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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第20話 第2章「北の大崖と大橋と大壁と」その9

 ここまで読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます。

 2023年7月5日に微調整のような書き直しをしています。

 ”処刑場”ははじめ野原のような場所として描写したのですが、全面古びた石畳が敷かれた場所に変更しています。

 初版を読んでくださったみなさまには大変ご迷惑をおかけします。申し訳ありません。

 今後ともこの作品を楽しんで読んで頂ければ幸いです。

 昼下がりということもあって居住地域は静かなものだった。木造に白い漆喰の塗り壁が映える簡素な家が並んでいる。ここは常人たちの居住地域だった。北練井の街では少数派の蛇眼族たちは城の周辺に固まって住んでおり、この通りを蛇眼族が歩くことは滅多にない。

 そんな場所を代々北方総督を勤めてきた蛇眼族の姫が常人の友人たちと一緒に何気なく歩いている。

 ある意味奇跡だな、と蒼馬は改めて思う。

 鈴之緒一刹の寛容な政策と鈴之緒雪音の常人を一切差別しない態度、彼らが徹底して常人に蛇眼を使わないこと、そして比較的長く続いた平和がもたらしたものだ。慶恩の都がどういう雰囲気なのか蒼馬は行ったことがないのでわからなかったが、遠く北にある北練井は王都と関係なく今の雰囲気を保ち続けられたらいいのに、と思う。


 やがて一同は街の縁に着いた。

 旧市街の中を北の大崖に向かって歩いていくとやがてほとんど遺跡のようにも見える古びた石造りの旧市街外壁に突き当たる。

 大人の背丈の二倍程度の高さしかない外壁ではあるが、それがあるがため旧市街内部の人間は普段の生活ですぐ横にある大峡谷も前史文明の遺物である大橋も目に入ることはない。

 ただその外壁が一部切れているところがある。

 切れた部分には厳重に組まれた木の柵が設けられている。

 土と石でできた外壁と違って、木の柵には隙間があり、向こう側には古びた石畳が敷かれた広場を見ることができた。石畳の隙間からは雑草が伸び放題となっている。

 石畳の向こう側はいきなり切れて視界から消えてしまう。

 その先にあるのが北の大崖であった。 

 こちら側、つまり神奈ノ国の側の崖面は見ることはできないが、向こう側、つまり北方側の崖面はわずかに見える。

 垂直に切り立った、硬質な灰色の岩でできた崖面であった。

 柵の隙間からそのわずかな部分を覗き見るだけでも畏怖の念が沸き上がってくる。

 柵によって子供が行かないようにしているとはいうものの、何年に一度かは無鉄砲な冒険心を持った子供やふざけた若者が柵をなんとか超えて北の大崖に近付き、足を滑らせて恐ろしいまでに深い峡谷の底に落ちていく悲惨な事故が起こる。そうなると決して生きて帰ることはできず、遺体も見つからない。

 だから北練井に生まれ育つ子供たちがまず教わることは北の大崖に近付くな、ということだった。

「なぜこんな大峡谷がここにあるのか、考えたことはあるかね」

いきなり洞爺坊が語りだし、好き勝手におしゃべりをしていた生徒たちは黙り込んだ。

 洞爺坊は温厚で知られていたがそれでも蛇眼族の教師と常人の生徒、という絶対的な関係性はそこに厳然と存在していた。ただ幸いそういう関係性をわきまえない生徒がいなかったこともあるが、洞爺坊が生徒を叱ったことはあっても蛇眼を使ったことはなかった。

 成錬派なんだな、と蒼馬は思う。

「大昔、前史文明の時代よりさらに昔に起こった大地の変動が原因でできたと言われている」

 洞爺坊は白く長く伸びた(あご)(ひげ)を風になびかせながら、深い皺の刻まれた顔を穏やかに峡谷の向こう側に向けている。

「いまでも時々小さな地震が起こることがあるじゃろう?それのはるかに大きなものが大昔に起こり、この中津大島の北から四分の一ほどをすっかり分けてしまったのだな。だが、前史文明の人々はそれをつなげる技を持っておった。それが北の大橋だ」

 もう何度も教わったことだが、実物を見るたびに信じ難い気分に襲われる。

 洞爺坊が指差した先、柵の隙間から峡谷が見えているが、彼らから見て右手に、北の大壁に視界を遮られているものの大橋の一部分だけを見ることができた。

 白い、つなぎ目も見えないような巨大な構造物で、下の面は弧を描き、上の人が通る面は精密な平面を保っている。

 それが向こう側の崖面の縁に取り付き、向こう側の手つかずの大門の巨大な口へと道をつなげているのであった。

 いったい何千年あの姿を保っているのだろう。

 「大橋のほうには後で行くとして、まずはこの目の前の処刑場じゃな」

洞爺坊が視線を目の前の大崖に戻した。

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