第171話 第10章「逃避行」その6
ともに列島世界を旅してくださっているみなさま、
いつも本当にありがとうございます。
昨日に引き続き、夏休みスぺシャル?の3日連続投稿です(追記:その後確認したら1日空いてました。すみません)。
推敲に手間取って、小間切れですみません。
みなさまお読みいただければ幸いです。
それでは今後ともよろしくお願いいたします。作者・石笛 実乃里より。
雪音は蒼馬を抱きかかえ、彼がまだ高熱に苛まれているのを感じた。
そして同時に、周りにひたひたと押し寄せる霧をも感じていた。
霧はこの季節にしては生暖かい。
そしてなにか気配のようなものがする。
常人であれ蛇眼族であれ霧の領域に三日もいれば気がふれてしまう。
そんな言い伝えも思わず信じてしまいたくなるような気分になる。
小屋の扉の前で小三治が声をあげる。
「ヨルンバさん、いるのかい?ちと急ぎの用があるんだ」
すると小屋の中から老婆の声が返事するのが聞こえた。
「あい、わたしゃもう起きてるよ!まったくメイモクときたら余計なことしか言わないんだから!」
扉が開いて現れたのは小柄な老婆であった。
まるまった背中にぼろきれを継ぎ合わせたような着物をまとっている。
「ヨルンバさん、お久しぶり」
小三治も恩御姉もこの老婆と顔見知りのようで、ふたりとも微笑んで言った。
ヨルンバと呼ばれたいかにも呪術師風な老婆は蒼馬に目をやった。
「今日の目的はどうもその男の子のようだね?とりあえず中へ入りな」
老婆はまた小屋の中へ入った。
三人も蒼馬を抱きかかえながら続いた。
小屋の中は簡素なものだった。
寝床があって、部屋の隅頭の側に神棚が設けられてある。
古式の真叡教だ。
雪音は思った。
「そうさ」
老婆がいきなり雪音の心を読んだかのように口を開いたので驚く。
「蛇眼族がとりあげて勝手に作り変えた斎恩派でもなければ、ある意味それが産み出した袋小路を突き破るために生まれてきた成練派とも違うわな」
「そうなのですか」
雪音にはそれぐらいしか返せなかった。
「もっと古い、ほんとうの真叡教さ、われら霧の民が信奉するのは。蛇眼族のお嬢さん」
そしてヨルンバは蒼馬を見やった。
「とはいえ、宗教談義をするためにここにきたわけじゃないだろう、蛇眼族のお嬢さん。見たところこの常人の男の子はあんたの大事な人だね。そして常人の男に恋する蛇眼族のあんたはいい娘さんだ。われわれの味方だね?」
「もちろんです!」
雪音は老婆の洞察力に感服する間もなく叫ぶように言った。
「だからどうかこの男の人を助けてください!傷の手当てをしたのにどうしても熱が下がらないんです!」
「わかった、わかった」
ヨルンバは片手を振った。




