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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第34話 第3章「それぞれの午後といつもと違う朝」その9

 顔を上げると老僧は意を決したように再び口を開いた。

「その、北方と神奈ノ国との橋渡し、という役割だがそれこそおまえの父がおまえに関してわしに語ってくれた夢なんじゃ」

「そうなんですか?それは初めて聞きました」

「すまぬな、いままで黙っていて。だが蒼馬よ、おまえが父親の想いを継ぐにしても、いまは目立ったことをすべきではない。いま王府や斎恩派に目を付けられては全てが水の泡なんじゃ。わしがお前に成錬派ではかなり増えつつある常人僧になることを勧めないのもそのためじゃ。そうなると王府に申請するのが義務だし、彼らは成錬派が常人僧を増やしているのを警戒しておるからの。どんな詮索をされるかもわからん」

「…そうですね。わかりました」

 蒼馬にはそんな返答しかできなかった。

「だが蒼馬よ」

 洞爺坊は続けた。

「北方王国でも、おまえの父を斬ったような奴らは全体のごく一部に過ぎん。ほとんどの人々は穏やかで賢明な人々じゃった。だから決して北方の何もかもを憎まんようにな」

「…はい。わかっています」

 そこで蒼馬は風呂を温める(かまど)の火がだいぶ落ちているのに気が付いた。

 振り返って手に持った竹筒を吹き、また火の勢いを戻そうとする。

 洞爺坊は緊張を強いられる会話から解放されたように笑った。

「どうやら、風呂釜を温める火の面倒をみながらする話ではなさそうじゃ。おまえのこれからに関してはちと長い話にもなりそうだし、わしも夜を徹して話せるほど若くはないのでな。どうだ、近いうちに時間をとって話をせんか?」

「はい…是非、お願いします」

 洞爺坊はそれを聞くとにっこりした。

「よし。ではわしも風呂に入る準備をしようかな」

 老僧は蒼馬に背を向け、庫裏(くり)と呼ばれる寺院内の生活の場に足を向けた。蒼馬も続けて燃える薪にしゃがみこんで向き合った。


 それから二時間も経つと、蒼馬の一日の仕事も終わってしまった。火を落として後始末をした後、彼自身もさっと手短に入浴するとささやかな個室に入り、すぐに寝床にもぐりこんだ。

 普段はすぐに寝入ってしまうのだが、その夜はさすがになかなか寝付けなかった。布団のなかで寝返りを打ちながら蒼馬は近いうちに洞爺坊がしてくれるであろう話の内容や学問所の仲間である康太や加衣奈のこと、そして鈴之緒雪音のことなどを考えた。考え始めるとそれは頭の中で膨れ上がり、ぐるぐる回り始めて蒼馬の眠りを妨げるのだった。

 しかしそれでも眠りはやって来る。蒼馬は夜の暗さの中でいい加減体も頭も疲れてしまい、知らぬ間に深い眠りに入っていた。

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