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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第201話 第14章「国境越え」その7

「まず瞑想をするように座りなさい」

天狗は自らも地面に瞑想するように座った。

彼が指差した場所に蒼馬も座り、天狗に倣って瞑想するように足を組んだ。

「いままでは体術を教えるのみであった」

瞑想の姿勢で蒼馬と向かい合うように坐った天狗は語った。

「だがこの技、霧天狗(きりてんぐ)は違う。蛇眼破りと同様、心術を必要とするのだ。これからおまえに授けるのはその心術だ」

「はい。お願いします」

蒼馬は神妙にうなずいた。

天狗は続けた。

「さて、蒼馬よ。この技では時間の流れの感じ方が極めて重要だ。おまえは普段時間の流れをどのように感じている?」

問われた蒼馬は考え込んだ。

「時間の流れ…川の流れのようなものですか?過去から未来に流れる…」

「違う」

天狗はあっさりと否定した。

「霧天狗を使いたければ、おまえは時間を川の流れのようではなく、ひとつひとつの場面をつなぎ合わせたものとしてとらえなければならない。“いま”という場面のつながりとして」

「はあ…」

蒼馬にはさっぱりわからなかった。

「さて、蒼馬よ」

天狗は続けた。

「ある場面で相手がおまえに斬りかかっていくものがある」

「はい」

「次に予想される場面として、ふたつ考えられる。ひとつは相手がおまえを斬り倒す場面。もうひとつはおまえが相手の攻撃をかわし、反撃して逆に相手を斬り倒す場面だ。相手がおまえに斬りかかった時点で、将来起こり得る場面がふたつ生まれたことになるのだ。これにはおまえの想像力などは一切関係がない」

「はい」

「おまえのやることはただ、次の場面、未来の場面を選び取るだけだ。どちらの場面を選び取るべきかは言うまでもない」

「はい…」

「それではこれからおまえに霧天狗の間だけでも時間を今という場面の連続として捉えられるようにできる能力を授ける」

「はい。お願いします」

「それに加えて、霧天狗のときに自分が選び取りたい場面を選び取れる能力だ。相手がそれをまた変える能力を持たない限り、もしくはおまえ自身がその場面を選び取ることを否定しない限り、それは変えられることがない」

「自分自身が勝つ場面を否定する…?」

「そうだ。たとえば勝負の結果に自信がなくて、それを場面の選択に介入させてしまう場合だ。この場合おまえは無意識に自分が負ける場面を選ぶこともある。だからおまえは自分の想いを場面に投影すべきではない。ただ冷静に次の場面を選び取るべきなのだ」

「はい」

「これからおまえにそれができる心術を植え付けようと思う。目を(つぶ)ってただわたしがおまえの心に入っていくのを受け入れて欲しい」

「はい。お願いします」

蒼馬は座ったまま両目を閉じた。

天狗はそれを見つめてうなずき、彼もまた両眼を閉じた。

そして蒼馬の心になにかが流れ込み始めたのだった。

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