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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第129話 第8章「侵攻の足音」その16

前回、堅柳宗次率いる先遣部隊が北練井の中心を貫く大通りを入って行ったときには多くの人々が常人、蛇眼族を問わず道の脇に並び、それを見物した。

今回は違った。

常人、蛇眼族を問わず北練井の人々は自分の家にこもり、窓や戸口をわずかに空けてその隙間から、息をひそめながら黒い大蛇のような行進を見つめているのだった。

人々の恐れに満ちた視線を浴びながら、街の中心である北練井城前の広場に大蛇の頭が達するまでその巨大なうねりのような行進は続くこととなった。


その日から北練井の街の至る所に所狭しと天幕が張られ、兵士たちの野営場所で(あふ)れかえることとなった。

そして翌日からすべての作戦はその進行を加速させることとなった。

そこには明白な理由があった。

厳しい冬が近づいているのだった。

3万人もの大軍勢と大僧団を養うために、基本は慶恩の都、及び八家門の領地から細く長く兵站路(へいたんろ)を伸ばして引きずっていくように本隊は進軍して来た。

だが慶恩から離れるにつれ、食糧やその他物資の補給は文字通り細くなり、不足感が目立つようになってきた。

そこで当初の予定通り、北部の武家諸侯に援助を要請することとなった。

問題点は北部諸侯に準備が十分できていないうちの方針決定ということだった。

思っていた以上に斎恩派の色を押し付けてくることへの抵抗感もあり、北部諸侯からの支援が思った以上に十分で無かったのだった。

だからまだ食糧をはじめとした補給物資に余裕がある間、そしてさらに補給が必要となる冬が来る前に北方への侵攻を開始したい、というのが侵攻軍の本音ではあった。


一方で堅柳宗次率いる先遣隊も独自に侵攻計画を加速させていた。

手始めに蛇眼の忍団が見つけ出した北方人の隠れ里を攻撃し、そこを橋頭保(きょうとうほ)として間髪を入れず北方王国に攻め入る、という計画が立てられた。

宗次たちの秘密会議には崇禅寺(すうぜんじ)武義(たけよし)とその参謀たちも加えられることとなった。

その場に蛇眼の忍団は北練井で捕えた常人の密輸業者を連れて来た。

壮年のみすぼらしい男がへらへらした調子でにやついている。

何でも白状させてやる、と宗次は意気込んですぐに蛇眼を発動させた。

だが結果は拍子抜けしかねないものだった。

密輸業者の男は宗次にとっては軽めの蛇眼を掛けるか掛けないかの間に知っていることを全てぺらぺらと(しゃべ)り始めた。

命あっての物種、とでも考えているようだった。

そしてその内容は蛇眼の忍団が以前報告した内容と何ら変わるものではなかった。

つまり、その密輸業者の男自身が北方王国の手の者である可能性は否定されたのであった。

それならば、ということでその密輸業者の男から情報を得た蛇眼の忍団が水先案内人となり、“壁の森”の中にある北方の隠れ里を急襲、占領する計画が立てられた。

「隠れ里の規模と戦闘力からいって我が先遣隊だけで充分かと思われるが」

と宗次が簡単な現地の地図を目の前にして述べると、崇禅寺武義は

「まあそういう水臭いことを言うな」

と自分達も攻撃に加わることを主張した。

結局、北の大門の周辺に北方鎮守府が急ごしらえで作った土塁を除去した上で、堅柳宗次率いる先遣隊百名、そして崇禅寺武義自身は万が一に備え北練井に待機するものの本隊側から百名の計二百名で急襲作戦を行うこととなった。

圧倒的な攻撃となるはずであった。

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