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 市の東側、その南北を大きく二つに分ける二番通り。北側の通り沿いに中年夫婦が二人で営む小さなレストラン、ドリームはある。

 エリーが入店すると、ドアに付けられたベルがカランと鳴った。店内にはテーブル席が六つあり、その全てが埋まっていてそれぞれ週末の夕食を楽しんでいた。談笑の声と食器のカチャカチャという音が心地よく店内に響いている。

 中央右のテーブル席の女性がエリーに気付いて手を上げる。

「おーいこっちこっち!」

「ごめん遅れたー」

「いいわよ別に」

 店の主人と目が合い、エリーがジェシカがいる席を指差すと主人は笑顔で頷いた。

「ようエリー」

「調子はどうマックス?」

 黒いダウンジャケットに金のネックレスといった分かりやすいストリートスタイルを意識したマックスは芝居がかった動きで親指を立てた。

「バッチリさ」

 マックスの隣に座っている姉のジェシカはマックスの動きにうざったそうに鼻息を鳴らした。もう一人、マックスの向かいに座っているトムは笑いながらフォークで料理を一口運んだ。

 エリーはショルダーバッグの紐を握りつつトムの隣に立った。トムが笑顔でエリーを見上げた。

「やあ」

「ハァイ」

 エリーは挨拶を交わし、一秒程見つめ合ってからトムの隣の席に座った。ジェシカはパスタを食べながらメニューをエリーに渡した。

「ほい」

「ありがと」

 トムはエリーにメニューを見るスペースを少し空けながら話しかけてきた。

「打ち合わせはどうだった?」

「いい感じよ」

 エリーは髪をかき上げてからメニューから目を上げるとトムと見つめ合った。ジェシカとマックスはそんな二人を見て肩をすくめ、下唇を出した。

「そろそろ何食べるか決めたら?」

「あっごめん」

 四人は取り留めのない会話をしながら食事を楽しんだ。

 ジェシカとマックスはエリーの幼馴染みで昔からの付き合いだ。トムとは仕事先で出会ってそれから付き合い始め、時々こうして四人で一緒に食事をしたりするようになった。

 やがてマックスのスマホに着信が来た。

「ディージェイからだ」

 ジェシカは顔をしかめた。

「あいつ嫌い」

「そう言うなよ。色々付き合いがあるんだからさ……もしもし」

 マックスは立ち上がると話しながら店を出て行った。エリーも心配そうに外で会話するマックスを見ながら言った。

「あんまりああいう連中と付き合わないほうがいいんじゃない?」

「そう言ってるんだけどね」

 トムはコーヒーを飲みながら黙っている。やがてマックスが戻って来ると、カバンを持った。

「頼みがあるんだってさ。ディージェイの所に行って来る」

「今から?」

「ああ。じゃあなエリー。トムも」

 トムはマックスと握手した。

「気を付けて」

「ありがとよ」

 マックスが出て行くとジェシカが呟いた。

「大丈夫かな」

「え?」

「いや、今から来いだなんてロクな用事じゃないわきっと」

「そうね……」

 なんとなく空気が重くなった。

「ごめん。そろそろお開きにしよっか。私も明日早いし」

「ああうん」

「分かった」

 店の外でジェシカと別れると、トムが口を開いた。

「僕のアパートに来ないか?」

「ええ、そうね。いいわよ」


 大音量の音楽が流れるクラブの店内をマックスが進んで行く。数人の知人と挨拶しながら奥に進むと、大きな扉の前で護衛に止められた。マックスはボディチェックを受けた後個室に入ると、音楽が聞こえにくくなる。奥のソファーにはスキンヘッドにサングラスをした男が店の女をはべらせながら座っていて、マックスに気付くと笑顔を見せた。

