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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里


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第102話 第7章「森の中へ」その17

ともに列島世界の旅をしてくださっているみなさま、いつも本当にありがとうございます。

またも投稿間隔が2週間と空いてしまいました。

どうも最近仕事の書類が溜まっちゃって…(←いつもの言い訳)

ここ北国もようやく涼しめの気候が目立つようになってきました。

だからもうちょっと投稿スピードを上げたいと思ってます(←ちょっと自信なさげ)

それではこれからもよろしくお願いいたします。作者・草笛 実乃里より。

「北練井に王府からの先遣隊が着いてから、もう何日も経ったわ」

「うん」

「彼らは本気よ。もうすぐ本隊が着くわ。いままでにない大軍勢で」

「…うん」

「かれらは開かれた北の大門を通り、北の大橋を渡って北方の王国を制圧するつもりよ」

「そうなんだ…」

「それだけじゃない」

雪音は言葉を続けた。

「私もお父さまも彼らが着いて以来いつも感じているんだけど、慶恩(けいおん)の都にいる王府の蛇眼族たちはわたしたち北部、北方(ほっぽう)鎮守府(ちんじゅふ)を中心にまとまっている蛇眼族たちを恐れているわ」

「それは…北部の蛇眼族が謀反(むほん)を起こすかもしれないって恐れてるの?」

蒼馬は雪音をのぞき込むようにして、小さな声でたずねた。

雪音は蒼馬の目をしっかり見ながら答えた。

「そうよ。慶恩の王府はわたしたち北部の蛇眼族が成錬派(せいれんは)の教えをよりどころとし、常人たちと協力して独立政権を打ち立てる、もしくは貝那留(かいなる)王朝と斎恩派(さいおんは)の打倒に立ち上がるんじゃないかと警戒してるの」

「そんな…」

「だから彼らは北方侵攻を口実にして、同時に成錬派を弾圧し、現王朝と斎恩派に服従しない北部諸侯も弾圧し始めるんじゃないかと思うの。堅柳(けんりゅう)宗次(そうじ)を見てるとそう思うのよ」

「それは…鈴之緒家も弾圧の対象になるかもしれないってこと?」

「その筆頭に挙げられるでしょうね。だって鈴之緒家は代々北部総督と北方鎮守府最高司令官職を兼任してきたのですもの」

「そ、それで…」

蒼馬はおずおずと尋ねた。

「僕はどうすればいいんだろう?」

そして大きくひと呼吸して言葉を継ぐ。

「その…もし、君が戦うとかそういうことになったときは……僕は君と一緒に戦いたいんだ」

雪音の顔には一瞬驚きが広がったが、そこからすぐに頬を紅潮させながら微笑みが広がっていった。

「ありがとう。そんなことまで言ってくれるなんて」

そしてすぐに神妙な顔つきに戻った。

「それで、つい昨日堅柳宗次から聞かされたことなんだけど」

と話を続ける。

「わたしとあなたとの関係を、王府の忍びが嗅ぎまわっているらしいの」

「ええ?」

蒼馬は面食らって素っ頓狂な声を上げた。

「おそらく、いざというときに私を服従させるための切り札みたいに考えてるかもしれないわ」

蒼馬は両手から脂汗がにじみ出てくるのを感じながら、再び同じ問いを繰り返してしまう。

「…それで僕は、どうすればいいんだろう?」

雪音はさらに体を蒼馬に寄せ、手を伸ばして着物の上から彼の腕に触れ、真剣なまなざしを向けた。

それだけで蒼馬は体が燃えるように熱くなった。

「ずっと前からお父さまと話し合って、進めていた計画があるの」

雪音は語りかけた。

「ど、どんな計画なの?」

唾を飲み込みながら蒼馬はきいた。

「真叡教成錬派の核心となる計画よ」

雪音は真剣な表情で語り続けた。

「成錬派は蛇眼族と常人との融和を説いている。斎恩派のような自然の摂理に反した血統維持計画を捨て、自然に任せるべきだと。それが蛇眼族たちをも解放し、自由にする道だと説いているの」

