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38話 赤い宝石

「何、俺の事を呼び捨てにしてんだよ…死ねよクソ女…」


相変わらず理不尽な言われようだが、声色は今にも消え入りそうな程に弱々しい。


「元気ないね。」


「……笑いたいなら笑えよ。」


「なんで、笑わなきゃいけないの?面白くも無いのに。」


立ち上がって、桃色のワンピース型の寝巻きを軽く叩く。


「それ、慰めてるわけじゃ無いんだよな?」


「なんで慰めなきゃいけないの?」


「いや、そうだよな……でも、ありがとう………」


何故かお礼を言われた。

カイエンの考えてる事は元から分からなかったが、今日の彼はもっと分からない。


「じゃあな。」


「うん……」


気怠げに去っていく後ろ姿をしばらく見つめた後、私も歩き出す。


「なんか、いつもうるさい人がしょぼんってしてると、調子狂うね。」


『少シ、気ニルナルナ。』


「でも、私に利がないから関わらないけどね。」


『貴様は、相変わらず自己中心的な考え方だな。』


「当たり前だよ。」


見返りがない事をする気はない。

軍隊を育てているのも、あくまで軍部の中で動きやすくするためにすぎない。


良心で動いているわけではないのだ。


「ねぇ、帰りに何処からスイーツ店にでも寄っていく?」


『是非トモ。』


胸から頭に登って、フェンリルと仲良く最近流行りのスイーツ店に足を向け、帰路に着いた。



ーーそして、深夜3時頃に窓を突く音がした。


「うんん……」


眠気眼で、窓を開ける。

すると、茶色く威張って見える鷹が腕に乗って、足に手紙を結びつけていた。


「リックお爺ちゃんからかな……」


欠伸しながら、手紙を読む。


【アンジュちゃんへ


地下の方に鍛治士が数名居るから、一緒に作るといいぞい。

口が堅い信頼できる者達じゃから、心配せんでも魔法剣のことは大丈夫じゃ。

できればワシにも教えてくれんかの?

      

  フェリックス・アーデルハイトより。】


寝る前に送った手紙を、ちゃんと読んでくれた様だ。

詳しくは書いていなかったが、ちゃんと汲み取ってくれていたらしい。


「リックお爺ちゃんは、本当に有能だね。」


『上カラ目線ダナ』


「所詮は獣人でしょ。」


ただの人間代わりの観察対象に興味などない。アンジェラスは、世界の意志様の次に尊き存在なのだから、見下す形となっても何ら不思議ではないし、誰も文句を言えないだろうし、なによりも。


