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蛇眼破り  作者: 石笛 実乃里
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第1話 序章「霧の領域」その1

 この物語の舞台となる”列島世界”が外界と隔絶されてからどれぐらいの年月、何千何百年が過ぎたのか正確に知るものはもう誰もいない。

 列島世界は四つの大きな島で成り立っている。

 北ノ大島、中津大島、南の大島と三大島が北東から南西へ斜めに連なり、もうひとつの沖ノ大島は最大の面積を持つ中津大島の南西の海岸に下部から寄り添うように位置する、大島の中では最小面積の島である。そして四つの大島の周辺には、それらよりはるかに小さな多くの離島が散在している。

 それら人が住まう世界より沖に出た海域は先史文明が終わった時を境に常に凶暴な存在へと変貌してしまった。船を迷わせあげくに難破させる”魔の海域”と呼ばれるものが出現したためである。

 魔の海域はただ数多く散在するだけでなく海の上を移動し、またその海域に入って来た船を破壊する巨大で異形の生物が多く泳いでいると言われてきた。

 魔の海域がそこを抜けて外の世界に出ようとする人々の冒険心や探求心を潰し続けたため、列島世界において人は陸地に(こも)って人生を送るのが普通となってしまった。


 だが、一方でその陸地にも“きりの領域”と呼ばれる大小の場所がいくつか存在している。

 その名の通り常に霧に満たされたその領域では、この世では見えるはずのないものが見え、聞こえるはずのない声が聞こえるとされている。

 そして実際に、この世にいるはずのないものがそこにいるのだった。

 海にも陸にもなぜそんな領域が存在するのか、その理由は様々に語られてきた。

 最もよく言われたのが、先史文明において人は行き過ぎた魔術や呪術を行使するようになり、そのために自らの文明のみならず、この世界の時間や空間の一部まで壊してしまった結果、そのような領域がいまだに残っている、というものだった。

そのためか人が不用意に霧の領域に足を踏み入れ、そこに長くいると一部の者を除き精神に変調をきたしてしまう。またいるはずのない異形のものに人が食い殺されることさえあった。

 だから人は霧の領域を非常に恐れた。

 そしてときに霧の領域はより不安定となり、拡がるような動きをみせた。

 そんなとき、現在の文明を(おこ)した人々、とりわけ彼らの宗教を支配する者たちは生贄(いけにえ)を捧げることで霧の領域によって自分たちが生活する世界が侵食されるのを鎮め、防ごうと考えたのである。

 霧の領域が人々にもたらす恐怖を考えれば無理のないことではあった。

 それは時代が代わり、人の世界を支配するものが(じゃ)眼族(がんぞく)と呼ばれる種族になっても続けられているのだった。


 この物語はその霧の領域、中津大島のなかで最大の、そして蛇眼族の統べる”神奈ノ国(かなのくに)”の首都・慶恩(けいおん)より最も近い霧の領域の中より始まる。


 弱い風が吹き、夕刻の霧が流れる。それと共に鈴を鳴らす音と人の声も流れてくる。

 儀式(ぎしき)(そう)と呼ばれる者が祈祷の言葉を唱えているのだった。

 霧のすき間から見えるのは十三人からなる一団だった。

 まず白い髭を長く伸ばした年老いた男がひとり。彼が儀式(ぎしき)(そう)なのだった。

 そして彼に付き従っている三人の若い女性で、彼女らは儀式(ぎしき)女人(にょにん)と呼ばれている。

 儀式女人は各々木の棒に鈴をいくつか取り付けた祭具を片手に持っており、歩きながら緩慢な拍子をとってそれを鳴らしているのだった。

 儀式僧と儀式女人は白に赤色や金色の布や糸で縁取りをした装束に身を包んでいる。正式な礼拝用の衣装であった。一方で紺色の粗野な着物で屈強な体を包んだ四人の男たちがいる。各人腰に長い刀と小刀を下げており、武士であることは明らかであった。

 そして武士たちが取り囲んでいるのは三人の男と二人の女だった。全員三十歳か四十歳代ほどの若さであったがそれにしてはやつれており、二人の男の顔には明らかに殴られてできたとしか思えない青紫色のあざがある。

 その五人は全員白装束であり、そして何より全員後ろ手に縛られ、その縛った結び目はさらに縄で一本に繋がり、その両端をそれぞれ武士が一人づつ握っているのだった。

 つまり彼らは囚われた者たちであり、これから生贄として捧げられる者たちなのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 最高に面白かったです! [一言] これからも追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!!
2023/07/09 16:26 退会済み
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