表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

 満月の下、マックスは車を港の一角に停めてハンドルに手をかけたまま外を見ていた。カラフルなコンテナに囲まれているがここだけ少し開けている。左を見るとコンテナの間から夜の海が少しだけ見えている。海が近いからか少し夜は冷える気がする。それともビビッているのか……マックスは首を振って自分に喝を入れた後、ラジオのボリュームを絞った。

 マックスの車の前では腕や首に入れ墨が入ったディージェイの仲間が、それぞれ車を停めて銃を持って立ち、ディージェイが外に出るのを待っている。その数は外にいる者だけで十五人。車の中にもまだ何人かいるだろう。マックスの見知った顔もちらほらと見えた。

 マックスはディージェイの部下の銃に目をやった。少し年季の入ったアサルトライフルだ。マーケットで買った旧型なのだろう。この街には思春期に銃を手に入れ、そのまま成人しても愛用し続ける者も多い。世界に害をまき散らすこの街の片隅には、世界で余った銃を安く買って再利用する者達がいる。麻薬と武器、そのどちらにも仲介や運送を担う者が現れ、その高速道路や航路の通行料でカルテルが潤うとすれば、世界のあらゆる騒乱が彼らの資金源になるだろう。

 向こう側にも何台もの車が停まり、こちらの様子を窺うようにスーツの男達が銃を持って何人か立っていた。

 お互いが用意した車のライトで周囲は眩しいくらいに照らされている。助手席のディージェイが煙草をダッシュボードの灰皿に押し込んだ。

「じゃあ行って来る。エンジンは点けておけよ」

「分かった」

 ディージェイは銀色のジュラルミンケースを持って車を降り、近くの男に手渡した。

(映画みてーだ。本当にあんなケースでやるんだな)

 こちらの様子を見て、向こう側からも新たに三人のスーツの男が車を降りた。あれが取引相手のようだ。向こうの男も一人が同じようなケースを持っていた。中心の銀髪のオールバックの男がリーダーらしく、余裕を見せるためか葉巻きを咥えていた。

 ディージェイが腕時計を見た。時間だ。お互いのリーダーが両手を上げて近付いて行き、にこやかに握手した。まず銀髪の男が口を開いた。

「お互い穏便にいこう」

「もちろんだ」

「まず書類を確認したい」

「分かった。だが撮影は駄目だぜ、内容が売り物なんだからな」

「もちろんだ」

 銀髪の男が笑うと、隣の男が白い手袋をはめ、書類を取り出すと虫眼鏡を使ってチェックを始めた。

「彼のサインもあります」

「間違いないようだな」

 書類を封筒に戻すと、もう一人がジュラルミンケースを開けた。ぎっしりと札束が入っている。

「ご要望通り米ドルで用意した。確認してくれ」

「わかった」

 ディージェイの仲間が金を確認した。

「大丈夫です」

「よし」

「取引成立だな」

「いい仕事ができた、また何かあればよろしく頼むよ」

 銀髪は手を差し出し、ディージェイは握手に応じた。


 その時、彼等の右側で工具箱をひっくり返したような大きな音が響いた。

「ん?」

 彼等が目をやると、空に赤い巨大なコンテナが若干揺れながら浮いていた。揺れる度にコンテナの中身が動き、先程の音を立てている。そこにいる者達の誰もがコンテナを呆然と眺めた。

「何だ……?」

「おーい」

 コンテナの上から声がした。コンテナの上に白いワイシャツに黒いスラックス、金髪のセンター分けの男が片膝を立ててニヤニヤ笑いながら座っている。

「なあそれ現金かい?」

「あ……ああ? 何だ何やってんだお前?」

「へぇー。何で電子マネー使わないんだ? 重くねえの? それとも事情があるのか? うーん……」

 周りの者もようやく状況に慣れて来たのかドスを効かせて叫んだ。

「てめえ何してんだ! そこから降りろ!」

「あっそうか! 口座を凍結されると困る小物だから現金なんだな!」

 男は一人で納得して笑い出した。

「て、てめえナメんなコラ……!」

「お前ら俺のシマで何してんだよ」

 男の瞳が緑色に輝き出した。

「え……」

「情報通りだな、ウンディーネの所から商品が流れて来たって。書類かそれ? このシルフに断りもなく仕事しようなんて舐められたもんだな」

「う……あ……」

「グ……童話の住人達(グリム)……!」

「没収だ」

 シルフがコンテナの端を掴んでその場で横に一回転すると、コンテナが猛スピードで突っ込んで来て他のコンテナと激突し、ディージェイと銀髪の男を押し潰した。コンテナが壊れて中から鉄の資材がガラガラとこぼれ出た。

