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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里


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第136話 第8章「侵攻の足音」その23

一方で北方鎮守府及び北部諸侯側は大多数の常人とごく少数の蛇眼族の将兵や兵士が加わり、土塁(どるい)の撤去作業は着実に進められた。

だが、よくあることだが、撤去作業はそれを増設する作業より手間取った。

結局夕方になって暗くなるまで作業は続き、あと2日ほどかけて撤去を完遂させる予定となった。

当初、遠征軍側が北練井の常人たちの作業も監督する予定であった。

だが、彼らは今日の作業が終わって疲れ、腹を()かした常人たちのために炊き出しの用意すらしていなかった。

途中、それに気付いた白瑞(はくずい)源一郎(げんいちろう)は怒り、急遽簡単な炊き出し場を設けることを命じた。

結局、常人の若い男衆は源一郎の鶴の一声のおかげで造設時と同じく、作業後に(わん)にいっぱい盛られた飯と、肉や野菜がいくらか入った味噌汁にありつけることとなった。

蒼馬と康太は自分の取り分と箸を受け取ると、土塁が取り除かれた部分の北の大門に近付いて行った。

そこならもたれかかって食事ができるし、大門の上にいる守衛が松明を燃やしているので明かりもとれる。

ふたりは白い北の大門にもたれるようにしてしゃがみ込み、食べていない方の椀を慎重に地面に置いて飯や汁物を食べ始めた。

蒼馬は何を話すでもなく、黙々と食べていた。

ふと、妙な音に気が付いて康太のほうを見ると、彼はしゃがんで味噌汁の椀を持ちながらすすり泣いていた。

「康太…」

蒼馬が驚いて声を掛けると康太は、

「俺は悔しいよ…」

と、小さく絞り出すような(うめ)き声を上げた。

「蛇眼をかけられたとき、俺は本当になにもできなかった。(あらが)うことすらできなかったんだ」

「ああ…」

それしか蒼馬には言えなかった。

康太はしゃくり上げるような声で続けた。

「自由を奪われて……でも常人とはいえ、俺たちは人間だ。普通のちゃんとした人間なんだよ。俺にしたって結婚したばっかりだ。大事な人がいるんだよ」

「そうだな」

蒼馬は思わず座ったまま尻を動かして康太に近付き、椀を箸と一緒に右手に持ちかえて、あいた左手で康太の背中をさすってやった。

椀の中の汁が少し地面にこぼれたが構わなかった。

「それなのに慶恩の都から来た蛇眼族の奴ら、俺たちを虫けらみたいに扱いやがって…かつて俺の親父もあんな風に扱われて霧の領域で死んじまったのと思うとさ…」

康太はすすり泣きながら話し続けた。

「なあ蒼馬…お前もそう思っただろ?蛇眼をかけられたときそう思っただろ?」

と蒼馬に問いかけてくる。

「あ、ああ、そうだな」

と答えながらも蒼馬は内心困ってしまった。

実はあのとき蛇眼にかかったふりをしていたんだよ、と言おうかとも思ったのだが()めてしまった。

相手が康太とはいえ、このことはまだ秘密にしておいたほうが良い気がしたのであった。

「楽観的に考えようよ、いつもみたいにさ」

蒼馬は康太の背中をさすりながらなんとか励まそうとした。


「慶恩から来た蛇眼族がとりわけ酷く感じられるのは俺たちが北部の常人だからさ」

「そうだな」

康太が鼻水をすすりながらうなずく。

「北部の蛇眼族といえば成錬派だ。洞爺坊先生や鈴之緒一刹さまをはじめとした…」

「そうだな」

康太が繰り返す。段々べそをかいていたのが落ち着いて来た。

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