さまは止められぬよ」

雪音と風切丸は道を曲がり、見えなくなった。

洞爺坊はふと真顔に戻り、もう一度誰ともなく静かに言った。

「…誰にも止められぬよ」

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