第205話 第15章「国境の砦」その1
丘の上の三将軍はセイリュウと雪音の自己紹介を聞いてから、今度は自分たちの紹介をした。
まず真ん中の将軍が口を開く。
「我々は国境地帯を三つに分けてそれぞれ受け持ち、護りに努めている」
真ん中の将軍は言った。
「わたしは霧の領域を出たところふくめ、中央地帯を守備するルベシだ」
「お会いできて光栄です」
丁重に挨拶する雪音に
「父君のことは聞いている。以前からそこにいる二王国連合忍者団にあなたの父君の人となりをきき、神奈ノ国との関係ももっと良い方向に変わるのではないかと思っておったのに残念だ。心より哀悼の意を表する」
と答えた。
ルベシの右側にいる男の方が微笑みながらゆっくり口を開いた。
「わたしの名はアベツ。ここより国境の北西側から海岸線までを担当している」
もうひとり、ルベシの左側にいる男装の女性が馬の上から言った。
「わたしの名はユマ。ここより国境の東南側から海岸線までを担当していることになるな。わたしも忍者団より鈴之緒一刹どののことは聞いていた。心より哀悼の意を表する」
「ありがとうございます」
雪音は礼を言い、旅の一団はそのまま三将軍と、丘の下に待機していた将軍たちの騎馬隊に連れられ、国境に最も近い砦をまず目指すこととなった。
先頭の馬たちに乗る三将軍が自分たちとともに馬を進めることを望んだのはセイリュウであった。
三将軍は馬の上からセイリュウに破格の申し出をした。
名将の誉れ高く、堅柳宗次とも戦った経験のあるセイリュウはイカルガ王国にとっても貴重な存在である。
だから神奈ノ国の侵攻軍のさらなる北上に対抗するため急遽編成される迎撃部隊の参謀のひとりとして、また前線に赴く武将のひとりとして迎えたいというものだった。
「どうやらこれから戦が本当に始まりそうですからな」
ルベシは馬の上から横のセイリュウを見つめながら言った。
「われわれとしてはアテルイ王国の鎖国派のようにあなたの経験と技量を無駄にし、挙句墓穴を掘る真似をしたくないですからな」
この申し出にセイリュウは
「安心しました。イカルガ王国に行ってもなにもできない立場になったらどうなるかと思っていたのです」
と快諾した。
「それでは我々の軍から迎撃部隊の一部をあなたの配下につかせましょう」
ルベシは続けて言った。
「いつもわたしの意図を汲んでくれる騎馬隊の副長をあなたのすぐ下につけます」
「ありがとうございます」
「急な部隊編成でも誰にも不満が無いようにしたいですからな。ところでもうすぐわれわれが迎撃の戦場に想定している場所に着きそうです」
そこは、もし侵攻軍が霧の領域を突っ切ってくる場合、まずはじめに到達するであろう場所にあった。
「三方ガ原です」
ルベシは説明した。
「その名の通り三方を丘、というか草木の生い茂る低い山に囲まれている」
「直進すると大軍勢なら行き止まりになってしまいますな」
セイリュウが指摘するとルベシは肯いた。
「その通りです。われわれは堅柳宗次を研究し、彼なら霧の領域を迂回せず突っ切ってくると考えています」
「わたしもそう思います。彼はそういう男です」
セイリュウも賛成した。
ルベシは続けた。
「霧の領域を出てすぐのところ、われわれが出会った場所でまず一戦交えることとなりましょう。そこから極力深手を負わずにこの三方ガ原にまで侵攻軍を誘い込み、集中的に攻撃する計画です」
「お見事です」
セイリュウはまた賛同の言葉を述べながら戦場になるであろう場所をじっと見つめていた。
「真ん中にある平地に堅柳宗次たちを誘い込む計略ですな?」
「そうです」
「見たところ平地にいくつか窪みがありますな。もし時間が許せば窪みをもっと掘ってそこに矢をしのげる盾を置いておけば良いと思われます」
「ほう?」
「最初の交戦部隊をわざと撤退させ、その窪地に飛び込んで盾の影に隠れたなら、堅柳宗次の軍が来たとき味方を傷付けずにまず丘から矢の雨を降らせることができます」
「さすがですな。早速準備させましょう」
ルベシは騎馬隊から家来のひとりを呼ぶとさっきセイリュウの言った内容を伝え、砦から人員を集めてすぐ実行するよう伝えた。
セイリュウはさらに言った。
「それにしても対策を立てるべきなのは蛇眼族の部隊です。味方の兵士全員に蛇眼破りが切れるたびにかけ直せるほどの“声”の使い手がいれば良いのですが…」
「そこがわが軍も頭を痛めているところなのです」
ルベシは告白した。
「声の使い手を確保することも含め、わが軍もできる限りの対策をとっているつもりですが…正直蛇眼族の部隊とまともに正面から戦うのはきわめて困難な状況です」
「俺たちは対策を用意してきました」
斜め後ろの馬の上から口をはさんできたのは小三治だった。
「な、そうだろ、イズクメさん?」
と横を向く。
イズクメは渋い顔をして
「まだ未知数だね」
と小さな声で言った。
後ろで馬に揺られている奈央姫が聞こえたのか申し訳なさそうな顔をしている。
その横でさらに申し訳なさそうな顔をしているのが純史郎だった。
彼のせいでせっかく奈央姫が霧の領域で声を取り戻す機会を逸してしまったのではないかと思っているのだった。
草原蒼馬はセイリュウの後ろで雪音とともに馬を進めていたのだが、話が途切れたとき不意に口を開いた。
「あの…セイリュウさん」
「なんだ?草原塩嶺の息子よ」
「僕、まだ身の振り方が決まってないし、堅柳宗次と戦って友だちの仇をとりたいんです。だから…セイリュウさんの部隊に入らせてもらうわけにはいきませんか?」
セイリュウは振り返るようにしてしげしげと蒼馬を見つめ、それから言った。
「おまえの父上も喜ぶと思うぞ。いや、そうかどうかはわからんが…」
セイリュウの顔が一瞬曇ったが、すぐに元の表情に戻って彼は言った。
「ともかくお前を一戦士としてわが部隊に迎えよう」
「ありがとうございます」
こうして蒼馬の身の振り方も決まり、一同は三方ガ原も抜けて砦を目指したのだった。




