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透迷  作者: 柏餅
第Ⅰ章 色も歩けば
2/6

1-01

 俺は金子と名乗った女と吹き飛ばされた男たちを交互に見ていた。そして「金子さ──」と言いかけた時、口を指で抑えられた。


「苗字は嫌いなんだ。同い年(タメ)だし下の名前で読んでくれ」


同い年と言われても見た目が年上なのでいきなり名前呼びはハードルが高い。せめてさん付けで許されてくれ。


「……彩華さん。何で俺の名前を知って……?」

「私たちは君を待っていたんだ。東雲透くん」

「全然答えになってないんですけど」

「敬語外していいぞ。言っただろ?同い年(タメ)だって」


口調が圧倒的に年上のそれなのでいきなりタメ口もハードルが高いが、向こうがそうしろと言っているし大人しく従おう。


「じゃあそうするけど。待ってたっていうのはどういうこと?」


 少し悩んだ様子を見せて金子は口を開いた。


「東雲透くん。君のカラーコードは?」

「透過持ちの灰色の《色》#888888-だけど……それがなんか関係あるの?」

「大いにあるよ。君はまだレベルⅠにすらなってないし」

「レベルⅠ?」

「細かい事はあとだ。私について来れば大体わかる」

「助けてくれたのはありがとう。でも色々と怪しいが過ぎる」


 そう、ずっと怪しいのだ。自分のことを世界最強だとか言っていたところも含めて。


「悪いようにはしない。どうせこれからニートだろ?」

「っな!」


 どうしてこう、この女は何でもかんでも知っているのだろうか。


「安心しろ。君の叔母にも一緒に来てもらうし既に事情は説明してある」

「証拠がないし、まだ立場を隠してる。信用できない」

「証拠ならあるよ。ほら」


 そう言いながら金子は叔母と一緒にピースをしている自撮りを見せてきた。どうしてこんなにノリが良いんだ、この人たちは。そう半分くらい呆れていると彼女は続けた。


「私はプロジェクトiの幹部だ。君にはこれから私の班に入ってもらう」

「プロジェクトi?」

「いちいち疑問は尽きないだろうがまあついて来れば全て説明する」


 そう言いながら金子は手を差し出してきた。


「さあ、どうする?ニートくん」

「この手を取ればニートじゃなくなるのか?」

「もちろん。報酬金は払う」


 俺は金子の手を取って告げた。


「じゃあ訂正しろ。俺はニートくんじゃない」


   *   *   *   


2020年 プロジェクトi、始動

2022年 元総理大臣を銃撃する事件が発生


   *   *   *   


 朝のニュースでは今日一日中曇りだと言っていた。しかし、金子に案内された場所に着いた頃には既に晴れていた。時間にして六時半くらいだろうか。夏だからまだギリギリ明るい。