「…うん」

「でも、そのためには蛇眼族自身が蛇眼を放棄する必要が出てくるわ」

「うん…でも、そんなことできるの?すべての蛇眼族が蛇眼を放棄するなんて…」

「難しいわね」

雪音はわずかに苦しそうな微笑みを浮かべた。

「だから考えられる方法はひとつしかない」

「…それはなに?」

「ひとりでも多くの常人が蛇眼破りの心術を身につけるの」

「それはそうだけど…」

「あなたがそのはじめの人となるのよ」

「えっ?」

蒼馬はまたも素っ頓狂な声を上げてしまった。

「ど、どうして僕が…」

「さっき言ったでしょう」

雪音は真剣な表情で蒼馬の目を見つめながら言った。

「慶恩からの(しのび)があなたに目をつけてるわ。あなたはいざというとき、必要であれば蛇眼から逃れる術を身に着けるべきだと思うの」

「でも…」

「もちろん、あなたをひとりでそんな状況に(おちい)らせはしないわ。そんな状況になったときは、私たち北部の蛇眼族とあなたが一緒に戦うときよ」

蒼馬は雪音の言葉を聞き、少しうつむいてしばらく黙っていた。

泉をとり囲む森から聞こえる、微風が木々の葉を揺らすかすかなざわめきと小鳥たちのさえずりが織りなす音だけがふたりの耳に届いている。

「蒼馬くん?」

さすがに少し不安になった雪音が話しかけた。

蒼馬は顔を上げて雪音を見つめ、口を開いた。

「さっきも言ったけど、僕は雪音ちゃんが戦うとき、一緒に戦いたいんだ」

「ええ」

雪音は力強くうなづいた。

「でも、いまの僕にはなんの力もない」

「そんなことないわ」

「いや、そうなんだ。いくら武術をかじったところで、蛇眼の前では無力なんだ」

「…ええ」

「だから雪音ちゃん、僕に蛇眼破りの心術を教えて欲しいんだ」

今度は雪音が少しうつむいて黙る番だった。

顔を上げたとき、雪音は少し涙ぐんでいるように見えた。

「ありがとう…私の申し出を受けてくれて」

「だっていつもそんな感じじゃないか。君が一歩先にいてさ、いろんなことを提案する。僕は従うだけっていう…」

「そうかしら?」

雪音は思わず笑ってすこし口をとがらせた蒼馬を見つめ、目に溜まった涙を手でぬぐった。

そしてすぐに真剣な表情に戻る。

「私と父が一緒に開発した方法があるの。蛇眼族の一員だった成錬大師さまが生前常人の弟子に伝えていたと言われている方法を改良したものよ。蛇眼族が常人に蛇眼破りを習得させる方法なの」

「それは…北の大崖の向こうから伝わったものなの?」

「そうかもしれないわ」

蒼馬には思い出したことがあった。

「洞爺坊先生は昔、秘密の道を通って北の大崖を超えて成錬派のことを学んだって言ってたんだ。そのとき案内人をしてた僕の父親がいざこざに巻き込まれて北方の人間に殺されてしまったんだって」

「そうなの?洞爺坊先生が北方に行ったことがあるのは知っているわ。でもあなたの父親の話は知らなかった」

「ごめん。洞爺坊先生の許しがなければ言っちゃだめだと思ってたんだ。母親のことは知らないけど、それで孤児になった僕を洞爺坊先生が寺に連れ帰って育ててくれて、今に至るんだって」

「そうなの…」

雪音はしばらく黙って考え込んだが、微笑みながら口を開いた。

「わたしが鈴之緒家の秘密の場所を教え、あなたが言わなかった父親のことを教えてくれたわけね。これで二人の間に隠し事が無くなったとしたら、良いことだわ。これから心の交流をしなければならないのだから」

「心の交流?これからって、いまからってこと?」

「そうよ」

雪音はうなずいた。

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