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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第135話 第8章「侵攻の足音」その22

「ことのはじめから蛇眼を用いて常人を使役するのは蛇眼御成敗式目に反しますぞ!」

北方鎮守府側の大柄ないかつい容姿の武将が吠えるように言う。

蛇眼を赤間康太にかけた将兵はあきらかに()()の悪そうな顔をした。

その両眼からすでに紅色の光は失われている。

「そうでしたな」

侵攻軍本隊所属の将兵はもごもご言うと、気を取り直したように再び両眼を光らせた。

「おまえたちふたりを我が蛇眼より解放する」

その武将が唱えると赤間康太が文字通り解放されたようにはあっ、と息を吐き、その場にへなへなとしゃがみ込んでしまった。

蒼馬もあわててその真似をする。

いまは蛇眼にかかっていたふりをしなければならない。

しゃがみ込みながら上目使いで侵攻軍の武将をちらりと見てみる。

よかった。蒼馬は安堵した。

なんとかうまく(だま)せおおせたようだ。

「我々慶恩(けいおん)斎恩派(さいおんは)と北部の蛇眼族とでは、若干法や掟の解釈が違うようで…」

北方鎮守府側の武将の放つ裂帛(れっぱく)の気合に圧倒されながらも遠征軍の武将はなおももごもごと言い訳をした。

左様(さよう)

北部の武将は憮然(ぶぜん)とした様子で答えた。

「ここは慶恩の都ではなく北部。そして北部のほとんどは斎恩派でなく成錬派(せいれんは)だ。ここでは成錬派のやり方に従うのが妥当かと思われるがどうかな?。ここでやるべきことは我々もわかっているから、以後北練井の常人の指揮はわれわれに執らせて頂こう」

遠征軍側の武将はまだ口の中で何やらもごもご言いながら馬を返して遠ざかっていった。

彼が十分遠ざかってから、蒼馬はその北部の武将に頭を下げた。

「ありがとうございました。助けて頂いて。失礼ながら名前は存じ上げませんが…」

「私は(はく)(ずい)家の源一郎(げんいちろう)だ。鈴之緒(すずのお)一刹(いっせつ)の盟友である」

武将は答え、睨みつけるような表情を(ゆる)めて黒光りする兜の奥でにやりとした。

「おまえたち、ずいぶんと災難な目にあったな。だがこれからは安心するが良い。いまからおまえたちはどうやら私の管理下にはいるようだからな。後で色々言われるかもしれんが…」

源一郎は嫌悪感に満ちた表情で遠征軍の武将が去った方向をちらりと見やった。

が、すぐに蒼馬と依然怯えた様子の常人たちの集団に視線を戻すと馬上から、

「それでは皆の衆、早速仕事を始めたいから説明を聞いてくれ」

と声を張り上げた。

そうして蒼馬や康太たちの作業が始まった。

一方、侵攻軍側の兵士たちや人員はその場を離れてしまった。

それで何をしたかというと、蒼馬もあとで知ったのだが、彼らは北の大門の横にある処刑場を再建したのだった。

処刑される者を縛り付ける十字の杭を石畳に空けられた穴にあらたに入れ直したりしていたのだった。

侵攻で捉えた北の蛮族を見せしめのため彼らが北の大崖から見ることのできる場所で処刑するためだろうか。

それにしても殺伐とした軍用都市・北練井が戻ってきたようで不穏なことだ。

北練井の人々は翌日(ささや)き合ったものだった。

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