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1話 勇者に生まれたかった訳じゃない

ページを開いてくれてありがとうございます。

本作の主人公は途中から出てきます。


アルファポリスでも連載してます

勇者とは、悪から世界を守る者。

神から授かりし大いなる力で魔王を倒し、世界平和を守る。


そう、昔から言い伝えられている。

もちろん、どの勇者もソレに似合った行動をして歴代魔王を退治してきた。

相打ちになる勇者もいれば、生還する者も居る。


どちらにしろ、立派に魔王を倒したという事で全世界から讃えられ歴史に名を残す。

勇者の誕生は、どの国に生まれるか分からずランダムで、18の成人の儀を迎えると共に出現する。


そして、その成人の儀では勇者を発見するだけではなく、その御付きとして神に与えられた力を持つ者も判明する。


聖女、魔法剣士。毎回、この役職だと決められている。


ソレを、お子様達に言い聞かせる大人に、ため息をつく青年が1人。


「あぁ‥‥なんで勇者だからって、魔王と戦わなきゃならねぇんだよ。」


林檎を丸ごと齧りながら、黒い外套を羽織って不機嫌そうに歩いている。


「仕方ありませんわ、ソレが神から選ばれた責任ですもの。」


「自分は選ばれたくなかった。勇者になるなんて人生設計は、無かったからな。」


「なら、その人生設計の中に組み込む事ですわ。」


「えー。」


ぶつぶつ文句をこぼす青年の隣を歩くのは、今世の聖女である少女だ。

綺麗な金髪に、甘い桃色の瞳は、見る人全てを魅了すると言われている。


「アレク様、そろそろ魔物退治に行きませんと、王家や世界の人々からの信頼を失ってしまいますわよ。」


「別にいいよ、信頼なんかなくたって生きていけるし。」


素気なく返し、宿屋の前に着く。


「じゃ、また明日。」


「……」


宿屋で別れ、少女は自身の宿へと帰って行く。

ソレを見つめ、青年はそっと目を伏せた。





***





青年が勇者に選ばれたのは、15歳の時だった。

本来ならば、成人の儀で降りてくる神の力が青年には早く降りてきたのだ。


そして、ソレを知った両親はとても悲しんだ。

何故なら、勇者は表面上世界を救う英雄だが、裏を返せば世界を救う為に犠牲になる者の事なのだ。

生還できたとしても、満身創痍で長生きできた事例はない。


生きれる少しの間、贅沢な暮らしができるだけだ。


「アレク、貴方は生きるのよ。」


「強くなるんじゃ無い、生きるんだ。」


両親は確かに泣いて青年ーーアレクを抱きしめ、可哀想だと同情した。

だけど、ソレと同じくらい生きる術を教えてくれた。


「自分は、人のために魔王は倒さない。」


誰になんと言われようが、守りたいものがある訳でも無いアレクは、世界を人のために救う気は無かった。


御付きの聖女や魔法剣士は、よく魔物退治や救出活動に勤しんでいる。

アレクとは違い、かなりの善行を行なっている為、民達からの支持率は高い。

ソレとは逆に、宿から滅多に出ずに引きこもってばっかいる勇者に対しては、ブーイングが凄かった。


街に出て、買い物をするだけでも石を投げられるくらいだ。外套を羽織っていないと危なすぎる。


全く、唯一世界を救える可能性のある勇者に対して、その態度はなんなのだと思うが、まぁ、気持ちが分からない訳でも無い為、無視していた。


「アレク、今日こそは善行活動か魔物退治をしに行くぞ。」


ドアの開く音がしたと思えば、魔法剣士のカイトと聖女のリアナが居た。

寝台のシーツに潜り込み、行動で意思表示をする。


「アレク。」


「アレク様。」


2人の真剣な呼び声が、アレクの耳に響く。


「五月蝿い。」


毎日毎日繰り返すこのやりとりには、そろそろ飽きた。

魔王退治には、何があっても行く気がないのだから、そろそろ諦めてほしい。


「はぁ……アレク、お前は勇者なんだぞ?」


呆れ気味に、カイトが近くに腰掛けるのが分かった。

リアナも、きっと何処かに座っているだろう。


「なりたくてなった訳じゃ無い。」


「だが、なってしまったものは仕方ないだろう。」


だから、頑張ろう?とシーツに丸まっているアレクの背中を優しくさする。

まるで、兄のような対応にむず痒くなるが、ここで引くわけにはいかない。


「死ぬと分かってて、誰が魔王退治なんか行くか。」


「誰も魔王退治に行けなんて言ってないだろう?まだ、俺たちは弱いから魔物退治でもして強くならなければいけない。」


「強くなったら、魔王退治に行かないといけなくなるじゃ無いか。」


「俺たちだけ強くなっても良いのか?もし、お前なしで俺たちだけで倒した時、お前は何も思わないのか?」


「……」


「思うだろう?ならーー」


「魔王は勇者以外倒せない。」


「ソレは……」


勇者の聖剣でしか、魔王を殺せないのは世の常識だ。

人の作る貧弱な武器では、膨大な魔王の魔力に侵されて散ってしまう。


「もう、出て行ってくれ。自分は何もしない、安全地帯にずっと居たいんだ。」


ギュッとシーツを握りしめて呟けば、ガタッ!と、椅子の倒れる音がした。


「良い加減にしてください!!」


咄嗟にシーツから顔を出せば、リアナが顔を真っ赤にして怒っていた。


「貴方は勇者なのでしょう!?なのにどうして、そんな無責任なことばかり言うのですか!」


「……じゃあ、お前はみんなのために死ねって言われたら死ねるのか。」


「死ねますわ。」


即答だった。

何の迷いもなく、リアナは言い切った。


「大した覚悟だな。」


「当たり前ですわ、1人の命で皆さんが助かるのであれば、安いものです。」


だから、自分に死ねというのか?という言葉が喉まで出かけたが、アレクは寸のところで留めた。


「‥‥文句をいうなら、神に言ってくれ。」


今にも泣き出しそうな、リアナを見たくなくて、またシーツに包まった。

そして、離れて行く二つの足音を聞きながら二度寝した。


読んでくださりありがとうございます。

次も読んでくれると嬉しいです

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