書籍化御礼SS 可愛いと叫びたい。
一番新しいとこに投稿しないと新着に出ないので、
中途半端なとこになりますが載せました……σ(^ω^;)
後日キリの良い場所に移動させませす。
窓の日差しの角度を確認してレジンの硬化を待つ。いつもなら忠太とお喋りをしたり、作業に打ち込む姿を観察して時間を潰すけど、今日の忠太は珍しく昼寝をしている。きっと昨夜も一度寝たふりをして、その後また起きて明け方近くまで作業してくれていたんだろう。
百均の籠ベッドの中で尻尾を糸巻き代わりにして眠る忠太はとても可愛い。起こすつもりもないので、今日のところは時間潰しにスマホを弄ることにした。実は忠太と生活をし始めてからというもの、時々こうしてスマホでネズミや小動物の画像や動画を検索する癖がついてしまったのだ。
そんなわけでいつものように音源を切って動画サイトを開き、最近見つけた配信者の新しい動画をタップ。読めないけど何か良い感じの英単語が現れ、動画本編に続くのだが――。
「うわ、この子、忠太より小さい……まだ赤ちゃんかな、可愛すぎる……」
尻尾が短いから白いハムスターだろう。ちょこまかと玩具みたいに動く姿が恐ろしく可愛い。餌入れの中に頭ごと突っ込んだかと思えば、小さい顔がまん丸になるくらい頬袋に餌を詰め込んでいる。
忠太にも頬袋……はないけど、意外と食い意地がはってるから、食事の時は大抵膨らんでてあれはあれで可愛い。そしてそんな状態でも不思議と品を感じることから、私の相棒はかなり美形だ。
画面越しというハンデを帳消しにしても、毛並みの艶、瞳の輝き、尻尾の長さも耳の形も良い線いってると思う。ただ忠太には照れがあるから、スマホで見ている子達と違って100%の自然体な可愛さは望めない。
昔はハムスターとかハツカネズミしか知らなかったけど、エキゾチックアニマルブームで、チンチラやデグーやモモンガが加わり、バリエーションがぐっと増えて観るものに困らない。需要過多なのに飽きないで見続けてしまうあたり、可愛さに中毒性のようなものを感じる。
何よりも飼い主達の愛情を感じる写真の数々。アングルの取り方や小道具なんかがそれぞれ工夫してあるから、全世界に発信出来る〝可愛いうちの子〟が撮れるのだ。
正直ずっと見ていられる。何ならたまにハートを押したりしてる。
忠太に頼めばいくらでもポージングをしてくれるだろうけど、被写体がいくら良くても私の腕ではああはならない。
精々スマホの手ブレ防止機能が働いてくれるくらいだ。動画の方がまだマシなんだけど、肝心の忠太が撮られていると照れて隠れてしまう。可愛いを出し惜しむな。
というかそもそも可愛いという感想は、相手の知能が自分より高いと純粋な気持ちで感じて良いのか悩む。そして忠太は私よりも圧倒的に賢い。
「おん、待てよ? だからあいつは臆面もなく私に可愛いって――……いや、忠太に限ってそれはないか」
一瞬前世を思い出して卑屈になりかけたものの、毎日忠太がちょっとしたことでも絶賛してくれるから、自己評価がほんの少し上がっている。だからそんな相棒のことを疑うことなどありえない。私が可愛いかは別としてもだ。
その後も幸せな気分で動画を観ていたら、いつの間にか十五分の動画を三本も観てしまっていた。何となくだけど忠太が起きている時にこの手の動画を観るのは気が引ける。
いつものように忠太が起きる前に履歴を消そうと思ったら、画面の上にピンク色の小さい手が現れて、次に観ようと思っていた動画の再生ボタンをタップした。直後に走る緊張感。
前世コンビニの雑誌コーナーで偶然父親を見かけて娘が声をかけたら、運悪く父親がグラビアページを見ていた時くらいのやつ。もしくはドラマで妻が風呂上がりの夫にスマホを突きつけて『このメールの女、誰?』と訊くシーン。
そんな緊張感漲る中、楽しげに回し車で遊ぶデグーのショート動画。笑顔みたいな表情を浮かべて振り向くデグー。ぴるるとピンク色の耳と尻尾を震わす白い毛玉。少し身体が膨らんでいるのは気の所為だと思いたい。
デグーがお手をする。おかわりもする。その場でぐるっと一回転。芸が出来たことを飼い主にアピールし、おやつをもらってはしゃぐ姿で動画終了。
小さなピンク色の手が再びボタンをタップ。お次はチンチラの動画。ひたすらご飯をもぐもぐするシーンを繋いでいる。食べてるだけで可愛い。とても可愛い。正直もぐもぐタイムって単語はこういう時だけ使ってほしいくらいだ。
その次はおやつを持ってる飼い主の手に、棚の上から大ジャンプしてくるモモンガのショート動画。思ってる倍くらい飛んでくるの速い。おやつを咥えたらまた颯爽と飛び去っていく。
そこまで観てからふっと動画のリンクが切られ、メール作成の画面へと切り替えられた。ジャッジメントタイムがきてしまったか。小さなピンク色の手が重々しくフリック入力を始めた。
画面を叩く爪の音を聞きながら言い訳を考える。待つこと少し。爪の音が止まったのでスマホ画面を覗き込むと、そこには【わたしに あきましたか】とあった。慌てて「そんなわけないだろ。私にとっては忠太が一番可愛い」と言えば、膨らんでいた毛がちょっとだけ寝る。あ、ここが勝負どころだ!?
「むしろ忠太が可ゎ――っこ良いからげっ歯類全般が良く見えるっていうか、こう、魅力的に見えちゃうんだよ。それに忠太は写真とか動画撮られるの苦手だろ?」
腕を組めるほど長くないから、胸の前でお祈りポーズをしたまま聞いてくれる忠太。ヒゲにちょっとだけ寝癖ついてるの気付いてないな。
「でも本当は私もこの動画の人達みたいにさ、世界中に忠太の自慢したくなる時があるっていうか……だな」
ずいっと身を乗り出してフンスと小さい鼻をひくつかせる忠太。同じくらい耳も前のめりになって、尻尾がうずうずしている。これは押せばいけるか?
「忠太の格好良さを一番知ってるのは私だ。それは間違いない。でもこうやって楽しそうに撮影する人達を見て羨ましくなったからって、恥ずかしがり屋な忠太に頼むのも悪いかな〜って思って隠してた。こそこそしてごめんな」
両手を合わせて謝罪をしたら、忠太は「チュゥ」と一声鳴いて、再びスマホに【まり どんなぽーず すきですか それとも どうが おのぞみ】と打ち込んでくれたので。今度こそ何の憂いもなく心ゆくまで撮影させてもらった。
ちなみに籠の中でレース編みをする動画は、忠太のストーカーが出そうなくらい可愛く撮れたので、いつか世界中に自慢しようと思う。