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 よく晴れた日曜日、ユージーンはショッピングモール内のカフェで昼食を食べていた。白いワイシャツに黒いスラックス、茶色の革靴。黒いセンター分けの髪の毛の上にはサングラスが乗っている。このカフェのチョコレートパフェを食後のデザートに食べるのがユージーンの楽しみの一つだ。

 チョコレートパフェを迷いなく注文して店員が去った時、目の前のブロンドの美女がクスクスと笑った。

「あんたみたいなやばい奴でもチョコレートパフェを食べるんだ?」

「ああ」

「ふーん。かわいい所あるじゃない」

「それよりこの前のサッカー選手、どうだった?」

「あんたの言った通りだったわ。ちょっとお尻を向けただけで夢中になっちゃってさ」

「だろ?」

 会話が進んでいる時、白いタンクトップのスキンヘッドの男が入って来た。首元や腕にびっしりとタトゥーが入ったその男は真っすぐこっちを見ている。

「あ? あれは確か……」

「アントニオのカルテルの一人よね。ウェブニュースで見た事あるわ」

 男が歩いて来る。男がユージーンの前に立つと周りの客が次々とテーブルを立ち、距離を取った。

「ユージーンてのはお前か?」

「そうだが。あなたはカルテルの方かな?」

「ああ。西部カルテルの幹部だ」

「それは会えて光栄だ。そんな大物の一人が私に何の用だ?」

「座ってもいいか?」

「どうぞ」

 女が立ち上がってユージーンの隣のテーブルに移動し、男はユージーンの対面に座った。

「フェルナンドっていう男を知ってるな?」

 ユージーンは少し考えてから答えた。

「ええ。ウンディーネのレストランで働いている男なら」

「よし。そいつがお前からレストランの金庫の情報を聞いたと言ってるんだがな」

 ユージーンは目を見開いた。

「私が? そんな馬鹿な」

「お前から聞いたと言ってる」

「出任せでしょう! なぜそんな事を私がしなきゃならないんだ」

 ユージーンは声を荒げた。男は鋭い目でユージーンを見据えている。

「お前からメールをもらったそうだ。お前のスマホの送信履歴を見れば分かると思うんだがな」

「送信履歴? 見てもいいですか?」

「見せろ」

「いやしかし」

「俺は見せろと言ったんだ」

 女は静かに自分の太ももに手を動かした。

「馬鹿な事は考えるなよ」

 女がビクッと反応して動きを止めた。

「俺は今日ウンディーネの命令でここに来ている。俺に銃を向けた瞬間この店の人間は全員死ぬ事になる」

「よすんだリンダ。分かった、見てください」

 ユージーンはテーブルに置いてあるスマホを手に取り男に手渡した。男はスマホを操作してメールの送信履歴を出そうとして顔を上げた。

「スマホにロックをかけていないのか?」

「面倒でね。私のスマホをいじる人間などそうそういないことだし」

「不用心だな」

 男がメールの送信履歴を指でスクロールしていくと、目当てのメールを見つけた。

「あった、これだ」

 ユージーンは驚愕した。

「み、見せてくれ!」

 確かにユージーンのスマホからメールが送信されていた。

「本当だ……。なぜだ? 私はこんなメールを送った記憶が無い」

「誰かが勝手に操作したとでもいうつもりか?」

 男の目付きが鋭くなった。

「ま、待て! 待ってくれ! 本当に知らないんだ! 三月十六日……? 待てよ? だとすると……」

 ユージーンは手帳を広げて確認した。

「その日はアントニオさんの屋敷に行った日だ!」


 アレックスはウンディーネの部屋でウンディーネの部下と打ち合わせをしていた。アレックスは腕時計を見てスケジュール帳を閉じた。

「では私はダニエルさんと打ち合わせがあるので失礼します」

「分かった」

 部屋を出ようとした時、ウンディーネの部下のスマホが鳴った。

「もしもし」

「ロドリゲスです。例の情報屋の件なんですが」

 部下のスマホから声が聞こえて来た。アレックスは聞こえないふりをして静かに扉を閉めると足早に自分の部屋に戻り、鍵をかけると椅子に座って指で唇をぐいぐいと動かしながら考え込んだ。


