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透迷  作者: 柏餅
第Ⅰ章 色も歩けば
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1-02

 秘密にしたことはなにか理由があるのだろうと踏んで特に突っ込まなかった。


 レベルについてはなんとなくわかった。まだそれをどうやって上げるのかとかは不明なままだが、それはひとまず置いておこう。もう一つの疑問の解消が先だ。


「じゃあもう一つ質問。僕を待ってたって言うのはどういうこと?」

「レベルを上げればわかる。それが弱色症のパンデミックが起きてる今に繋がるんだ」

「へぇ」


 どういうふうに繋がるのかはわからないが負の〈色〉が重要なのだろうと勝手に納得した。


「じゃあ早速レベルを上げに行こうか」

「え、危険なんじゃねえのかよ」

「大丈夫。レベルⅠだと1.6%程度しか解放しないから」

「ちなみに僕は63%くらい解放してるよ」


 何を基準にレベルを決めてるんだろうか。


「レベルⅨでそれってことは二十くらいがマックス?」

「いや、レベルⅩが最大だな」


 本当に何を基準に決めてるんだか。そこでもう一つ、さっきの疑問を口にする。


「ってかレベル上げってどうやるの?」


 この問いには橙山が答えた。


「レベルⅠに上げるのは他よりちょっとコツがいるんだよね。だからさ──」


 そう言いかけたところで金子が待ったをかけた。


「マスは手加減ってを知らないからダメだ。私がやる」

「ちぇっ。まあ先輩が言うならおとなしくそうしますよ」


 話が見えてこない。


「レベルⅠにあげるのは半分無理やりみたいなもんだ。だからシノ、私と戦え」

「は?」


 ナチュラルにそんな声が出た。急に戦えと言われても俺は喧嘩なんてしたことがないし、運動神経だって良いわけじゃない。だからそんなこと言われても困るだけで──とか思っているといきなり殴りかかってきた。


「っぶな」

「おお、避けた!東雲っちやるね!」


 橙山は何故か嬉しそうだ。本当になんでだよ。

 突っ込んでいる暇もなく次の攻撃が繰り出された。そもそも会議室ここでやっていいのか?


 避けようとするが間に合わない。そう感じてとっさに防御の姿勢を取ったが、呆気なく吹き飛ばされた。


「いってぇ」


 壁に思い切り叩きつけられた。背中がかなり痛む。一体どんな力で殴りつけてるんだか。


「立て。痛いのは我慢しろ」


 まるで楽しんでいるかのような口調で金子は言った。我慢しろって言われたって痛いもんは痛い。こんなにも大変だったのか、レベル上げとやらは。


「頑張れ〜!東雲っち」


 応援されても痛みで思うように体が動かない。ギブ……


「ギブアップはさせねえぞ」


 その声とともに金子はこっちに突進してきた。俺はガードをする気力が残っておらずフラフラと片手を差し出すだけしかできなかった。


 ああ、骨折する。直感でそう思った。次の瞬間俺は──。


「え?」


 素っ頓狂な声を上げたのは俺の喉だった。金子の重い攻撃を受け止めていたのだ。

 その瞬間、金子がニヤッと笑った。


「成功だ」


 つまり俺は、


「これでレベルⅠになったってこと?」

「そういうことだ」


 意外とあっさりだった。それでも殴られた所はかなり痛む。半分無理やりっていうより全部無理やりな気がしたのは気のせいだろうか。


「気のせいじゃないぞ、全部無理やりやった」

「は?」

「本当はもう少し段階を踏むんだけどな、それだと時間がかかるから今回は無理やりレベルを上げた。いやー、賭けだったなぁ」


 いや賭けなのかよ、最悪だ。すると橙山がおもむろに財布の中から五千円札を取り出して金子に渡しやがった。本当に最悪だ、この人たち。こういうのの相場って大体一万円じゃないのか。


