第197話 第14章「国境越え」その3
蒼馬が離脱しても、他の一同は変わらず霧の立ち込める荒れ地の上を馬で進み続けた。
そして一同が霧の向こうに低い岩山を臨んだとき、甲高い鳴き声が霧の空を貫くのを聞いた。
「あの鳴き声はたしか…」
小三治が言う間もなく、一同の上を霧の空を羽ばたく巨大な影が覆った。
「龍鳥だ!」
鳥十郎が叫ぶ。
「イズクメ婆さん、あんたが呼んだのか?」
「違うよ!召喚なんぞしてない!」
イズクメが鳥十郎にぴしゃりと言い返す。
「それと名前に婆さんを付けるのは余計だ!」
巨大な龍鳥は岩山の上に降り立った。
「みなのもの、ごきげんよう」
と声がする。
一同は一瞬、龍鳥が話したのかと思った。
だが違った。
「わたしが龍鳥さまの代わりに話させてもらうよ」
と声がするので見てみると霧の向こうに声の主が見えた。
猿だった。いや、ヒヒといったほうがよいだろうか。
猿にしては大きな体に大きな顔、そこに七色の隈取りがされているように見える。
長い尻尾を立て、猿は四つ足で素早く旅の一同に歩み寄った。
「おまえが龍鳥さまの代わりに喋ってるのか!」
小三治はまたも素っ頓狂な声を上げた。
「失礼な!」
猿は怒って小三治に歯を向いた。
「龍鳥さまといえばお前たちの宗教、真叡教の教典にも神獣として描かれておるぞ!」
「その龍鳥さまがわたしたちに何の御用なのでしょうか?」
雪音が尋ねると猿はにっと笑ったように見えた。
「龍鳥さまがお会いになりたいのはまさにあなたなのです」
猿は言った。
「これも真叡教の教典に出ている、“おわらせるもの”について北練井の雪音姫と話したいとかで」
「ほら!俺の言った通りだ!」
小三治が叫んだ。
「雪姫さんこそ、教典に出てくる“おわらせるもの”なんだ!」
「まだそうと決まったわけではありません」
雪音は慎重に言った。そして猿に向き直る。
「龍鳥さまはわたしとだけ話がしたいのですね?」
雪音が尋ねると猿は
「さようで」
と頭を掻く仕草をした。
「よろしいでしょう。龍鳥さまのところへ案内してください」
雪音がそういうと猿は嬉しそうに飛び上がり、きいっ、と一度鳴いた。
「ではわたしについてきてください。他のみなさんは先を急いでもその先で雪音姫さまにお会いできるでしょう。そういうことになっておるのです。では」
と言うとまた尻尾を立て、四つ足で龍鳥が羽を休めている巨大な影に向かって走り出す。
かくして雪音もまた、残される旅の仲間たちに会釈をすると荒れ地の脇道を愛馬の風切丸に乗って七色の顔を持つ猿を追うことになった。
残されたものはただその背中を心配そうに見送るだけだった。
こうして蒼馬と雪音が旅の一行から離れることになったが、残された者たちはまたすぐの再会を信じて先を急ぐしかなかった。




