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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第134話 第8章「侵攻の足音」その21

「これからお前はここにある麻袋を向こうにまで運ぶのだ。この汚い、土の詰まった袋をな。全部、ここにある袋が無くなるまでだ」

将兵は両眼を紅色に光らせたまま康太に命じた。

「…はい」

康太はその両眼を必死の様相から虚ろで光を失った状態へと変え、夢現(ゆめうつつ)のように力なく返事をした。

将兵は視線を康太から蒼馬へ向けた。

「おまえはこの若造の友人か。お前にも蛇眼が必要なようだな」

蒼馬は自分の頭の中が例の“いやな感じ”に満たされるのを感じた。

そして悟った。

自分はいま蛇眼をかけられているのだ。

だが、蒼馬自身が驚いたのはそこからだった。

いや、厳密にはその驚いている自分自身すら蒼馬は冷静に観察していた。

将兵が馬の上から放った蛇眼は蒼馬の頭脳の中に一旦入って来たのだが、それを乗っ取ることはできなかった。

蒼馬はそれもただ冷静に観察していた。

そして蛇眼の忌まわしい力は獲物を獲らえそこねた蛇のようにそこから滑り落ちてしまった。

将兵の顔から薄ら笑いが消え、焦燥(しょうそう)が広がって行く。

そのとき、蒼馬の頭の中で光ったのは層雲坊の姿と声だった。

——蛇眼破りをいまは悟られるな。

層雲は昨日と同じく、蒼馬に訴えかけた。

そして蒼馬の脳裏には一瞬長い黒髪をなびかせた雪音の姿も現れた。

そうだ。

いま蛇眼破りを使えることがばれたら雪音ちゃんに害が及ぶ。

蒼馬は息をひとつ吐くと、わざと両手を体の脇にだらんと垂らした。

口をぽかんと開け、両目を虚ろに開く。

将兵は蛇眼を光らせたまま、安心した顔をした。

一度失敗した蛇眼が成功したと思っているのだ。

自分の放った蛇眼がうまくかかっているか失敗しているのか実感が伴っていない。

あきらかに程度の低い蛇眼であった。

やった。うまくだませた。

蒼馬がそう思ったときだった。

「なにをしている!!」

怒号に近い声が響き渡った。

これも簡素な甲冑をつけた別の武将が馬をいななかせながら駈け寄ってくる。

北方鎮守府側が配属した武将であった。

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