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*12* 一人と一匹と、卵の中身は何だろな。

 結構分厚い殻の残りを自らぶち破って現れたのは、大きな赤い宝石を額に持つ金茶色のイタチ擬きだった。カワウソやオコジョやアナグマというよりは、北海道の番組で見たテンに近い気もするが、何にしても非常に可愛い。


 真っ黒な瞳でこちらをじっと見つめて「キュルルッ」と鳴くものの、当然ただのイタチに宝石はついてないし、孵化したてのくせに思ったよりもサイズがデカいというか長い。


 そして穴が開きそうなくらい見つめてくる割に、バランスの悪い卵の中から自力で飛び出すことが出来ないのか、うごうごとしている身体を抱き上げて出してやると、あっという間に首周りに巻き付かれてしまった。


 それに孵化したばかりだと、もっと鳥の雛みたいに湿気っているかと思いきや、さらふわで滅茶苦茶肌触りが良い。ペットショップのバイトで触ったチンチラみたいな感じだ。あと思ったよりも体重も軽い。


 困惑する私を見たエッダが「なんや、魔法石のブローチがついた襟巻きとか、いきなり首周りだけ金持ちやん」と言い出し、デレクが「問題はそこじゃないッスね。哺乳類は卵から生まれないし、得体のしれないものをあっさり受け入れちゃ危ないと思うス」と突っ込む。


 忠太はといえば、自分の定位置を奪われたことに対し毛を逆立ててご立腹の様子だ。一応引き剥がそうと試みるも、イタチがより巻き付く力を強くしたので、締め落とされる危険性を考えて無理に引き剥がすのを諦めた。見た目の割に筋肉質すぎる。


 けれど抵抗を諦めたこちらの首に満足気に巻きついて、肉球の手入れをしたりあくびをするイタチをよそに、私達の目の前では残された二つの卵が、どちらも溶け落ちるようにして地面に吸い込まれていくところだった。


 その現象に驚きつつ、地面に転がる無傷のスマホを拾い上げようとしていると、忠太が全力で駆け寄ってきてスマホにしがみついたので、大した重さでもないし、そのまま持ち上げて一緒に画面を覗き込んだのだが――。


━━━━

【加護持ち++ハンドクラフター】

 素材コピー中級(一日に五回まで少し複雑な構造の素材コピーが可能)

 一度作ったアイテムの複製☆8(一日二十四個まで。高レア品は不可)

 レアアイテム拾得率の上昇。☆6

 体力強化(体調不良時に微回復)☆5

 手作り商品を売るフリマアプリで新着に三十分居座り続けられる。☆

 着色・塗装(ただし単色無地に限る)☆4

 製品耐久力微上昇。☆3

 対象者の内包魔力量の増加。

 アイテムに対しての全属性付与可能。☆

 低レベルのレアアイテムを使った作品の複製が可能。

 今までに訪れた場所であれば転移出来る。一度に四ヵ所まで選択可能。

 悪意ある第三者の干渉が認められる場合、守護精霊ポイントに加算。☆


 現地の言葉を話せるようになる。  

 現地の文字を書けるようになる。

 現地の計算方法を身に付けられる。

 現地の歴史について身に付けられる。 

━━━━

【トリックスター】

【バーサーカー】

【精霊テイマー++】←レベルup!

【悪食】

【ここを我がキャンプ地とする!】 

【守護精霊能力育成・巨大化能力】

━━━━

【特種条件クリアオプション】

 守護精霊の能力育成。

 異世界思念のポイント化。

 異世界食材入手での身体強化。

 鑑定眼。

 ライブラリーの一部閲覧範囲が広がりました。

 商品カタログ作成が可能(手元にアイテムがなくても複製が可能になる)

 テイムした精霊達からのランダム加護(小)。←New!

