第192話 第13章「リューロウ攻略戦」その1
二王国連合忍者団たちが出立したまさにその朝のことである。
リューロウ城は震撼に貫かれていた。
壁の森を抜ける地点にある隠し砦が急襲を受け、燃えさかっているとの報が早馬によって伝えられたのだった。
「どういうことだ!」
コンロイ王は王座に座ったまま立ち並んだ家来たちに吠え叫んだ。
「おまえたち鎖国派は神奈ノ国の侵攻軍は来ないと言っていたではないか!」
「しかし彼らは来たのですじゃ」
口を開いたのは史料編纂室長の老人・ニギルべであった。
彼は鎖国派でも開国派でもない、中道派とみられている。
危険を冒して蒼馬たちに忠告しに行った、あの老人である。
「かれらの軍勢はおよそ三万」
ニギルべは告げた。
「さんまん…」
コンロイ王は絶句した。
いままでの侵攻計画とは規模が違うし、かれらはすでに過去のどの侵攻計画のときよりアテルイ王国の深部に入り込んでいる。
「かれらは過去のどの侵攻計画のときより深く入っております」
ニギルべはコンロイ王の気持ちを見透かしているかのように言った。
「それというのも、過去三回の侵攻の時は我々も準備しておったからすぐ迎撃できたのですじゃ」
「そ、そうか…」
話を聞きながらもコンロイ王はうろたえを隠せなかった。
前の侵攻のときは彼の父親が国王で、彼にはおよそ戦の経験というものがなかった。
「結局過去三回とも神奈ノ国の侵攻軍は“壁の森”を超えることはできませなんだ」
老人は続けた。
「しかし今回は我々自身の内に敵がおりまする」
「…敵?」
「左様。徹底的な鎖国、交流断絶をおこない、情報を遮断するからいざというときに対応して軍事行動もとれない、鎖国派という敵にございます」
「それはあんまりな言いようですな!」
鎖国派の筆頭とみなされている、軍管理室長の文民の男が鼻を鳴らして言った。
「するとなんですか、開国派が王府にもっといれば今回の襲撃は防げたとでも?」
老人は彼の方をゆっくり向いて
「少なくとも類まれなる有能な武将であるセイリュウを謹慎させはしなかったでしょうな」
と答えた。
「おお、セイリュウか!」
コンロイ王は王座の上で太った体を揺らしながら叫んだ。
「彼の謹慎をすぐ解いて、軍を与え対応させよう。彼はいま自分の屋敷にいるのか?」
「彼は去りました」
ニギルべは静かに言った。
「形式上彼は亡命し、イカルガ王国が身元引き受け人になるそうです」
「なに?わしは聞いとらんぞ」
「謹慎からわれらが王国での地位剝奪まで、鎖国派が仕組んだことにございます」
「おまえは開国派か!」
軍管理室長は怒鳴った。
「おまえなんぞ、草原塩嶺と一緒に斬って北の大崖に突き落とすべきだったわ!」
「だがあいにくそうはなってなくてな」
ニギルべ老人がなおも静かに言ったとき、扉が勢いよく開き、伝令が飛び込んで来た。
「報告!」
伝令は叫んだ。
「神奈ノ国の侵攻軍は進撃を続け、現在我々の反撃も行われていない様子!かれらは間もなくわれらが王都リューロウに達する見込み!」
「なに?」
コンロイ王はたじろいだ。
「彼らがここに来ると⁈リューロウは門を閉めれば籠城できるが彼らは数に任せて包囲するつもりか…」
そのとき、開いた扉から伝令がもうひとり飛び込んで来た。
「報告!」
ふたりめの伝令も叫んだ。
「神奈ノ国の侵攻軍が王都リューロウを包囲!敵軍大将のケンリュウと申す者が国王との和平交渉を要求しており、われらが現場指揮官も対応について指示を要求しております!」
「門は固く閉ざしておるな?戦闘は避けよ。この美しい王都を血で汚すわけにはいかんのだ」
並ぶ家来は顔を見合わせ、次に恐る恐る王の顔を見た。
王はいらいらした表情をした。
そしてしばらく考えた後言った。
「その…使者を遣わすのだ。侵攻軍の大将に、わたしの身の安全を保証した場合のみ、交渉に応じるとな。もちろん、蛇眼も無しだ。“蛇眼破りの声”の使える者を同行させるのを認めさせろ。それと腕利きの剣士をな」
「わかりました!」
伝令は二人とも走り去った。
コンロイ王は顔色を悪くしてため息をつき、王座に坐り直した。
家来が心配そうに見やる中、王は言った。
「仕方なかろう。わしが交渉に応じるしか。それともなにか、この王都リューロウで籠城戦でもやるか?街が火に包まれるまで」
家来たちはあわてて首を横に振り、コンロイ王はいらただしげに王座を立ち上がり、
「さて、さっそく交渉の準備に入るか。服はこれで良いのだろうか?」
と近くの家来に尋ねた。