 案内されたのは二十三区内のオフィスビル。俺が住んでいた東京郊外から電車で一時間くらいの場所だった。


 少しでもお金を無駄にしまいと、自転車で行けないところには遊びに行ったりもしたことがなかった。それもあってか、多少ワクワクしていた。


 金子が歩いていくのを後ろからついていると、会議室のような場所に着いた。扉が閉まると同時に金子は口を開いた。


「ようこそ、東雲透くん」

「いつまでフルネーム呼びなの」


 俺は持っていたカバンを置きながらそう尋ねた。


「んー、じゃあシノでいこう」

「まあ、なんでもいいや」

「君にはこれからレベルを上げてもらう」

「プロジェクトiってゲーム開発か何かなの?俺ゲームはめっきりやったことないんだけど……」

「いや違う。目的は薬の開発だ」

「薬とレベルになんの関係が……」

「それはこれから説明する。だから今から私の質問に知ってるか知らないかで答えてくれ」

「わかった」


 一応中学の友達に教科書を借りたり、図書館を使って勉強したりしていたから高卒認定を合格できるくらいの学力と常識はあるはずだ。


「じゃあ行くぞ。〈色〉は生物の体を構成する物質一つである」

「知ってる」

「〈色〉は通常『color(カラー) code(コード)』と呼ばれるもので分類される」

「知ってる」

「カラーコードには突然変異である、正負が存在する」

「知ってる。彩華さんがプラスなのを聞いた時は驚いた」

「珍しいだろ」


 一応俺の〈色〉にもマイナスがついている。今まで、自分以外で正負は見たことがなかった。


「じゃあ次、今何問目?」

「知らねえよ、多分四」

「クソッ。正解」


 何だこの茶番。俺が呆れ顔をしていると金子は満足気に言った。


「いや〜、一度やってみたかったんだ。よし次行くぞ」

「はい」

「ヨウスイソウには負の〈色〉が含まれる」

「知ってる。ってかそのヨウスイソウが増えすぎて今弱色症が増えてるんだろ」

「その通りだ。ちなみにヨウスイソウが負の〈色〉を持つ植物の総称なのは?」

「常識」

「よし。次、負の〈色〉は#a-、正の〈色〉は#b+という総称がある」

「知ってるし、今朝ニュースでも見た」


 アブソバンチにも利用されていることは今朝のニュースで見た。


「そうか。#a-は透過……まあガラスみたいな性質を持つことは?」

「知ってる。そもそも俺の〈色〉は#a-だし」

「じゃあ#b+は光沢……金属の表面みたいな性質を持つことは?」

「それも知ってる」


 〈色〉の正負は血液型のRh-みたいなものだ。自分がその血液型だったら知っているように、きっと自分の〈色〉が正負の人ならこのくらいは大抵知っているだろう。だが、正直これ以上のことは知らない。


「よし、じゃあ〈色〉にはレベルがあることは?」

「知らない。レベルって〈色〉の事だったのか?」

「逆になんだと思っていたんだ?」

「最初に言った通りなにかのゲームかと」

「なんでそうなるんだよ」

「いや知らなかったからだって」


 おちょくってるのか、こいつは。


「まあだいたい分かった。シノの〈色〉についての認識は常識に毛が生えた程度だ」

「そうなるね」


 実際、その程度のことしか知らないし下手に強がる理由もない。


「じゃあレベルについて説明しないとだな」

「お願いします」


 そういえば金子はレベルを上げてもらうと言っていたがそれが薬を作ることにどんな関係があるのだろうか。


「レベルが上がった人間がどうなるかは多分見た方が早いな」

「え、なんか危なそう」

「あぁ、ちゃんと訓練してからレベルを上げないと最悪死ぬぞ」


 聞いてないのだが。


「言ってないからな」

「は?」

「心を読むのはギャグシーンのお約束だろ」


 何を言ってるのかわからないがとりあえず同調することにした。


「そうだね」

「さて、どこで見せようか……」


 そんな折に、ふと思った疑問をなげかけてみる。


「そんなにわかりやすいの?レベルとやらが上がったのって」


 いまいちレベルがなんなのかもよく分かってないので想像するに難い。


「私のは視覚化できないしなあ……。マスの能力がいちばん分かりやすいかなあ」


 金子が何かボソボソ言っているが何を言っているのかわからない。能力とか聞こえた気がするが気のせいだろうか。


 その刹那だった。


「呼びました?」


 そんな声とともに会議室のドアが開いた。


「相変わらず耳がいいな」

「応用してるだけですって〜。先輩もできてるでしょ?」


 明らかに金子より年上に見える男が「先輩」と口にした。


「でも君の能力ってそういう応用効きにくいやつだろ?」

「物は考えようですよ。この世界は足し算が全てじゃないんですから」


 さっきからこの二人の会話の意図がつかめずに立ちすくんでいると、男の方が俺に目をつけたようだ。


「あ、君が噂に聞く東雲っち?僕は橙山(とうやま)(すぐる)って言うんだ。よろしくね」


 ここの連中はなぜかノリが軽い。なぜなのだろう。ところで噂って一体……。


「マス。見せてやってくれ」

「はーい」


 そう言って橙山が手のひらをパッと広げた。


 突然、炎が顕現した。ライターなんかの比じゃない火力だ。綺麗な赤橙色だった。


「僕は橙色の〈色〉#fd7e00。レベルⅨの能力者だよ」

「レベルⅨ?」


 この能力とかいう人間離れしたものがレベルなのか。だとしたらこれはとんでもないぞ。


「レベルを上げれば〈色〉の形質が発現する。これはイメージ次第で無限に広がる」


 俺は灰ガラスの〈色〉。全く能力のイメージがわかない。


「普段は体の奥底に眠ってる〈色〉の形質を無理やり発現させるんだ。体には相当な負荷がかかる。どうだシノ、覚悟は出来たか?」


 いきなり色々見せられて少し混乱したが、でも面白そうだ。どうせこれを断ればニートだ。

「ちなみにそれ、給料はどれくらいなんだ?」

「君は私たちが待っていた人間だからな。さっきは報酬金と言ったが訂正しよう。報酬は欲しいものなんでも、だ。悪い話じゃないだろう?」


 悪い話じゃないな。むしろ万々歳だ。だが二つ気になることが出来た。一つは僕の何を待っていたのか。もう一つは、


「彩華さん。あんたの能力は何なんだ?」

「それ、僕も知りたいっす」


 金子は少しニヤけて、意地悪そうに答えた。


「いずれ教えるよ。けど、まだ秘密だ」

元々、私は戯曲を扱っていた口なのでその癖が会話文にモロ出ている気がします。気にしたら負けですね。

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