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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第153話 第9章「狂乱の炎」その16

北練井城(ほくねいじょう)では侵攻軍側が北方鎮守府側を制圧しつつあった。

天守閣の一角が王府の代理者である彼らの臨時の指令本部となっている。

佐之雄勘治(さのおかんじ)春日野慶次郎(かすがのけいじろう)、そして堅柳宗次(けんりゅうそうじ)の盟友である崇禅寺武義(すうぜんじたけよし)はそこにいた。

彼らの元には次々と情報が寄せられ、勘治と慶次郎、武義はそれに対して指示を出していた。

侵攻軍本隊に対し突然、しかも堅柳宗次が出撃し留守のときに起こった争いには度肝を抜かれた。

しかし城内では自分たちの勝利と制圧に終わりそうなことがわかり、臨時司令官の三人がほっと胸をなぜ下ろしているときだった。

北練井の街の情報が飛び込んできた。

蓮華之燈院(れんげのとういん)で勃発した白瑞源一郎(はくずいげんいちろう)の家来たちと僧兵団との戦闘はあっという間に外に飛び火した。

と言うのも、追い詰められたと認識した僧兵団の生き残りが寺を脱出し、近くの侵攻軍本隊駐屯地に逃げ込んで助太刀を頼んだのだった。

鈴之緒一刹を殺され逆上した北部の武士たちが逆上したまま侵攻軍の兵士の何人かを斬り捨てたのをきっかけに、北部の武士たちと侵攻軍の内紛としてあっという間に戦闘が拡大した。

北部の武士たちも他の白瑞家以外の北部諸侯の武士や北方鎮守府の武士に助太刀を求め、彼らがそれに応えたためにさらに戦火は拡がった。

最も深刻なのは北練井の常人たちが蜂起(ほうき)し侵攻軍に戦闘を挑んでいるという情報だった。

北練井の町民である彼らは自らの家から持ち出した家具などで即席の防壁をつくり、侵攻軍に対抗していた。

自分たちが慕い、信頼していた鈴之緒一刹を無惨に殺された知らせはなぜか街にすぐ伝わり、彼らの怒りは激烈なものだった。

それにしても不思議なのは彼らの組織的な行動だった。

北練井の常人たちの少なくとも一部はすぐに組織化され行動を開始した。

そして彼らのほとんどはさほど厳重でなかったといえ、禁じられていたはずの武器を手にしている。

長刀や弓矢を使っているのだった。

そしてさらに不可解なのは、彼らに蛇眼が通用しないということだった。

現場からの情報だと、侵攻軍の蛇眼族が蛇眼を使おうとしても、常人たちの陣から不思議な声が聞こえてきて、蛇眼が無効化してしまうとのことだった。

「蛇眼破りの声、だな…」

報告をきいた佐之雄勘治が呟く。

杖を頼りに立ち上がったのは春日野慶次郎だった。

「宗次様の懸念されていたことが起こっている」

慶次郎は言った。

「北方の忍たちが裏で手引きして、混乱を広げているのだ」

そう言うとかれは杖を頼りにびっこをひくようにして臨時の総司令本部を出て行こうとした。

「おい?どこに行く?」

佐之雄勘治と崇禅寺武義が思わず立ち上がって慶次郎に声をかける。

「もちろん、現場に行くのです」

慶次郎は答えた。

「誰かが指揮を執り、北の忍どもにたぶらかされた常人たちを(しず)めなければなりません」

「待て。お前のその脚では無理だ」

勘治と武義がまたほぼ同時に声をあげた。

だが慶次郎は杖を頼りに振り返ってかれらを見ながら

「宗次様は私を信頼して託してくださったのだ!」

と叫んだ。

「しかし私はその信頼を裏切ってしまった。このまま事態が悪化するのをただ指をくわえて見ているだけにはいかないのです。どうか行かせてください」

佐之雄勘治はため息をついた。

慶次郎の性格上、自分の説得は聞き入れないであろうことはわかっていた。

崇禅寺武義もそれを察したか、

「では私からも手練(てだ)れのものを何人かお前の護衛につかせる。決して無理はせぬように」

と無理矢理にでも止めることはしなかった。

「かたじけない」

慶次郎は一礼すると杖を突きつつ部屋を出て行った。

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