「う……うわああああ!」

「ディ、ディージェイ!! くそ!」

「ば……化け物がァー!」

 ディージェイの仲間が空にいるシルフに向かって発砲したが、シルフは鳥のように急加速して飛んで行き、弾丸はむなしく宙を切り裂いて行った。シルフは急降下して他のコンテナの陰に消えた。

 マックスはしばらく呆気に取られていたが、他のコンテナの陰からシルフの仲間である『塔』のメンバーが出て来るのに気付き、急いで車を降りてタイヤの横に座り込みボディを壁にした。

 横から『塔』の二十人がアサルトライフルを一斉掃射した。

「ひいいいい!!」

 マックスは車に背を預けたまま頭を抱えた。マックスの車のガラスが割れて車内に散らばった。仲間の数人が被弾して力尽き、生き残った仲間が応戦を始めた。銀髪の部下達も応戦し、『塔』対他の勢力という図式で銃撃戦が始まると、『塔』の男達も反撃により数人が力尽きた。

 シルフがコンテナを持ち上げて宙に浮き、ディージェイの仲間のマズルフラッシュに向かって投げ付けて来た。轟音と共にコンテナがあちこちに激突して人間を巻き込みながらひしゃげて粉塵を巻き上げる。

 綺麗に並んでいたコンテナの区域は、子供が積み木を崩したように死体を潰しながら乱雑に散らばった。

 マックスは震えながら這って行き、コンテナの陰に隠れると戦闘地帯からうまく抜け出す事ができた。

(な……何なんだよあいつ! 人間の腕力じゃねえぞ! 童話の住人達(グリム)ってマジで人間じゃねえのか?)

 シルフの力により追い詰められ、こちらの人数がどんどん減って来た。『塔』の人間が撃ちながらじわじわと間合いを詰めて来る。

(くっ……くそ! 死んでたまるか!)

 マックスは隙を見てここから脱出しようとチャンスを窺っていた。が、反対側は海だ。後ろは銃を撃っている敵がわんさかいて、ノコノコ出て行ったら蜂の巣にされかねない。車で前を突っ切るしか脱出する術がない。

(いざとなったら一か八か、海に飛び込むしかねえか)

 銃声にビクビクしながらコンテナの陰から敵の様子を見ていると、『塔』の男達の後ろから突然フルアーマー装備のサーベルを持った機動隊員が現れた。

「え?」

 機動隊員はサーベルで一人を斬り伏せた。仲間が気付いて後ろを見ると、暗闇に紛れて既に警察の機動隊が肉薄していた。

「サッ警察だ……ぐわあ!」

 『塔』の男達が警察に向かって発砲したが、防弾鎧に触れた瞬間弾丸は切断されてコンテナに着弾していく。警察はコンテナに隠れた敵もコンテナごと斬り捨てた。斜めに切断されたコンテナの上部がズズンと音を立てて落ち、砂埃が舞い上がった。

(なっなんだあのサーベル! コンテナごとぶった斬ったぞ!?)

 『塔』の男達は機動隊の不意打ちによってみるみる数を減らしていく。

(たっ助かっ……)

 マックスはコンテナから出ようとしたが、機動隊員は『塔』の男達が使っていた銃を拾うとマックス達の方に向かって撃ち始めた。

「ぐわああ!」

「ぎゃあ!」

 マックスは自分を攻撃する者が『塔』から警察に変わっただけだと悟った。マックスは再びコンテナの中に釘付けになってしまった。

 機動隊隊長のアルベルト・ファルブルが暗闇の中から現れた。

「ここにはいないか」

 周囲を観察するアルベルトの瞳はフルフェイス越しに白く輝いている。

(あ、あれが警察の童話の住人達(グリム)……!)

アルベルトは片耳を押さえて味方に無線で指示を与えた。

「シルフに怪しまれないよう銃声は切らすな。他の者は『塔』の処理を続けろ。俺はその間にシルフに仕掛けてみる」

「分かりました」

 アルベルトが闇に消えると、マックス側からは決してクリアできない射撃ゲームが開始された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