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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里


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第194話 第13章「リューロウ攻略戦」その3

コンロイ王たち十人ばかりの集団は馬を疾走させ、城塞都市リューロウの門まで到達した。

彼らは門を滑り込むように抜け、事前に最悪の場合の取り決めをしていた通り門番はすぐに門を閉ざし、巨大な(かんぬき)を渡そうとした。

しかしコンロイ王一同を追って来た侵攻軍の真の目的は王たちを捕えることではなかった。

実際彼らは矢の一本も放たなかった。そんなことをするのは労力の無駄遣いと判断したからだった。

その代わりコンロイ王たちが正門を抜け、門番が門を閉める前にかれら侵攻軍の騎馬隊が甲冑姿でそこに殺到し、それでも門を閉ざそうとした門番や兵士は騎馬隊に馬の上から斬られるか矢を放たれることとなった。

門は(やぐら)構造になっており、門の上や石壁の上から矢を放つこともできたのだが、騎馬隊に続いて殺到した足軽たちの大軍になすすべもなかった。

ここでも鎖国派(さこくは)たちの準備不足が(あだ)となった。

このようにしてリューロウの市街地へ侵入した侵攻軍は、堅柳(けんりゅう)宗次(そうじ)崇禅寺(すうぜんじ)武義(たけよし)の指揮で非常に秩序立った動きをみせた。

市街戦で兵士たちが単なる略奪者となってしまうことはよくあることだが、堅柳宗次と崇禅寺武義の軍に限っては普段の訓練が効を奏したのかそういうこともなく、彼らは正門の突破後ただひたすらにリューロウ中心部に立つリューロウ城の攻略に向かうこととなった。

侵攻軍はさしたる反撃もなくリューロウ城正門前に達した。

城の正門はさすがに閉めるのを間に合っていたが、そもそもリューロウの街の門があることを前提として、それほど堅い守りを設計された城ではなかった。

侵攻軍が閉め切られた門の前で慎重に距離をとっていると、やがて“壁の森”の大木の丸太をを切って作った門を突き破る装置を抱えた部隊が到着した。

さほど頑丈でもない門を突き破り、侵攻軍が城内になだれ込むのにそんなに時間はかからなかった。

侵攻軍は城内に侵攻すると迎撃する武士団との戦闘に入ったが、侵攻軍の方が圧倒的に多数であり、また蛇眼族の騎馬隊に対し彼らはほとんど“蛇眼破りの声”などといった反撃手段を持たなかった。

常人の武士である彼らはほとんどが蛇眼の餌食となり、蛇眼族の騎馬隊に斬って捨てられるか、後から来た常人の足軽の槍に突かれるか、なすすべもなく捕われ、捕虜になるかしかなかった。

堅柳宗次率いる蛇眼族の騎馬隊は素早く城の外を制圧すると馬に乗ったまま城内へとなだれ込んだ。

馬に乗ったまま、戦いを挑んでくる武士や兵士を長刀で()ぎ払って奥へ進む。

これ以上馬に乗れなくなると、馬から降りて戦い続けた。

アテルイ王国の兵士にとって致命的だったのは、かれらが蛇眼に対する対策を十分に行っていなかったことだった。

両眼を紅色に燃え立たせた侵攻軍の武士がひとこと

「おまえは動けない!」

というだけでかれらは凍り付いたようになるのだった。

ときおり、戦場の片隅から

「わたしの体

わたしの心はわたしのもの、

何人たりとも操れはしない…」

というように“蛇眼破りの声”が聞こえてきた。

ただその声はあきらかに少なく、また弱く

イズクメのような一種の“浸透力”に乏しくてあきらかに効力のひくいものだった。

そんな声でも滅多に聞こえなかったのだから、熟練した“蛇眼破りの声”の使い手がいかに少ないか知れようというものだった。

そんなわけで蛇眼族の騎馬隊はそんな抵抗を圧倒してしまった。

そして最終的に城の一室でうずくまっているコンロイ王を捕えるのにそんなに時間はかからず、その日の夕方までにほぼ状況を固めてしまっていた。

大勢が決した夜の一歩手前の時間、城の大広間を歩き回りながら宗次は言った。

「勘治よ」

同室にいた勘治は

「はい」

と心持ち弱い声で返事をした。

「お前が俺の蛇眼をとめたせいで、戦がひとつ増えたな。まあ良いが」

「はい」

気にしていることをずばり言われて、勘治はまた弱々しく返事をした。

「あそこで完全にコンロイ王を制御しておれば、このような戦は無用だった。そうだろう?」

宗次は言った。加えて、

「慶次郎が生きておればそれこそ即座に俺の意図を理解して好きにさせてくれただろうにな。まあこんなことを言っても仕方ないが」

と追い打ちをかけるようなことを言った。

勘治は黙って聞いていたが、ついに

「お言葉ですが」

と口を開いた。

「なんだ?」

宗次が怪訝そうに勘治を見た。

「大事なことは、」

勘治は話し始めた。

「アテルイ王国の民に我々が正当な統治者であることを知らしめることではなかったのしょうか。我々が圧倒的優位であることは自明の理です。ならなおのこと彼ら常人に対し約束を守ってやる必要があったのではないでしょうか」

宗次はじっと聞いていたが、ここで言葉を返した。

「わが父上もおまえと同じようなことを言っていた。そして北の大門を縄を使って登っているときに彼らの放った矢に射抜かれたのだ。思えば父上は愚かだった」

「宗次さま。父上のことを悪く言うのは…」

「違うか?正々堂々と戦う武人であることを重んじて、卑怯この上もない手段で殺されたのだぞ」

「お言葉ですが、宗次さま」

佐之雄勘治は低く押し殺した声で言った。

「あなたはそうやって親を批判しますが、やっていることは親よりずっと酷いです」

宗次はなおもじっと聞いているように見えたが、口を開いた。

「勘治よ。お前はやはり戦場には向かぬ男だ。道案内を付けてやるからこれから北練井に戻り、私が遠征をしている間、北練井の統治に専念することを命じる」

勘治はそれを聞くと顔を真っ赤にし、やがて涙ぐんだ。

彼は「わかりもうした」

とだけ言うと踵を返し、大広間から立ち去った。

宗次は黙ってただ勘治の後ろ姿を見つめていた。

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