 *****である第*難関〝澱みの生まれる場所〟解放で入手。

━━━━

 

 おお……久し振りのレベルアップだ。だいぶ長くなった能力値の説明文に目がシパシパするが、何か見慣れない項目が一つ増えて、見慣れたやつがちょっと成長してる。これまでの反省としてレベルアップ時のファンファーレ音をキャンセルしておいて良かった。


 ただ残念ながらテイムした精霊のランダム加護についての説明も一切ないし、ライブラリーもチラッと開いたけど新しいタグみたいなのは見当たらない。このクソ仕様はどうにかならないもんか。

 

「あ、待てよ、これ減ったポイント全部じゃないけど……気のせいじゃなかったら半分くらいはポイントが戻ってきてるんじゃないか?」


「チ……チチチ?」


 手首に尻尾を巻きつけて器用にバランスを取っている忠太も、私と同じことに気付いたのか小首を傾げていた。


 さっきまでは慌てていたから、減ったポイントがどれくらいなのか正確に把握はしていないものの、明らかにポイントの残数が増えている。それでも全部じゃないっぽいのは、あと二つあった卵が孵化しなかったからかもしれない。


「あちゃー、残念。全部は孵らへんかったなぁ。可愛かったのに」


「全部孵ったところでこいつが何かも分からないんだから、面倒事は少ないに越したことはないッスよ」


「そらまぁそうやけど。冷たい男は嫌われるで。ていうか、なんやこの魔獣の見た目どっかで聞いたことあるんやけど……何て名前やったっけ?」


「さぁ? こいつの種族の名前は知らないッスけど、現実的な話、魔物の卵が孵って喜ぶ方が世間では嫌われるし怒られるでしょ。本来なら生まれたとこで処分が妥当ッスけど……」


 口ではそう常識的なことを言いながらも、私の首に巻き付くイタチを見つめるデレクの目は、明らかにそれを嫌がっている。ポイント泥棒をされて複雑な心境みたいだけど、忠太も元を辿れば同胞の命は救いたいのか、こちらを見上げて「チュウ……」と、懇願するように一声鳴いた。最早、この場で生殺与奪は私の肩にかかっている。


 というか、魔物ならすでにコカトリスの雛を育ててるから、もう一匹くらい増えたってなんてことはなさそうだ。見たところこいつも肉食だろうし、餌に悩むこともない。


「まぁまぁ、この子はもうマリを母親や思うとるねんから、間違ったことしたらマリが叱ったらえぇやん。それよか用が住んだんやからちゃっちゃと街に帰って、ボスの指示を仰いだ方が良いんちゃう?」


「それはまぁ、確かにそうスね……」


「現状だとエッダの言う通りだな。ただ肝心の証拠が地面に吸われて消えちゃったから、チェスターへの説明は一緒に頑張ってもらうからな?」


「実際好奇心の化物なあの人への報告が一番面倒なんだけど、頑張るッス」


「ちょい待ち。大事なこと忘れとったわ。マリとチュータに一個だけ質問いうか、確認な。結局この子が森の弱体化に関わってたってことで良いんやね?」


 エッダのその一言で急展開にバタバタしていたけど、そういえばそういう話だったことを思い出す。忠太を見下ろせば、小さなハツカネズミは首の周りに巻きついたまま、暢気に眠り始めた新入りを一瞥し、鼻をひくつかせて大気の匂いを嗅ぐ仕草の後、大きく一度頷いた。


「ああ――うん、小さな神様達は解放されたよ。この森も少し待てば元通りになるはずだ」


 私にはあの卵の中に取り込まれた小さな神様達がどうなったのか、本当のところは分からない。でも忠太が頷いてくれるならそう思うことにした。大まかに話がまとまったところで、それまで隠れていたラルーが茂みから顔を出し、もう安全だと判断したのかレオンを引きずりながら戻って来る。頼もしい。


 浅い眠りに入りかけていたイタチは、茂みから現れたラルー達に「キュル」と挨拶をしたものの、首周りから離れる気はないらしい。


 仕方なく定位置を奪われた忠太を胸ポケットに入れれば、イタチは先輩である忠太の額をぺろりと舐めた。一瞬食べる気かと思って身構えたけど、そんなことはなく。けれどその直後に私達三人と四匹を眩い光が包み込んで。


「うわっ!? は? え? 皆さんいつ帰って……というか、今どこから現れたんですか!?」


 次に咄嗟に閉じてしまった目蓋を開いた時には、何故か目の前で腰を抜かしているチェスターを見下ろしていたのだった。

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