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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第14話 第2章「北の大崖と大橋と大壁と」その3

 いま北練井には学問所と呼ばれる教育施設が二つある。いわゆる“読み書きそろばん”、基本的な教養を与える場所である。

 基本的な教育なのだから、本来は皆そろって幼児から初めて成人するまでに終わらせるのが理想である。

 選民として常に恵まれた環境にいる蛇眼族は問題ないとしても、常人の側は現実そのようにはいかなかった。

 蛇眼族の命令により子供たちの親は決められた労働に従事し、決められた場所に住み、そして決められた場所に移動しなければならなかった。彼らの子供もそれについて行かなければならなかったから、彼らの教育はしばしば中断された。

 それに常人の大部分は貧しかったので子供たちまで働かなければならないことも珍しくなかった。そうすると初めから教育を受けられない子供たちも多く出てきた。

 これは蛇眼族にとっても都合の悪い話だった。

 蛇眼族は被支配階級とみなされる常人の反乱を予防するには、彼らを子供の頃から教育、というより洗脳するほうがずっと手間が省けることを知っていた。

 何度となく起こった反乱の後、蛇眼を使うのはあくまで最終手段としたほうが蛇眼族自身の安全が高まることに気づいたのだった。

 そんなわけで蛇眼族専用の学問所は幼児が初めて入学する初等、その後中等、高等学問所とあり、ほとんどの蛇眼族は年齢に応じて問題無く進学していった。一方で常人の子供たち向けには年齢に関わらず学力に応じて進級させていく単純な“学問所”が用意されることがほとんどだった。

 そして子供たちは卒業すると、それぞれの仕事に就いていった。

 北練井には二つ学問所がある、というのはひとつは常人、つまり普通の人間のためのそれと蛇眼族のためのそれがある、ということだった。

 ただ神奈ノ国全体の問題ではあるのだが、この街でも蛇眼族の人口減少は深刻な状況だった。蛇眼族のための学問所において生徒数は各学年数人しかいないような状況になっている。

 北練井首長であり、北方鎮守府の最高指揮官を代々兼任する鈴之緒家の現当主である鈴之緒一刹(すずのおいっせつ)は、かねてから北部の多くが信奉する真叡教成錬派が唱える、蛇眼族と常人との融和政策に賛同しており、この件に関しても文字通りの融和、つまり蛇眼族のための学問所と一般人向けの学問所の併合を提案した。

 が、いくら鈴之緒家を北部の蛇眼族諸家の頂点と認め、一刹に忠誠を誓っているとはいえ、さほど融和政策に積極的でもない北練井に住む蛇眼族たちにとって伝統を破る動きはかなりの拒否反応を引き起こした。

 ならば、というわけで一刹は自分の娘である雪音を率先して初等から常人向けの学問所に通わせる運びとなったのだった。

 もっともこれは雪音自身がかなり駄々をこねて幼馴染と同じ学問所に行きたがったという理由のほうがむしろ大きかったし、一刹の家来である賀屋六郎が陰に日なたに雪音の学生生活を見守っていく、という条件があってできることではあった。

 だから結局いまだに常人とともに学問所に通っている蛇眼族は鈴之緒雪音ただ一人なのであった。

 そんな鈴之緒雪音の幼馴染とは海野(うみの)(そう)()赤間(あかま)(こう)()、そして篠原(しのはら)加衣奈(かいな)の三人である。

 雪音を含む四人は他人が見れば呆れるほどにいつもべたべたとくっ付き合うように育ってきた。赤間康太は少年時代の一時期親とともに慶恩の都に引っ越していたが、父親を失う苦難の果てに北練井に戻り、また彼ら四人の関係は復活している。

 そんな彼らが通うのが北練井第二学問所である。

 ちなみに第一と名付けられているのが蛇眼族専用の学問所なのだった。

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