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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第59話 第5章「開かれし北の大門にて」その1

 北練井の城は街の真ん中、旧市街の防護壁の一端に鎮座し、それには複数の役割があてられている。

 それは北方鎮守府の総本部であり、北練井という街の役所であり、いざという時の避難場所であり、そして戦のときは最後の砦となるべき場所であった。

 そしてもうひとつ、もう何代も北部総督一家である鈴之緒家の住まいとなっているのだった。

 そんな北練井城を目指し、夕暮れの空の中、一羽の大きな茶色の猛禽類が飛んでいる。

 使い鷹であった。その片足には銅でできたとても小さな筒が固く結わえ付けられている。

 かれらはそのようにして神奈ノ国の隅々にまで(ふみ)を運んでいくよう、調教されているのだった。

 鷹は城の上空に達すと翼を大きく広げたまま旋回飛行をはじめた。そして甲高く鋭い鳴き声を上げる。

 城の窓から誰か家臣が顔を出したのをその驚異的な視力で捉えると、鷹はそれを目指して旋回しながら降下していった。


 使い鷹に託されたのは鈴之緒一刹に慶恩の王府から送られた速達であった。


 それが届く前、昼頃に一刹はある人物と会っている。

 鈴之緒家に次ぐ北部の有力武家、(はく)(ずい)家の現当主、源一郎(げんいちろう)である。

 北の大壁の崩壊からすでに五日間が経過していたが、二日後にはすでに北部諸侯による緊急会議が開かれていた。

 北部には小さいものも含めると二十余り、それぞれ領地を持つ武家が存在する。

 当然みな蛇眼族の家系であった。

 鈴之緒一刹は壁が崩壊した当日の昼過ぎまでには、慶恩の都はもちろん、周辺の諸侯にも残らず早馬や使い鷹を送っていた。

 わかっていることはすべて伝え、早急に有力者たちを集め対策会議を開くためであった。

 そうして壁の崩壊二日後には北練井城に周辺武家の当主かその代理者が顔を突き合わせ、初回の対策会議が開かれている。

 ただ、対策といってもできることはあまりに限られていた。

 北練井側の、開いてしまった大門に関しては、応急処置としてとりあえず土嚢(どのう)や丸太の柵で開口部を囲う。

 北方から侵略者たちが下ってきた場合の、第一防御策である。

 北練井の常駐軍に加え、まずは北部諸侯が順番に兵員を派遣し、北の大門の警備にあたる。

 もし侵略者たちが第一防御策を突破したときに応戦するためである。

 改めて北の大門を閉鎖する工事にとりかかるかは、慶恩の王府からの指示を待つ。

 ざっとそんなところだった。

 北部諸侯やその代理人たちは、ぽっかりと穴が空き、元の“北の大門”となった大壁を見て舌を巻き、自分たちの一門の中で改めて対策を話し合うため会議後はすぐに帰って行った。

 今日改めて北練井を訪れた北部諸侯の一人、白瑞源一郎は、無論一人で北練井を再訪したのではない。

 すぐに集められる二百人ほどの蛇眼族と常人の混成部隊を率いていた。

 源一郎こそが、順番で兵を派遣し、北の大門の警備をしようとなったときに、真っ先に手を挙げたのだった。

 これには単純な理由があった。

 白瑞家の領地は北練井のすぐ近くにある。

 そんなわけで白瑞家と鈴之緒家の付き合いは古い。

 子供時代から源一郎は鈴之緒一刹の幼馴染であり、いまも親友なのだった。

 源一郎は北練井城を前にした広場で北方鎮守府の担当者と落ち合い、自らの率いる部隊の野営や駐屯に関して方針を確認した後、補佐官一人のみを連れ大股で歩き、城に近付いて行った。

 一刹も賀屋禄郎のみを連れ、自ら城から歩み出て歓待した。

「やあ、一刹」

 大柄で身なりは良いが風貌はいかにも野武士風な源一郎が片手を高く挙げて陽気に挨拶する。

「源一郎どの。昨日の緊急会議では大変世話になった」

と、一刹も軽く右手を上げる。

 そしてその手を自らの心臓の上に当て、唱えるように

「すべての蛇眼と常人の民に等しく平和を」

と言った。

「相変わらず、敬虔な成錬派ってやつだな」

と源一郎が笑って茶化すように言う。

 いま一刹が唱えるように言ったのは真叡教成錬派のいわば形式ばった挨拶の言葉のようなものだった。

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