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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里


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第78話 第6章「堅柳宗次、北へ。」その9

この物語を読んでくださっているみなさま、本当にありがとうございます。

最近はいつものことになってしまいましたが、投稿間隔が空いてしまい申し訳ありません。

もっと速いペースで投稿できるよう頑張ります。

ところで今回はセクハラ的行為の描写があります。

不愉快に感じられた方がおられましたら申し訳ありません。

どうしてもこういう描写は避けられないと思ったのです。

それではこれからも一緒に「列島世界」の旅を続けて頂ければ幸いです。作者より。

 ところで、蛇眼族といってもすべての蛇眼族が(ひと)しく蛇眼の妖力で常人を意のままに操れるわけではない。

 そこにはおのずから、能力の優劣というものが生じる。

 また、蛇眼をかけられる常人もすべて均しく操られてしまうわけではなかった。

 蛇眼にかかりやすい常人もいれば、かかりにくい常人もいる。

 後者の場合、蛇眼の力が弱ければ自らの意思の力だけで蛇眼を破ることもあり得る。

 特別な心術を使わない、最も単純な“蛇眼破り”というわけだった。


 黒木峯之助は蛇眼の使い手としてはあきらかに平均以下だった。

 それに加えて、彼はいま酒に酔っている。

 だが、彼が蛇眼を向けた田舎の村娘は、きわめて蛇眼にかかりやすい常人であった。

 だから峯之助の蛇眼が劣悪なものであっても、村娘は電撃に打たれたようにそこに立ち尽くし、なにも喋れなくなってしまった。

 表情は驚いたまま固まり、だらんと垂れた腕から木の盆が土の道の脇にある草地に落ちる。

「わたしの言うことをきけ。わたしとともに向こうにある納屋に行くのだ」

 峯之助は酔いと闘いながら押し殺した声で村娘に命じ、顎をしゃくって少し距離のあるところにある、人気のない納屋を指した。

 峯之助は提灯の光が極力目立たないよう、自らの体でそれを(さえぎ)って祭りに興じる人々に気づかれないようにしながら納屋に向かって歩き始めた。

 村娘は(ほう)けたように、足をひきずるようにしながら峯之助についていった。


 村娘が木の盆を草地に落とした時、わずかにがさっという音がしている。

 祭りの踊りに没入している人々は常人も蛇眼族もその音に気付くことはなかった。

 ただ、その村娘とともに酒と食べ物をみなに振舞っていたもう一人の、彼女より年上の女性がそれに気づいた。

 やや小太りのその女性は、皆に背を向ける格好で黒木峯之助が村娘にどうやら蛇眼をかけたのを目撃している。

 次いで村娘が放心したような様子で黒木峯之助について行くのを見て、

「こりゃ大変だわ…」

とつぶやき、あわてて誰か訴える相手はいないかときょろきょろと周りを見渡した。

 ところが、彼女の周りは()りつかれたように踊る常人の村人と、同様に踊る蛇眼族、そして踊らずに落ち着いているのは蛇眼族の兵士たちのみだった。

 蛇眼族に訴えて止めてくれるのだろうか。

 誰か村人に訴えても止められそうにない。

 どうしよう…。

 村の女性は突然はっと何かに気づいたような顔をすると、祭りの輪を迂回するように広場の向こうに走り出した。

 そこには旅芸人たちの控え小屋があった。


 黒木峯之助は納屋の扉を半ば力づくで開けると、村娘をそこに誘導した。

 その村娘は純朴そうなだけにきわめて蛇眼にかかりやすい気質・体質のようで、峯之助の拙劣な蛇眼の能力からも脱出できない様子であった。

 峯之助は提灯の明かりで納屋の中を照らした。

 納屋の中は半分以上藁が一杯に積まれている。

 草鞋(わらじ)か何かを作るために置いているのであろうか。

「お、奥に行きなさい」

 峯之助は緊張してうわずった声で村娘に指示を出した。

 こんな拙劣な蛇眼の術でも村娘はそこから脱出することができない。

 蛇眼をかけられた人間はほとんどみなそうなのだが、自分は蛇眼をかけられている、と自覚するだけの意識の領域は保たれている。

 そしてこの状態から脱したい、と念じる人間もいるがほとんどすべてにおいてそれを実現できるだけの意思の力は失われている。

 そういった意思の力が、いわば麻痺させられるのであった。

 そして極めて蛇眼にかかりやすい人間は蛇眼から脱したい、という意思すら湧いてこない。

 そう念じることすら麻痺させられる、とても深く蛇眼に(とら)われた状態になる。

 いま村娘はまさにその状態に陥っているのであった。

 彼女はふらふらと幽霊のような歩みで納屋の奥まで歩いて行った。

 峯之助に背を向ける位置となる。

「こ、こっちを向くのだ」

 峯之助は相変わらず、いかにも小心者のようにどもっているが、村娘は従った。

 若い村娘が目の焦点が合わない、ぼんやりとした表情でこちらを向いて立ち尽くす。

 その豊満な体形を見て、酔いの醒めやらぬ黒木峯之助は欲情した。

 提灯の灯りが消えないように地面に置きながら、峯之助は

「お、帯紐を解いてみようか」

と言った。

 村娘はその顔を一瞬歪(ゆが)めたかのように見えたが、それでも抗うことはできない。

 自らの腰にある帯紐に手をかけると、それを引き解いた。

 くすんだ黄色の着物の前がはらりとはだけて、若い乳白色の肌が(あら)わになる。

 峯之助は口から(よだれ)を流さんばかりにして、彼女に歩み寄った。

 その時である。

「それは“(じゃ)(がん)禁忌(きんき)式目(しきもく)”ですな!」

という男の声が後ろから響き、黒木峯之助はぎょっとして振り返った。

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