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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第49話 第4章「堅柳の郷と慶恩の都」その10

 その城の正式な名は王都の名をそのままとって(けい)(おん)(じょう)という。

 だが、蛇眼族も常人も別称としてよく使うのが“白鷺(しらさぎ)(じょう)”である。

 それはこの神奈ノ国最大の城が遠目には白い(さぎ)が羽を広げていままさに飛び立つように見える、と評されるからであった。

 向かって中央、天空に(そび)える大天守を白鷺の胴体と頭、そこから左右に伸びる白壁とその両隅にある小天守を広げた翼に見立てることができた。

 いつもは風光明媚の類など気にせぬ風に振舞っている堅柳宗次でさえ、王都である慶恩に来るたび、この城の威容を見て感嘆している自分に気が付くのだった。

「いつもながらの美しさと威容ですな」

 佐之雄勘治もまた近づいてくる巨大な城の姿を見上げながらそう言った。

「そうだな。今日のような天気だとなおさらだ」

 宗次も同意する。確かに今日のような夏の終わり近くの、雲が少なく青くて高い朝の空に(そび)える白い城の姿は映えるものがあった。

 慶恩城、一般に白鷺城と呼ばれるこの城が建てられたのは約五百年前、蛇眼族の統治が始まって間もない頃である。

 実はそれ以前、常人だけの世の中だった時代にもこの場所に城はあった。

 神奈ノ国における人間の活動圏がいまよりもっと狭かった頃、この地方を治める一種の豪族の城があったと伝えられている。

 だが常人たちの世からいつしか蛇眼族が出現し、また彼らの出現と統治を正当化する真叡教なる宗教も現れた。

 蛇眼族による神奈ノ国統一にあたり、彼らはその象徴たる城を必要とした。

 そして当時の建築技術の粋と、ときには蛇眼を用いた常人たちの莫大な労働力を費やして、もとあった城をはるかに凌駕するこの城が作られたのだった。

 つまり白鷺城は建てられた当初より蛇眼族の支配の象徴であった。


 そしてそのときに支配を拒否する常人たちと彼らに共感する一部の蛇眼族もまた現れている。

 彼らは北の大渓谷に前史時代から唯一かけられていた大橋を渡り北方に逃れた。

 支配者たる蛇眼族がその大橋の両端に設けられていた北の大門のうち、自らの側を封鎖して現在に至る、というわけだった。


 白鷺城には二重の堀、外堀と内堀がある。

 宗次と勘治は馬を歩ませて城下町の本通りを抜け、外堀を渡る橋の前にある櫓門(やぐらもん)の前で止まった。

 門は閉ざされており、四人もの兵士が槍を持った足軽の格好でそこに待機し、他に武士とわかる格好のものも二名いる。門の開閉を担当する人夫も二名いる。

 足軽と人夫は常人、武士は蛇眼族の者だろう。

 また、見晴らしの良い門の上の櫓のなかにも一名か二名、詰めている者がいるのが見てとれた。

 半年ほど前に来たときより警備が厳重になっているな、と宗次は思った。

 以前より常人たちの謀反や暴動を警戒すべき状況になっているのだろうか。

 慶次郎が傷だらけになって救われた、あの霧の領域での事件も影響しているのかもしれない。

 だとしたら今日の八家門会議は面倒なことになるかもしれない。

 宗次と勘治が門に近付くと武士のひとりが堅柳家御当主の方ですね、と言って人夫と足軽に門を開けるよう指図した。

 武士の顔に宗次はなんとなく見覚えがある。

 その武士もまた、以前宗次が白鷺城を訪れたときにも門番かなにかの仕事をしていて、着物に染め付けた家紋とともに宗次の顔を覚えていたのだろう。

 そのようにすんなりと外堀を超える橋を渡った宗次と勘治は同じように、外堀ほど厳重で大きくはなかったが同様に内堀の櫓門も抜けた。

 これも外堀ほど大きく、幅も広くないがそれでも通常の城ではみられないような規模の内堀も超えていく。

 緑色の水を(たた)えた堀に渡された、すこし上に弧を描く木の橋を蹄の音をたてながら二頭の馬が乗り手とともに渡っていく。

 渡る先には堀の水面から巧みに組み合わされて積まれた石壁が立ち上がり、その上に見える城を外周から支えるようにそびえていた。

 それらのものを過ぎて、ふたりはようやく白鷺城内に入ったのだった。

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