「今日の夕飯は僕の奢りです」


 橙山は悔しがったような声で言った。


「ラッキー♪」


 語尾に音符でも付いてるのかっていうくらいニッコニコで金子は言った。警察に通報してやろうかな。

 その様子を呆れて見ていた俺は「はぁ」とため息をついてから言う。


「これが俺の能力でいいのか?」

「そういうこと。まずは一つ目だな」

「え、一つ目?」


 ということは能力は一人で何個も持っているものなのだろうか。そういえばさっき橙山が応用してるとかなんだとか言っていたような気がする。


「まあレベルが上がればそのうち分かるよ」

「なんかそういうことばっかりな気がするけど」

「そう慌てるな。さて、君の能力は『抹消』ってところかな」


 だからあの攻撃の勢いを殺せたのか、と納得した。だが、灰色で抹消のイメージは全然湧かない。それをそのまま口にすることにした。


「灰色で抹消のイメージ湧かないんだけど……。そういうもんなの?」

「んー。僕なんかは橙色で『明炎』だからなぁ……。まんまだし」


 人によるのだろうか。とはいえ扱いやすいのか扱いにくいのかよく分からない能力だ。そしてますます金子の金色がどんな能力なのか気になってきた。自ら最強を名乗るくらいだからとんでもなく強いのだろう。


「さ、無事に能力も覚醒したしレベルⅠに上がったことだし飯でも食べに行こうか」


 金子は五千円札をヒラヒラさせながら言った。


「今日は私の奢りだ!」

「僕の金ですけどね」


 なにやら豪華そうなものを食べに行くような雰囲気だが五千円程度で三人分賄えるのだろうか。そう思ったがお腹も空いていたのでおとなしく奢られることにした。

 高級料亭などに馴染みは一切ないが、まあ何とかなるだろう。一抹の不安を抱えつつも「さあ行くぞ」と会議室を出ようとする金子の後を急いで荷物をまとめて追うのだった。


   *   *   *   


2022年 #i、レベルⅠに覚醒


   *   *   *   


 夕飯は橙山の希望でうどんになった。せめて食べるものは選ばせてやるという金子なりの優しさらしい。道中の会話では終始金子が橙山を弄っていた。


 その輪にまだ馴染めていない俺は考え事をしていた。一応弁明しておくが俺は来て初日、というかまだ数時間程度だ。つまりこのノリに馴染める方がおかしい。


 閑話休題。さて、考えていたことだが、プロジェクトiの「i」についてだ。どこかで聞いたことがある気がするのだ。そりゃ、英語の勉強をしている時にiはいっぱい出てくるがそういうことじゃない。

 このiが一体何を意味するのかが気になった。金子からは、結局〈色〉のレベルと能力についてしか詳しく説明されていないから、例えばどういう薬を作ろうとしているのかとか、なぜ俺が待たれていたのかといった重要なことが一切わかっていない。結局俺の中で金子や橙山が怪しい人たちだという事実は変わらなかった。そんな怪しい人と行動しているのは如何なものかと自分でも思うのだが、バイト先の店長からクビを宣告されたためもうどうにでもなれの精神だ。人は失うものが無くなると強いというのはデマじゃなかったらしい。


 色々濃すぎる一日で本当に疲れた。ご飯くらい気楽に食べよう。そう思った時だった。そこであることを思い出した。


「あ、そういえば」

「ん、どうした?シノ」


 金子が俺の声に反応した。俺は金子の目を見てその思い出したことを告げる。


「俺まだ叔母さんに会ってないんだった」


 本当に濃すぎて頭から飛んでいた。ごめん叔母さん。夫に逃げられたり、今回の俺の騒動に巻き込まれたりつくづく不憫だ。震災の日から今まで育ててくれた恩は絶対忘れないからどうか許して欲しい。本人に言わないと意味が無いが。


 そんなことを考えていたら金子が予想外のことを言ってきた。その言葉に俺は耳を疑った。


「大丈夫、あの人も能力者だし『i』の一員だ。ウチの班じゃないけど」

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