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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里


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第64話 第5章「開かれし北の大門にて」その6

私の書いた物語を読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます。

今回は公開までやや日が空いてしまい、申し訳ありません。

初稿を手直ししなければならない部分がとても多かったのです。

これからも公開日が空いてしまうことがあるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

私の住む北国は日々寒くなってまいりましたが、皆さまもお体にお気を付けください。作者より。

 巨大な壁は真ん中がきれいに開口している。

 側方は垂直な直線で、上方は弧を描いた石橋のように見える。

 蒼馬はなんとも言えない不思議な気持ちになった。

「蒼馬はあそこにいたんだろう?壁が崩れたときに」

 壁を見て、康太が握り飯を頬張りながらもごもごとした呑気(のんき)な声で話しかける。

「うん、そうだな」

 蒼馬は汁をすすりながらぼんやりと答えた。

「奇跡だな。蒼馬も雪音ちゃんもかすり傷ひとつなかったなんて」

「ああ、ほんとに」

 ほんの五日前には、あの橋のようになった壁の上に自分はいたのだ。雪音と一緒に。

 壁の上が崩落していれば二人とも瓦礫と共に落ちて死んでしまっただろう。

 だがそうはならなかった。偶然とか奇跡なのだろうか。

 だがあの壁の崩れ方、というかきれいに開いた門の開口部を見る限りそうではないと思う。

 壁は“橋”が自ら振動し、蒼馬たちが目撃した光の球が壁の閉鎖部分を削るような振る舞いをしたので、いま見ているようなかたちに開いているのだ。

 太古の人々、前史文明の人々がそのようなから(・・)くり(・・)を作ったのだろう。

 だがどんな?

 (いにしえ)の魔術だろうか。

 それになぜ?

 なぜいま、前史文明の“橋”に呼応して大壁は崩れ、古の大門に戻って北への道を開けようとするのだろう?

 蒼馬は考えたが、すぐに考えるのを止めてしまった。

 さっぱりわからなかったからだった。

「お(かみ)はさ、」

 康太がまた食べながら話しかける。

「あのでっかい穴をすぐ塞がないのかな?北の蛮族があそこを通って攻めてきそうじゃないか」

「…俺にはわからないよ」

 どうも北方鎮守府は開いた門をすぐに塞ぐ工事はしないらしい。

 いや、できないのだろう。

 その開口部はあまりに巨大であったし、閉鎖するにはなにか専門的な技術も必要とするのだろう。

 それに起こったことがあまりに不可思議だったし、一見均質に見える壁の内部構造を調べようと考えているのかもしれない。

 いずれにせよ、蒼馬にはどうすることもできない問題だった。

 蒼馬は大門の開口部の先に見える巨大な白い“北の大橋”の上面と、橋の向こう側に小さく見える北方側の大門、その周辺や大門の開口部を通して見える北方の森が日没となって暗くなっていくのを芋汁をすすりながらただ眺めていた。


 鈴之緒雪音と賀屋禄郎、そして椎原加衣奈までもがやってきたのは蒼馬たちがちょうど食べ終わった頃だった。

「蒼馬くん!」

「康太くん!」

 幼子の頃から聞き慣れた雪音の澄んだ声、そして加衣奈の鈴が転がるような声が耳に飛び込んできて、蒼馬は考えごとから引き戻された。

 蒼馬も康太も食器と箸を手に持ったまま立ち上がり、声の方向を見る。

 雪音は愛馬「(かぜ)(きり)(まる)」にまたがっていた。

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