第148話 第9章「狂乱の炎」その11
よし。いいだろう。
蛇眼が使えないとなれば、直接的な武力で勝負するまでだ。
宗次は隣でしゃがみ込む@武士団のひとりに声をかけた。
「おい。大丈夫か」
「はい。なんとか」
武士団のひとりはいまだ飛んでくる矢を草地のなかでうずくまるようにして避けながら必死の形相で答えた。
「よし。よく聞くんだ」
矢を受けて倒れている自軍の屍たちを視線に捉えながら宗次は話した。
「おまえは武士団副長だったな?」
「はい」
「武士団長は戦死した。軍規によりいまはおまえが武士団長代理だ」
「はい」
「いま我々は待ち伏せされ、矢の嵐にさらされている」
「はい」
「だがもうすぐこの嵐は止む。それから敵の兵士が大挙して斬り込んでくる可能性がある」
「はい…やはり撤退ですか?」
「この状況では仕方ない」
「そうですな」
いつの間にか蛇眼の忍団首領である曾我蛇八郎が宗次の横まで這ってきている。
宗次は蛇八郎を睨みつけた。
「忍者に待ち伏せがわからなかったのか?」
「はい」
蛇八郎は率直に答えた。
「実際に私の若い部下がひとり殺られました。かなり手練れの集団と見受けられます。思えばすべてが仕組まれた罠だったのです。密輸業者の男含め我々は騙されていました」
この状況での蛇八郎の冷静な分析に宗次はいらいらしながら副長に話した。
「ともかく、この矢の嵐が終わるのを見計らって生き残った者はここを離脱するんだ。敵兵士が斬り合いに臨むかもしれんが、応戦しながら撤退する」
「はい。馬のところまで戻りますか?」
「かれらはずっと我らをみていた。きっと馬たちも見張りも今頃無事ではないだろう。森を出るのはもちろんだが馬たちがいなければそのまま走って橋を渡り、北練井に帰るんだ」
「はい。北練井に帰ります」
いまは臨時に武士団長となった副長は突っ伏しながら自分に言い聞かせるようにした。
そして不意に矢の嵐が止んだ。
二、三人の常人の足軽が無謀にもすぐに立ち上がって来た道を戻るように逃げ走り始めたが、かれらを狙って矢が飛んでくることはない。
それをみて宗次は、
「よし。いまだ。いけ。俺は最後に行く」
と副長の肩を叩いた。
副長は立ち上がり、
「撤退。撤退する!」
と大声で生き残りに指示を出すと先程の足軽たちを追うように走り始めた。




