第100話 第7章「森の中へ」その15
ともに列島世界の旅をしてくださっているみなさま、本当にありがとうございます。
第100話を投稿することができました。
これもひとえにこの作品を読んでくださるみなさまのおかげです。
私はいまある病気の治療・リハビリ、そして夏の暑さを乗り越えようとしています。
この物語を読んでくださるみなさまの中にも人生の困難な時期に直面されている方もいらっしゃるのではないかと思います。
そんな方にとってこの物語が励みになったり、一時気をまぎらわせて楽しませてくれる作品になるよう頑張ります(そのためにももっと早く書かないと…)
これからも共に旅をして頂ければ幸いです。 作者 草笛 実乃里より。
午前中の太陽が照るなか、堅柳宗次と蛇眼族の部下たちは麻袋の土嚢を積んで作った阻壁を乗り越えていった。
すでに乗り越えたことのある宗次と佐之雄勘治、そして体力自慢の十人弱の武士たちはさほど苦労もなく土嚢をよじ登り、阻壁の向こう側に降りた。
ただ勘治だけは年齢のせいか、息が荒くなっている。
彼らがいま立っているのは開かれた北の大門とそれを半円状に取り囲む阻壁の間にある狭い地面だった。
宗次は以前もそうしたように仁王立ちとなって大門の開口部から見える橋の通路を見据えていた。
はじめてこの景色を見る武士たちのなかには圧倒されたように黙って口をぽかんと開けている者もいる。
宗次は横に立つ勘治に視線を移した。
「では、まず私だけ行くぞ」
とこちらを向いた勘治に語りかける。
「さっきも言ったが、私になにか起こったら前に決めたようにしてくれ」
その言葉を聞いた勘治だったが、その後で絞り出すように、
「宗次さま…やはり私がお供するわけにはまいりませんか?」
と尋ねた。
宗次はそれを聞くといつものように不敵な笑みを浮かべた。
「いや、だめだ。もしわれわれ二人とも一緒にあの世へ行くことになったら堅柳家はどうなる?おまえには長生きしてもらって息子の泰賀と慶次郎が我々の後を継ぐまで面倒をみてもらわなければならんからな。わかっているだろう?」
「はい」
勘治は泣きそうな顔をしていた。
宗次は笑った。
「まさかお前がそれほど言い伝えを本気で信じているとはな。“橋”は通したくない者を火を吹いて焼き殺してしまうという…」
「だが“橋”は大昔に我らが塞いだ門をいとも簡単に開けてしまいました」
勘治は訴えた。
「しかも我らには全く正体がわからない、光の球で一瞬にして、です。それで職人たちが何か月もかかってするような仕事をしたのです」
「そうだな」
「わたしは…“橋”が怖いのです。前史文明の遺物が恐ろしいのです」
「そうか。しかし考えてみろ」
宗次は勘治の肩に手で軽く触れながら言った。
「どのように“橋”が事を成す時期を決めるか全くわからんが、すくなくとも我が父上がそれを渡ったときには何も起こらなかった。父上の軍勢はあきらかに北方侵攻を目的としていたのに、だ」
「はい」
「父上の侵攻は敗北に終わってしまったが、“橋”は父上とその軍勢を焼き尽くしたりしなかった。少なくとも“橋”は父上に味方したのだ」
「…はい」
「そして私は父上の息子だ」
宗次はそう言うと北の大橋の方へ向き直った。そして一度息を大きく吸うとそれを一気に吐き出すように声を張り上げた。
「北の大橋よ!」
宗次は橋に向かって叫んだのだった。
「堅柳宗矩の息子、宗次がいまおまえの上を渡る!父上が成し遂げられなかった北方平定のために!」
そして宗次は歩き出した。
北の大門を抜け、北の大橋の上に第一歩を踏み出す。
後ろに残された者たちはただ固唾を飲んで見守るだけだった。




