(弌)
「う〜ん。裨将軍一人目は、呂亜さんで良いとして、問題は、二人目だよな〜」
趙武は、人事で再び、頭を悩ませていた。まだ、兵士の補充が無く、兵力5万のままなので、問題ないのだが、今後、補充された時に問題が二点。
一つ目は、今の駐屯地では狭い。他の大将軍に比べて、半分程なのだ。上将軍の時は、ちょうど良かったのだが、大将軍としては、狭いのだ。まあ、今は、とりあえず、兵士の補充されていないので、問題無いが、
「陛下に、何か考えあるんだろうか?」
そして、二つ目の問題は、恐らくは、実戦経験をもっと積ませたかたんだろうか。
「岑平。将軍として、風樓礼州王国攻略戦に参加してみろ、条朱、廷黒頼むぞ」
「はっ!」
という訳で、岑平将軍が居なくなり、順当だったら、二人目の裨将軍として任せる人材が居なくなったのだ。
「それにしても、賑やかだな〜」
趙武は、ふと、顔を上げた。今日は、大将軍になった趙武を、祝ってくれるとの事で、趙武の邸宅に集まって、宴が開かれているのだが、たくさんの子供達の世話を男性が行って、女性陣は、台所で、料理に没頭しているようだ。
「いい、これは、口に入れたらばっちいの、ちゃんと桃の話聞いてね」
「あ〜」
あの位の年齢になると、女の子もおしゃまさんになって、お姉さんぶるのだな。
「え〜と」
趙武は、記憶をたどる。さっきの女の子が、桃ちゃん。呂亜先輩の子供だったな。呂亜先輩が、結婚して8年。で、一番上の桃ちゃんが、7歳。次も娘さんで、5歳。で、一番下の子が男の子で、2歳。
雷厳のところは、結婚して5年。そして、奥さんの満月のようなお腹から三つ子が誕生して、4歳。男の子、男の子、女の子だったな。
龍雲は、結婚して4年。すぐに男の子が誕生して、3歳に。そして、毎年、子供が生まれて、男の子ばかり、2歳、1歳だったな。
陵乾も、結婚して3年か。女の子が生まれて1歳になったところだったな。
そして、至恩は、しばらく子供いなかったが、最近、立て続けに子供が産まれて、上が女の子で、2歳だったか? 下の男の子は1歳だったな。
「本当に、賑やかだな〜」
趙武は、周りを見回す。なんか、この賑やかで、やかましいような環境だが、嫌な感じはしなかった。
「うん。こういうのも、良いな」
「どうしたんだ趙武?」
趙武の独り言を聞きつけて、呂亜が寄って行く。
「いえ、こういう感じも良いものだと、思って」
「そうか。趙武も、家族の良さに気付いたか?」
「う〜ん。そうなのかもしれないですね」
「そうか、そうか、ハハハハ。だが、最近良い縁談は無くてな」
「そうなんですか。偉くなり過ぎました?」
「まあ、それもあるが。あれだ」
「あれ? 年齢ですか?」
「そっちは、関係ない。あれは、そのあれだ。趙武が、氷の天才軍師って思われているからだ」
「氷ですか?」
「ああ、大衆向けの書物なんだが、最近流行しているんだ。そこに出てくる登場人物の悪役の軍師がどう読んでも、趙武が見本になっているんだ」
「へえ〜」
呂亜曰く。悪鬼率いる悪の帝国からの、解放戦争を書いた話とのことで、その中に登場する、悪鬼の下で、働く氷の天才軍師が、趙武を見本に書かれているそうだ。
「まあ、悪鬼の見本は、凱炎大将軍だけどな」
「そうなんですか〜」
「ああ、それで。本人も、冷酷非情なのじゃないかって事で、なかなか、娘を嫁にって人が、いなくてな」
「そうですか。では、仕方ないですね」
「まあ、でもその気になったんだったら、良い事だ、うん」
で、せっかく呂亜が来たので、本題に戻って話してみる。
「呂亜先輩、人事なんですが、裨将軍一人は、呂亜先輩で良いとして、もう一人適任者いますか?」
「えっ、う〜ん。中林さんはどうだ? 年齢でも、経験でも一番上だし、良い副将だと思うけど」
「なるほど」
中林は、現在、幕僚統括の軍師だ。しかし、かつては、軍官として活躍していたようだし、適任だろうな。さて、そうすると、
「だとすると、空いた軍師には、順当だと陵乾ですね」
「そうだな」
「わたしが、どうかしましたか?」
自分の名前が出たので、陵乾がこっちに来た。腕に子供を抱いている。どうやら、寝ているようだ。
「いや、中林さんに、裨将軍をやって貰おうと思って、で、空いた軍師に、陵乾をって思ったんだけど、どうかな?」
「かしこまりました。非才ながら、全力を尽くさせて頂きます」
