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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第145話 第9章「狂乱の炎」その8

「やったわね!」

雪音は喜んでいた。

「はじめて蛇眼に勝ったわ!」

「…そうなんだ」

蒼馬は汗びっしょりで目の焦点も合わず、気の抜けた返事をした。

「もう!もっと喜んでいいのに」

興奮した面持ちのままふくれっ面をする雪音に蒼馬は横たわったまま、

「ごめん。まだこっちの世界に戻ってきたばっかりで頭がはっきりしてないんだ」

と説明する。

「ごめんなさい。わたしちょっと興奮しちゃって」

蒼馬の頭の右側に正座していた雪音は我に帰ったように謝った。

「いいよ。今日はすごい進歩があったんだろ?いままでは蛇眼破りが出来たとしてもあの蛇から逃げ回るばかりだったけど」

「そうね」

落ち着いた雪音は答えた。

「今日は反撃するところまでいけたわ。私たちの修練もきっと仕上げに近付いているのかもしれないわ」

「そうなんだ…」

蒼馬の胸中に複雑な想いが去来した。できればずっと雪音ちゃんと一緒に同じ目標を目指して修練していたかったのかもしれない。

蒼馬は自らのそんな想いにはじめて気が付いた。


そこは北練井の街からは離れた場所だったが、その北練井では蒼馬の願いである、ずっと同じように続く日常とはかけ離れた非常事態が起こりつつあった。


場所は蓮華之燈院(れんげのとういん)である。

層雲坊(そううんぼう)がどたばたと何かをひっくり返すような騒がしい音に気付いたのはその日の昼前のことだった。

駐屯している斎恩派(さいおんは)の僧たちだ。

層雲坊はすぐに気が付いた。

洞爺坊は寺にいない。

彼は最近、朝から北練井城に出向くことが多い。

老体にむち打って斎恩派の僧たちとぎりぎりの交渉を繰り返し、鈴之緒一刹らと今後の成錬派の在り方に関して話し合いを繰り返しているのだろう。

層雲坊は同行するときもあったが今日は留守番を頼まれていたのだった。

本来なら留守番するはずだったのは若い寺男の草原蒼馬であるが、彼は朝から寺院所有の農園で収穫作業の予定があった。

とはいうものの、本当は雪音とどこかで落ち合って一緒に“蛇眼破り”の修練もしているであろうことは洞爺坊から聞かされていた。

一度どう対応すべきか、層雲坊は洞爺坊に真剣に相談したことがあった。

洞爺坊の返答は、

「暗黙の了解として見て見ぬふりをするように」

というものだった。

そして層雲坊は洞爺坊に言われたままにしていた。

だから今日は蒼馬も寺にはいない。

いるのは層雲坊と、慶恩から来てこの蓮華之燈院に文字通り駐屯することになった数人の真叡教斎恩派の修道僧たちだけだった。

何やら胸騒ぎを抱え、層雲は音のする方向へ向かって廊下を小走りで動いた。

そこは書庫であった。

層雲が書庫に入って見たのは斎恩派の僧たちであった。

寺に駐屯する数人の僧たち全員がそこにいた。

そのうちの三人ほどがうずくまって板の間に開いた穴を手探りしていた。

本来本棚の置かれている床の部分である。

それは層雲も知らなかった仕掛けであった。

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