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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第117話 第8章「侵攻の足音」その4

当然宗次たちの質問はその集落と密輸業者に関することに集中した。

蛇八郎は各質問に対し淡々と答えていった。

まず、その密輸業者だが、元はただの常人の猟師だった。それがほんの三年ほど前、北練井の街の市場で神奈ノ国側で獲れた肉や毛皮を売っていたとき、ある男から声をかけられた。

その男もやはり常人の密輸業者だったという。

今回捕まった男のいわば先輩というわけだった。

その男と意気投合した、捕まった男はすぐ一緒に密輸を始めるようになった。

北の大崖を超え、北芹(きたせり)(がわ)を渡って北方と行き来する(すべ)を教えたのもその先輩の密輸業者だという。

北芹河には大きく獰猛(どうもう)な肉食の両生類である“ミズトカゲ”が多く生息し、河底に潜んで獲物を待ち構えていると言われる。

ミズトカゲは北芹河だけに見られる生物とされていた。

だから常人も蛇眼族も、熟練した漁師や釣り人以外は用もなく北芹河に近付くことはなかった。

密輸業者たちは河を渡るいかだの底に秘伝の薬草を詰めた布袋をいくつか吊り下げた。それが河の水に()み出てミズトカゲを遠ざけるのだという。

そして向こう岸に着いてすぐ、捕まった男はその先輩の密輸業者に例の集落を案内されたのだった。

なんでもその集落はつくられてからそんなに年月は経っていないという。

森の中に以前からある石像のいくつかをたどっていけばその集落を見つけられる。

集落には合計二十人余りの常人、つまり北方人たちがいた。男が少し多かったが女も半分弱はいる。

先輩の密輸業者に言われて持参した塩や砂糖、鏡などを持参すると彼らは喜んでそれらと同等の価値と思われる量の毛皮と交換してくれたという。

皆が少し驚いたのは、北方人たちが方言のようになまってはいるものの共通語を話すという点だった。

もっとも、大昔に神奈ノ国から逃れた人々が北方に建国したらしいことを考えれば不思議な話ではない。

自分で狩ったけものを毛皮に加工して売るより、そうやって物々交換で毛皮を密輸したほうが楽で安定していて、そのうえ儲かった。

結局その捕まった男は先輩の密輸業者とともにしばらく北練井のはずれにある猟師用の住居である小屋と北方を行き来することになった。

そして男が蛇眼の忍団に捕まる少し前、先輩の密輸業者はあらたな密輸の流通路をつくるためだ、と言ってどこかに姿を消したという。

それから男は捕まるまでひとりで教えられた通り密輸に励んでいたというわけだった。

宗次は勘治や春日野慶次郎ら秘密会議の面々と黙って蛇八郎の話を聞いていた。

もっとも宗次はあきらかに不満げな表情をしていた。

蛇眼の忍団は常に王府、いや国王直轄の組織だった。

今回も彼らは北方侵攻軍の傘下には入っていない。

だから彼ら自身の活動に関しては、北方侵攻計画の最高司令官である宗次に逐一すみやかに報告する義務はない。

しかし、彼らは宗次たちへの協力を約束したのだ。

だったらこんな重要な情報はすぐに共有してくれれば良いものを…。

宗次はそう考えると腹が立ってくるのだった。

ともかく、いまは蛇眼の忍団の最も末端の子分のようになっているその常人である密輸業者の男をこの秘密会議に連れてくることは決定した。

そこで改めて重要な情報を確認するのが目的であった。

そしてまずはその集落を占領し、できれば捕虜もとって侵攻の橋頭(きょうとう)()とすることが目標となった。

それにしても、と宗次は胸にもやが湧き上がってくるような感覚に捉われた。

なにかおかしい。

なにか違和感がある。

なにか話が出来すぎているような気がする。

それも含め、その密輸業者の男を改めて蛇眼で尋問する必要がありそうだった。

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