 ロドリゲスはユージーンのスマホを見ながら電話していた。

「ユージーンのスマホからメールが確かに送信されていました。しかしどうも本人が送った物ではなさそうです」

「どういう事だ?」

「送信した時間はアントニオさんの屋敷にいる間です。つまりユージーンは入口でボディチェックを受けた際にスマホをうちの人間に預け、その状態でダニエルさんに会っていたそうなんです」

「誰に預けたんだ?」

「アレックスです。ダニエルさんの秘書の。裏切者はアレックスです」


 アレックスはしばらく考え込んていたがやがて結論を出した。

「ピクシー、いるんだろ?」

 アレックスは誰もいない空間に向かって独り言を放った。

「聞こえないのか? まあいい、潮時だ。俺は抜ける」

 廊下からバタバタと足音が聞こえて来る。

「32のRSTUOの6だ」

 外で誰かが扉をノックした。

「聞こえないのか? 32のRSTUOの6だ!」

「それじゃ駄目だね」

 突然右から声がした。アレックスが右を見ると壁に置かれた来客用の椅子に黒髪の少年が足を組んで座っている。

「駄目? 何を言ってる早くしろ! 殺されちまう!」

 ノックの音が激しくなる。部屋の外からダニエルの声がした。

「アレックス! ちょっといいか!? 話がある!」

 ピクシーは涼しい顔でアレックスに言った。

「それはこの前マックスに使っちゃったんだよ」

「あ……!」

「彼はあれで限界だと悟ったからね。だからVIP用はあと一週間待たないといけないんだ」

「一週間!? くそっ! なんでそんな大事な事言わないんだ!」

「忘れてたのは君でしょー? まっそういう訳だから。頑張ってね」

 そう言うとピクシーは消えてしまった。アレックスは舌打ちすると急いで車のキーとカバンを掴んで窓から飛び出した。

「おいアレックス、早く開けろよ。ダニエル君の命令だろーが」

 ウンディーネが扉の外から呼びかけた。返事が無く、銃を持った男達が顔を見合わせると、ダニエルが頷き、男達は扉を蹴破って部屋に入った。

 既にアレックスの姿は無い。

「奴が逃げたぞ! 追え!!」


 アレックスは車に乗り込み、急いで敷地を抜け出した。が、すぐに連絡を受けたダニエルの部下の車が敷地から出て来てアレックスを追い掛けて来た。バックミラーに映る車の後部には銃座が設置され、そこに立っている男が機関銃でアレックスの車を狙う。

 アレックスは猛スピードでカーブを曲がると甲高いブレーキ音が響いた。しかし大通りに入ると機関銃の照準に入ってしまい、後ろについた車の機関銃が火を噴いた。

「うおおおお!!」

 銃による轟音の中、アレックスがハンドルを操作して蛇行しながらかわし、数車線を行き来しながら走行する。

 しかし素人の運転では限界があり、銃弾の雨をかわし切る事はできずに被弾し続けると車のボディやガラスが破損し、次のカーブでバランスを崩した車はスリップして歩道の花壇に乗り上げた。衝撃でエアバッグが発動してアレックスはその中に顔を突っ込んだ。

「くそっ……」

 アレックスは応戦しようとダッシュボードにある銃を手に取ろうと左手を伸ばした。割れたガラスの破片で左手からわずかに出血しているのが見えた。

「しまっ……」

 パキパキと音がして血液が棘状に伸びたかと思うと、車内でバアンと音がして血の槍が飛び散り、直撃したアレックスは力尽きた。

 後ろの車から降りて来た男達が銃を構えながらアレックスに近付くと、血だらけでハンドルに突っ伏しているアレックスを認めた。男達はアレックスの死亡を確認して助手席からカバンを持ち出し、中の書類を確認した。男達はウンディーネの部下に電話した。

「ありました。設計図です」

「よし。撤収しろ」

 ウンディーネの部下が通話を切ると、ウンディーネは縮こまってダニエルを上目遣いに見た。部下達がアレックスの部屋をあちこち引っくり返して書類などを調べている。

「ご、ごめんダニエル君。奴が裏切ったせいで設計図が盗まれちゃってそれで……」

 ダニエルは微笑んだ。

「まあいいさ。結果的に彼はマーケットに売られた設計図をわざわざ見つけ出してくれたんだ。探す手間が省けた。無事回収できた事だし、あとはうちのデータを誰かに渡していなかったか調べさせよう。さっランチに行くよ」

「う、うん」

 ダニエルはほっとしたウンディーネの肩に手を回して鼻歌を歌いながら部屋を出た。

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