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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里


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第86話 第7章「森の中へ」その1

ともに列島世界の旅をしてくださっているみなさま、いつもありがとうございます。

いつもながら投稿間隔が空いてしまい、申し訳ございません。

まだ個人的な生活においては強い風が吹いているような状況ですが、投稿は続けます。

必ずこの物語を完走させます。

ところで主人公の名前ですが、悩んだ挙句、草原くさはら 蒼馬そうまと変えました。

これからもどうしても納得いかない固有名詞は変更していくと思いますが、どうかお付き合い頂ければ幸いです。作者より。

草原(くさはら)(そう)()は正直なところ、普段より暇なぐらいだった。

雪音たちとともに北の大門に上り、北方から流れてくる不思議な笛の音を聞いてから五日経つ。

あの日から三日間、蒼馬と赤間(せきま)康太(こうた)らは北方鎮守府の招集に従い、大門の開口部周辺に急ごしらえの阻壁(そへき)と呼ばれる障害物を作っていた。

つまり、ただひたすらに土嚢(どのう)を積み上げていたのだった。

蒼馬と雪音たちは北の大壁に謎の光球が接触し、壁が古代からの門に戻るのに居合わせた。

光球の振る舞いは本当に不思議だったが、特に不思議だったのは()()が実に綺麗に目的を遂行したということだった。

実際門の開口部を塞いでいた石壁が信じられないほど短時間で削り取られたらしいのだが、その割に開口部の周辺には大きな瓦礫らしきものは全く無かった。細かい小石のような欠片(かけら)が散乱していたが、開口部の大きさと比しその量はとても少なかった。

つまり、ほとんど砂塵のような粉と化して風に飛ばされてしまったことになる。

また、石をも焼き切るような、とてつもない熱量が大壁に与えられたようでもあったが、その割に壁の上にいた蒼馬と雪音たちは、熱気こそ感じたものの火傷ひとつ負っていない。

蒼馬にとっては一生考えても説明できない現象のように思われた。

だから彼はもう大門の出現に関してはあれこれ考えるのを止めてしまっていた。

だけど、と蒼馬は思う。

やはり前史時代の魔術とか呪術の類が関係しているのは間違いないのではないか、と。

何千年、もしかしたら一万年以上経っても造られた当初の姿を保ち続ける北の大橋や大門をみると、かれらがそれぐらいの魔術や呪術をその建造物たちに仕込んでおいていたとしても不思議は無いように思われるのだった。


ともかく、蒼馬や康太ら常人の若者は北方鎮守府の招集に従い、北の大門の前に集められ、蛇眼族と常人のいわば混成部隊を形成した。

 そしてせっせと阻壁をつくっていたのだった。

 だが、小さな出入口を一つ残し、北の大門の開口部をぐるりと半周状に囲む急ごしらえの壁が大人の身長の倍ほどになったとき、その作業は唐突に終わることとなったのだった。

 蒼馬や康太ら常人の若者たちは突然蛇眼族の指揮官から、明日からは来なくて良い、ひとまず日常の仕事に戻るか自宅に待機して次の指示を待つように言われたのだった。

 もっと高く、頑丈で恒久的な阻壁を造っていくのだと思っていた蒼馬たちには意外だった。

 雪音が彼らに漏らした、門の開口部を再び塞いだりしない、という慶恩の都からであろう取り決めが関係しているのだろうか、と思う。

 いづれにしても蒼馬にはどうすることもできず、日常の仕事に戻れとのことで今日も朝から(たけ)(ぼうき)を持って寺院兼学問所の庭の掃除にいそしんでいたのだった。

 そんなとき、蒼馬のいる庭へ急いで入って来た二人の人物がいる。


ひとりは洞爺坊の弟子で蒼馬の先輩的な存在である蛇眼族の真叡教成錬派修行僧、層雲(そううん)である。

もうひとりは蒼馬の親友、赤間康太であった。

蒼馬は面食らった。

層雲も洞爺坊の下で学問所の教師役を務めており、蒼馬も康太も生徒である。

それにしてもこの二人だけで一緒に行動しているのはあまり見たことがなかった。

「どうしたんですか?」

と蒼馬は層雲坊に尋ね、続いて康太にどうしたんだよ?と小声で尋ねた。

層雲坊は急ぎ足の後で少し息を切らせながら、

「洞爺先生はいらっしゃるかな?たまたま外へ用事があって出ていたら慶恩の都から軍が到着したのに出くわしたんだ。それでとりあえずは洞爺先生に報告しなければと思ってね」

と言った。

赤間康太も同じく息を荒くしながら、

「そうなんだよ。それで俺も層雲先生と一緒に洞爺先生と、あとお前に伝えようと思ってさ」

と言った。

蒼馬が寺の中を指して洞爺坊先生は中にいます、と言おうとしたところで開いていた障子から洞爺坊が縁側に出てきた。

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