「マックス。急な頼みだったのによく来てくれた」

「気にすんなよディージェイ」

 ディージェイは立ち上がるとマックスと抱き合って挨拶した。ディージェイが来ていた黒い革のジャケットのファーが首元に触ってくすぐったい。

「皆ちょっと席を外してくれ」

 部屋にいた女達は頷いて部屋を出て行くと、マックスに座るように勧めた。

「何か飲むか?」

「ああ。いや、じゃあ麦茶でいいや」

 ディージェイは麦茶をグラスに入れて渡した。マックスが一口飲むとテーブルに静かに置いた。

「それで話って?」

「お前はよくやってる。イベントは必ず手伝ってくれるし使いっ走りみたいな仕事も嫌な顔せずこなしてくれる。それに何より……」

 マックスが腕を広げると二人でタイミングを合わせた。

「運転が上手い」

 ディージェイは笑って続けた。

「そうだ。それで今回はお前においしい話を用意した」

「おいしい話?」

「ああ。三日後の夜、港でヨーロッパの連中と取引がある。その運転手をお前にやって欲しい。取引の間、お前は車の中で待っててくれ。終わったら俺を送り届ける」

「それで終わり?」

「そうだ。楽なもんだろ」

「でもそれって……何かやばい物を取り引きするのか? 大丈夫なのか?」

「何もヤクを売ろうってんじゃない。マーケットから流れて来たどこぞの書類だ。書類の詳しい内容は俺も知らない。ただ企業秘密ってやつも商品になるからな……心配すんな、新しい取引相手だから気心の知れたお前に運転して欲しいだけだ」

「そうか」

 マックスは麦茶を一口飲んだ。

「分かった、やるよ」

「決まりだ。よし、乾杯といこう」

 手をパンパンと叩くと女達が戻って来た。

「今夜は楽しんでいけ。俺のおごりだ」

 女達の中から、マックスと目が合った金髪の美女がニッコリと微笑みかけた。


 カラッとした昼下がり。アルベルトは捜査員達に混ざって冷房の効いた会議室の椅子に座っていた。広い会議室には三十人程が詰めている。今回の会議には警察署長も出席している。会議室はスライドを見る為にカーテンを引いて少し暗くしてあった。

 捜査員がマイクを持って立ち上がるとスライドに写真を乗せて話し始めた。

「先月セントラル空港で撮影された写真です」

 写真にはオールバックのロングヘアの黒いスーツの男が映っている。若い女性と腕を組みながら飛行機から降りる所だ。

「マルチネスか」

「はい。コロンビアの実業家です」

「何しに来たんだ? 観光か?」

 一同から笑いが起きた。

「先日マルチネスがロシアから大量に武器を買い付けたという情報を入手しました。その後カルテルの一つ、『塔』のメンバーと都内のホテルで密会しています」

 署長が眉毛の上を掻いた。

「『塔』というと……シルフがいる所だったか」

「はい。ここの所おとなしくしていましたがどうも今回は突発的な動きのようです。慌ただしく動き出したので捜査員が追跡するのは簡単でした。情報を得てそれに反応するように武力の増強を図っています」

 別の捜査員がマイクを受け取って話を続けた。

「それとこれは別の線からなのですが、明後日の夜に港で取引が行われるそうです」

「ふむ」

「ウンディーネに関係のあるレストランが襲撃され、金庫の中身を奪われたと報告が入っています。時期的に見て、もしかすると商品はその中身かもしれません」

「待て待て! すると何か? ウンディーネに関係のある商品の取引があって、そこにシルフが割って入るっていうのか?」

 一同がざわついた。

「どこの馬鹿だそんな取引をやらかそうとしているのは!? ウンディーネはその事を知ってるのか?」

「それは……どうやらまだのようですが」

「すぐに取引の情報を集めろ。想像通りならまずい事態だぞ。それとシルフだ、奴を捕らえるチャンスかもしれん。すぐに強襲部隊を編成しろ。アルベルト、頼めるか?」

「お任せください。私も出動します」

「無理に生け捕りにしなくてもいい。君のノームの力を使って全力で戦え、いいな? ……よし、では皆、仕事にかかれ」

 捜査員が書類を持って立ち上がり一斉に動き出した。

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