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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第52話 第4章「堅柳の郷と慶恩の都」その13

 宗次は胡坐(あぐら)をかいて座った姿勢で(たか)(みつ)に向き、両拳を床について深々と頭を下げた。

「この度はわたくし共一門からの者が武士長の役目を(たまわ)ったのにも関わらず、他の武士たちを死なせてしまい、手負いを救出されたとはいえ護衛の武士長だけが生き延びるという大失態を犯してしまいました」

「まあまあ」

 孝満は宗次に頭を上げるよう促した。

「霧の領域で起こったことに関してはわしも曖昧ではあるが聞いておるよ。今まで起こった謀反と比べてもかなり異常なことと言わざるを得ん。少なくともいまは誰が悪いとか言ってる場合じゃなかろう」

「その通りですわ」

 そばで二人の話を聞いていて同意の声を挙げたのは二人の女性当主のうちひとりであった。

 (せい)(れい)家の賢那(けんな)()という名前で、賢那美の姫と呼ばれているが、もう齢は初老近くであった。

 痩せ気味で神経質そうな表情を浮かべているが、着ているものはいつも紅か桃色系統の華やかな色合いだった。

 八家門会議のときは、いつも積極的に発言するので、ほとんど意見を表明することがないもう一人の大人しい女性当主とは対照的である。

 いずれにせよ、発言力がとりわけ強い二人が霧の領域での事件に関して堅柳家の失態とは捉えていないと知れて宗次は少し肩の荷が降りる気持ちになった。

 ただし、王がどう捉えているかはまだわからない。


 その王が登場するときが来た。


 上座側にある襖が開くと、さきほど宗次らの案内役をしていた新人らしき若侍が変わらず羽織袴の正装姿で登場した。

 若侍は上座の隅まで移動すると座って声を張り上げる。

「八家門当主の皆様方。これより貝那留(かいなる)王朝三代目、総麗(そうれい)王のお成りで御座います」

 上座背面にある、金箔を要所に散らした華やかな色彩の風景、飛び立つ鶴たち、そして地から頭を上げる蛇を描いた(ふすま)が開く。

 向こう側の両端に襖を開く役目の者たちが座して控えていた。


 そして王が開かれた空間の真ん中に立っていた。


 王の名は貝那留(かいなる)総麗(そうれい)という。

 神奈ノ国の初代王・()()()と真叡教僧団長会議により、初代王家が途絶えた場合、その後の王をどの一族から選ぶか指定されていた。

 実際に初代王家が三代で断絶したとき、次の王は指定された家系から選ばれている。

 以降、歴代の王と真叡教僧団長会議は、自らの家系が途切れそうなときは、王家を継ぐべき家系を指定するのが慣例となった。

 それは不文律として家門会議に属する一族であった。そしてある一家門に属する者が王に指名されると、その者が属していた一族は独自に王族となって家門会議からは外れることとなる。

 そして会議の空いた席は他の新興の一門が埋めるのが慣わしであった。

 はじめ、この会議は十三家門会議であった。

 しかし新興と呼べるような一族が出なくなったことや、蛇眼の能力を失って自然と断絶してしまう家門まで出現し、この五十年ほどは八家門となってしまっている。

 そして実際、蛇眼族の総数も減り続けているのだった、

 幸いなことは、王家を継ぐための蛇眼族同士の血を流す争いが神奈ノ国開闢以来百年後位の頃に一度きりしか起こっていないことだった。

 そのときには蛇眼族の統治機能が破綻を来たしたのに乗じて常人たちの大反乱を誘発してしまっている。

 なんとかその大反乱を乗り越えた後、蛇眼族の間では蛇眼族同士の王位争いをしないことが不文律となった。

 加えて王と家門会議で権力を分配し、あえて王位が血を流してでも手に入れたいほどのものでは無いものとした。

 また常人に対しては蛇眼の乱用を禁じた蛇眼式目によって反乱を誘発しないようにして現在に至っている。

 そのような歴史を経て、いまの王がここに立っているのだった。


 貝那留総麗はもう七十歳代の老人であった。

 面長の顎から白い髭が鋭い感じで伸びている。

 きりりと結ばれた口、高くて細い鼻、そして何よりその鋭い眼光から老いぼれているという印象は受けない。

 さらに身にまとう、紫の地に金色の糸を随所に使った刺繍をほどこした着物が老いを隠して余りある絢爛豪華な雰囲気を放っている。

 刺繍のなかには蛇をかたどったものもある。

 まさに蛇眼の王、を演出しているのであった。

 総麗王は悠然と微笑みながら前へ進み、上座の一段高くなったところ、その真ん中にある広い敷畳の上に座る。

 右横には紅い脇息(きょうそく)と呼ばれる肘置きがあり、そこへ軽く体を傾けて右肘を置いた。

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