33話 只々ヤバい
「誠に申し上げにくいのですが……。」
言いにくそうに、口をぱくぱくしているリアストスに、私とフェリックスは二人して首を傾げる。
「何か言いたいことがあるなら行っても良いよ?」
「そのですね……三公格の内一人は女性を見下し、もう一人は皇帝陛下は大将軍も誰もを見下すなかなかの曲者揃いでして……アンジュ嬢の心が折れないかどうか……」
「確かにそれはそうじゃの……」
深刻そうな顔をする二人に、フェルリルは急に私の頭上から机上へ着地した。
そして、ジッと私の目を見つめて言った。
『上ニハ上ガオル。』
「私は常識人だよ。」
フェンリルを睨めば、プイッと顔を横に逸らされてしまった。
「ねぇ、フェル。私の何処が常識人じゃないっていうの?」
首を掴み、ぎゅーっと締め上げる。
『ウ、グァ……』
「ねぇ、私の何処が?」
段々とフェンリルの焦点が、合わなくなっていくのが分かる。
でも、質問に答えるまでは絶対に離してあげない。
「ねぇ、何処がって聞いてるんだけど。」
フェンリルの涎が垂れてきたところで、締め付けるのを止める。
すると、バタッと受け身も取らずに机上に落ちて荒い息を繰り返している。
『ゲホッ…ゲホッ……』
咳き込みながら、睨みあげてくるフェンリルにまた問いかける。
「ねぇ、何処が?」
『ソウイウ、所デアル。』
喉が掠れ、ガラガラ声になっている姿は滑稽としか言いようがない。
私のことを非常識と言って、全く訂正する気のないフェンリルが悪い。
「あ、あの、さっき程から何故犬が喋っているのですか?」
不思議そうにリアストスがフェンリルを眺めている。
フェリックスの方は、なんとも言えない困った様な笑みを浮かべていた。
「そういう犬なんだよ。」
『ソウダ。』
「そんなんですか……インコみたいに言葉を教え込んだら、こうなるんですね……」
顎に手を当てて、勝手に納得しているフェリックスが少しだけ心配になった。
有り得ないことを当然の様に疑うこともなく受け入れるなんて、よくもまぁ、貴族社会で生きてこられたと感心せずにはいられない。
「ゴホンッ!脱線した話を戻そうかの。」
まだ、フェンリルに、何処が非常識なのか首を掴んで聴こうとしたところで咳払いが聞こえた。
「先程リアトリスが、紹介した二人の内一人は、車騎将軍三公格大将カイエン・ハワードだ。女性を下に見て下衆でも見る様な視線を向け、メイドをわざと転ばせたりしている屑じゃ。」
「く、屑……」
「そして、衛将軍三公格大将アードリア・エースはプライドの高い女での。自分以外は皆、隠したと思って横暴な態度を取っておる。そして男を取っ替え引っ替えしておる悪女じゃな。」
「なんか、将軍とは思えない二人だね……」
「唯一の常識人は、リアトリスだけじゃ。」
思わずリアトリスに、同情の眼差しをむけてしまう。
当の本人も、憔悴しきった瞳で遠くを見つめていた。
「リックお爺ちゃんもリアトリスも大変だったんだね……。」
基本的に獣人は嫌いだが、同情を抱かずにはいられない。
嫌いな事と、同情心を抱くことはまた違うし、その人種だから嫌いなどと言う事を宣う気はない。
その種族らしい行動をしている者が嫌いなだけであって、真っ当な心の優しい人を嫌うほど落ちぶれては居ない。
「でもまぁ…安心してよ。彼らが曲者ならその部下も曲者だろうけど、この常識人である私が成敗してあげるから。」
ニコリと笑えば、何故か心配そうな瞳を向けられたが、曲者風情に負けるつもりはない。
私は幾億もの世界を救ったアンジェラス1なのだ。
そう簡単には精神や体が音を上げることなどないに決まっているーーーと、思っていた時もあった。
「ーー女風情が話しかけるんじゃねぇよ!!」
「ーー汚いですわ!!」
初対面で、アードリアには頬を扇子で打たれ、カイエンからは腹を殴られて血反吐を吐いてしまった。
「ハッ!このくらいで血を吐くとは、やっぱり女は弱っちいな!」
「そうですわ!私は例外ですけれど!」
「あぁ?お前も同等だろ。」
「なんですってぇ!!」
勝手に二人で歪み合い、扇子と拳で攻防を繰り広げている者達を呆然と見つめていることしかできない。
初対面にも関わらず、まさか手を出されるとは思わなくて頭がキャパオーバーしていたのだ。
そしてフェンリルも、私の胸の中で呆然としていた。
中国の武漢の役職名です。読み方難しいですよね。
次々と他の役職も出てきますので、その度に説明を入れるので覚えなくても大丈夫です。
因みに大将軍の次に三公格が偉いです。
大将軍は元帥のことです
主人公は、着替える話があるまで桃色のワンピース型の寝巻きのままです。