「私は例外なく人間に似てる獣人が嫌いだから。」


鷹を飛ばし、寝始めたフェンリルの隣で私も眠った。




***





「皆、集まるの早いね。」


集合時間より10分前に寮を出てフェリックスの屋敷の前に行けば、既に皆揃っていた。


「「「おはようございます!!」」」


「うん、おはよう。」


元気な挨拶をもらい、門番に一言告げて屋敷内へと通しでもらう。

そして、玄関の扉を開くとフェリックスとリアトリスが居た。


「なんでリアストスがいるの?」


「面白い事をすると、聞いたので。」


さわかやに、リアトリスが笑う。


「……。」


後ろを振り返ると、ブンブンを首が千切れそうな勢いで左右に振る兵士達。


「ワシが教えたのじゃよ。」


「リックお爺ちゃんなら良いよ。」


今のところ、私が信頼できるのはフェリックスとリアストスだけ。

それを彼も知っているはずだから、他の人達には言い振らさないだろう。


それに万が一、他人が聞いていたとしても私から教わらなければ出来ない芸当だ。


「今日はよろしくね、リックお爺ちゃんとリアストス。」


「はい。」


「勿論じゃ。」


ニコリと笑い合い、地下へと進む。


地下は、意外としっかりした構造だった。


「汚くないんだね……」


てっきり、狭い場所で鉄臭い場所かと思っていたが、豪華な作りだった。


「一応、仕事じゃからな。清潔にしておかんと病気にかかる。」


一人一人ちゃんと椅子があり、剣を作るための石や道具が一通り用意されていた。


「これ、全部購入したの?」


「いや、ワシの鍛治士が作ったのじゃ。」


「へぇ……」


石を削って武器を作るための土台を作るなんて、普通にすごいと思う。


「もうそろそろ鍛治士が、休憩から戻ってくるから、少し待っておれ。」


待つ事数分、地下の階段を降りる足音が聞こえた。


「お、来た様じゃの。」


そして、現れたのは軍部の制服を着た容姿の似た男女2人だった。


「あの人達が鍛治士なの?」


どう見ても、鍛治士には見えない。


「そうじゃよ。」


「でも、服が汚れるだろうし……」


お世辞にも、鍛治をする様な服装や顔つきの者じゃない。


「其方の言いたい事は、分かるが腕は確かじゃ。」


「そっか。」


そんな会話を、フェリックスとしていると鍛治士と目があった。


「少し、テンションが異常じゃが、まぁ大丈夫じゃろう。」


ボソッと呟くと、何故かフェリックスが一歩下がった。


「「おはようございます。」」


いつのまにか、鍛治士達が目の前にいた。

同じ様な笑顔と息遣いだ。


「おはよう。」


「貴女が最近大将軍たいしょうぐんになったアンジュ様ですか?」


女の方が、話しかけてきた。


「そうだよ。」


「へぇ~」


ジロジロと、上から下を舐め回す様に見つめる2人が気味悪い。


「人をそんな目で見ないで。不愉快だから。」


モゾモゾとフェンリルが胸の中で、動き出すのを止める。


「「すみません。」」


へへっと2人で笑う鍛治士達の印象は、お世辞にも良いとは言えない。


「では、自己紹介をしますね。私は、ビオレッタ・アドです。フェリックス様の護衛を担っている者です。」


「僕は、リオレッダ・アドです。ビオレッタの弟です。この屋敷の軍隊長を担っています。」


「知ってるだろうけど、私はアンジュ。大将軍たいしょうぐんだよ。」


2人とも黒上碧眼で猫目なところを見るに、双子なのだろう。


「ふふ、私たちがどうして鍛治士をしているのか分からないって顔ですね?」


「否定はしないよ。」


「それはですね……」


「「趣味だからです!!」」


ピッタリ息を、揃えて言い切った。


「色々な剣を造るのが、僕達の小さい頃からの夢だったんです。」


「でも、騎士の家系だったので捨てなければならない夢だったのですが、フェリックス様に援助を受けて、今こうして作れているんですよ。」


「趣味ねぇ……」


確かに、貴族の趣味ならば地下がこんなに綺麗なのも頷けた。

平民に用意するには、豪華すぎる室内だから。


「納得して頂けましたか?」


「まぁ、うん……でも、貴女達のことは嫌いだよ。」


「ドストレートですね。」


「因みになんで私たちを嫌ってるんですか?」


「人のことをジロジロ見るし、テンションが高いから。」


「「よく言われます!!」」


「そういうところが嫌いなの。」


双子の鍛治士の事は、放っておいて、そろそろ本題にはいる。


「待たせちゃってごめんね。」


「いえ、大丈夫です。」


「ありがとう。」


海色のキューブを懐から取り出し、中を探る。


「えっと……あった。」


真っ赤な宝石が見つかり、取り出す。


「この赤い宝石が、魔法剣を作る上で絶対に必要な材料なの。石の数や分量は適当で構わないよ。」


魔力を、流して宝石を光らせる。


「魔力を流すと、こんな風に光るからイメージに合わせて金槌がバンバン叩けば好きな形になるよ。でも、やり方は鍛治と変わらないから素人には無理なの。だから、そこの鍛治士に聞いたり、私に聞いてね。」


説明は簡素で良い。

難しいのは、形を作る事だから時間は沢山あった方が良い。


「何度でも失敗して良いから、とにかく今日中に完成させてね。この海色のキューブから好きなだけ持ち出して良いから。」


触るだけで、赤い宝石が取り出せる所を見せると「おぉ……」と、驚いた様な声が上がった。


相変わらず、いちいち反応して面白い。


「じゃ、それぞれ初めてね。」


海色のキューブをから赤い宝石を一個ずつ取ると、早速打ち始める。


「力一杯、宝石を壊す勢いで打つだよ。鉄よりも硬いからね。」


「難しいのじゃな。」


「簡単には行きませんね。」


フェリックスと、リアストスが苦悶の表情を浮かべながら、宝石を打っていた。


「もっと力強くしないと。」


「やっておるがの……」


「固過ぎますよ……」


弱音を吐いているのは、2人だけではなく他の人達も開始早々諦めた様な表情をしていた。


「うーん……」


どうしたらやる気を取り戻せるのだろうか?

やはり、素人に魔法剣を作らせるのは流石に無理があったのか。


「皆、頑張ったらフェルを好きなだけ撫でて良いよ。」


ピョコッと胸からフェルが、顔を出した。

喋りはしないが、珍しく可愛いく振る舞っている。


「「「……」」」


静まり返る室内。


ーーーそして、数秒後。


「「「「頑張ります!!!!」」」」


急にやる気を出した男達が、高速で打ち始めた。


「フェルは、人気だね……」


「アンジュ嬢……これからも触らせる時は、私を絶対呼んでくださいね。」


なぜか、呆れた様な視線をフェリックスとリアストスから向けられた。


「まぁ、分かったよ。」


血眼になって打ちまくっているからか、だんだんと変形していく。

しかも、ちゃっかり鍛治士も魔法剣造りに参加していた。


「鍛治士は、あくまでも教えるために呼んだんだけど……」


「そんなケチなこと言わないでくださいよ!」


「僕たちの仲じゃないですか!」


「さっき会ったばかりだし、貴女達の事、嫌って言ったよ。」


「嫌よ嫌よも、好きのうちってことです!」


「……好きにして良いよ。」


「「はい!!」」


もう面倒だから、好きにさせる事にした。

魔法剣を作ったら、勝手に他の人たちに教えるだろうし。


見本としては丁度良いだろう。

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