「そっか、良かった。後は、陵乾がやっていた、長史だけど、順当だと司馬の」
「それは、やめた方が良いと思いますが」
「そうだな」
趙武の意見を陵乾が否定すると、呂亜も同意する。
「そうですか?」
「ああ、幕僚の仕事は、大きく違うからな」
「はい、事務仕事やっていた人間に、今度は、参謀やれと言っても無理な話です」
「なるほど。だとすると」
「會清さんが、良いと思いますよ。実質、参謀業務一人でこなしてますし」
「そうだな」
今度は、陵乾の提案に、呂亜が同意する。そして、趙武は、目の前に広げた書類に記入しながら、
「じゃ、長史に會清と」
「わたしが、何か?」
今度は、會清がやって来た。すでに、少し飲んでいるのか顔が赤い。磨き上がられた、つるつる頭が赤く光っている。
「ああ、會清に、長史を任せようと思ってね」
「はい、かしこまりました。謹んで拝命させて頂きます。ところで、長史の仕事って、何でしょう?」
すると、陵乾が、説明する。
「今と変わりませんよ。参謀と言っても、趙武が全部考えちゃうので、集められた色々な情報を、整理して趙武に伝える仕事ですよ。後は、多少、趙武と相談する位ですね」
「かしこまりました」
「さて、後の、幕僚人事は陵乾に任せて大丈夫だな」
「はい、わかりました」
「で、軍官の残り将軍4人だけど。う〜ん凛儀さん、公哲さんが、裨将から昇格するとして、後は、う〜ん。校尉からいきなりだけど、至恩と、雷厳かな」
「まあ、妥当かな」
「ですかね」
「ですね」
趙武の意見に、呂亜、陵乾、會清が同意する。すると、また、至恩、雷厳、龍雲が集まってくる。それぞれ、子供を引き連れて集まって来たので、趙武の周りには、人垣が、出来た。
「ああ、至恩、雷厳には将軍を、龍雲には、裨将になって、少し待って貰おうと思うけど」
「俺も、将軍か〜。至家の名誉は保てたな」
「ガハハハ、任せろ趙武」
「裨将として、頑張りますよ。まあ、見ててください」
至恩が、雷厳が、龍雲が、承諾する。
そして、その時だった。居間と台所を結ぶ扉が開かれ、手にたくさんの食事を持った、奥さん達と、各家の使用人が出てきた。
「さあさあ、片付けて、冷めないうちに食べるよ!」
大声で指示するのは、雷厳の妻。雷梨園。
趙武は、書類をまとめ、片付ける。
「さあ、食べるか」
数日後、今度は、趙武の執務室に幕僚、上級将校を集め、人事を発表していく。
「裨将軍、呂亜、中林」
「はっ、謹んで承ります」
「この中林、最後の御奉公と思い。全うさせて頂きます」
「頼むぞ」
そして、発表は続き
「将軍凛儀、公哲、至恩、雷厳」
すると、至恩と、雷厳は
「はっ、この至恩、至家の名誉にかけて全力を尽くさせて頂きます」
「おう、任せとけ。じゃなかった、頑張ります」
「頼むぞ」
だが、公哲、凛儀が進み出て、公哲が、話始める。
「凛儀殿とも話したのですが、その役目、辞退させて頂きます」
続けて、凛儀が、口を開く。
「我々の能力では、将軍として趙武殿の役にたつことは無理かと。裨将として、誰かを支える事には自信があるのですが、兵を率いてとなると」
さらに、公哲が話を引き継ぐ。
「至恩殿、雷厳殿が将軍になるのでしたら、龍雲殿、馬延殿も充分に将軍の器があるものと考えます」
そして、最後に公哲が、
「龍雲殿、馬延殿に不安あれば、我々が裨将として、それを支えます」
「わかった、では、将軍は、至恩、雷厳、龍雲、馬延」
「はっ」
4人の声が重なる。
「頼むぞ。配下の人事は4人に任せる」
「はっ」
こうして、全ての人事は決定した。
「僕は、大将軍。呂亜先輩が、裨将軍で、至恩、雷厳、龍雲は将軍か」
趙武が、ポツリと呟いた。
それから、3か月後。帝都から大将軍会議の招集に合わせて、書状が届く。内容は、軍勢の準備が出来たので、率いて行って欲しいとのこと。
「誰を連れて行くか?」
兵を率いるなら、至恩と、う〜ん、龍雲かな。一緒に飲めるし。
さらに、ほぼ同時期に會清から、情報がもたらされる。
「負けたんだ」
「はい」
「そんな強いんだ風樓礼州王国」
「いや、強いというよりは、難攻不落の城みたいですよ」
「そうなんだ。で、今回で3回目の攻略失敗か」
「そうです」
「う〜ん。なんか嫌な予感がする。悪いけど、風樓礼州王国の情報集めるのと、今度の大将軍会議同行して」
「はい、かしこまりました」




