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*10* 一人と一匹、追い剥がれる。

 無骨な切り株テーブル上のスマホが震えた瞬間、忠太の表情が固くなった。その事実に気付いたのは私だけで、落ち込む相棒を案じるラルーとレオンは同僚の変化に気付かない。抜け殻同然のエッダとデレクは論外だ。


 ひとまず初期投資に失敗した事実に落ち込む二人は小さき命達に任せて、切り株テーブルの上で立ち尽くす忠太とスマホに近付いたのだが、視界に飛び込んできた文字に今度は私が固まる番だった。


【*****である第*難関〝?????〟が発生しました】


 出だしは見覚えのあるいつもの駄神メール。よくはないけど、まぁこの際そこはどうでもいい。


₣₱₪₷◆₪₪₷▲(守護精霊忠太)

₪₪₱▼₫₣₪■℘℘(守護精霊値) 100PP−、200PP−、300PP−、400PP−……


 けど問題はカウントダウンでもするかのように、スマホの画面に映る忠太の守護精霊ポイントがみるみる減少していくことだ。これは無視出来ない。


「え、ちょ、待っ、何だこれ、何でポイントが減って——?」


「チチチッ!」


「ヤバイヤバイヤバイ、忠太、これ、どうやったら止まるんだ?」


「チュー!!」


「そーだよなぁ、分かんないよなぁ」


 慌てふためいて画面をタップし続ける忠太と、小声でこの現象に突っ込む私を嘲笑うようにスマホは無慈悲に減点を続ける。かくなる上は電源を落とそうと転生して初めて起動ボタンを長押ししたが、当然の如く出来ない。


 ワンチャン衝撃で電源オフにならないかと切り株にスマホを叩きつけても、オリハルコン並の強度のせいで傷一つつかない。さらには——。


₯▲√₹₪₪₰■(守護対象マリ)

℘₪℘₣■■₪₪₰℘(守護対象者幸福値) 100PP−……


「ヂヂヂヂッ!?」


「げっ、私が落ち込んでも連動すんのかこれ?」


 流石は駄神。守護する側とされる側のメンタル連動式とは、嫌なことに嫌なことを悪魔合体させる天才……いや、天災だ。でもこれ以上狼狽えてあいつを楽しませるのも減点されるのも癪すぎる。


 一旦冷静になるために画面の数字から目を逸らそうとしたら、魔道具職人の命である魔晶盤を叩きつけるという奇行を目撃したエッダ達と目が合う……かと思われたが、不幸中の幸いかそうはならなかった。


 視線の先には頭を抱えたデレクと俯いたままのエッダ。二人の相棒達も静止画の如く不自然なほどぴたりと動きを止めている。そこに私と忠太が疑問を感じた直後、スマホ画面の右上にメールのマークが現れた。


 絶対ろくな内容じゃない。けれどそれに触れないことには謎は解けないし守護ポイントは溶ける。


 どんどん減点されていくことへのショックから涙目になる忠太に代わり、音量を調整してメールを開けば、いつぞや同様〝読み上げ機能を使う前に、このURLをクリックして下さい〟という文面が現れたので、嫌々添付されたURLをタップした。


 すると案の定画面に金髪緑眼のエルフ(性別不詳)が現れて、にっこり微笑みながら「やぁやぁ、お呼びでしょうか? 何やら理不尽な怒りを感知しましたよ」と中性的な声でのたまう。


「何が〝理不尽な怒り〟だよ。ド正当な怒りだろうが。忠太の守護ポイントが理由の分からない状況で減ってるんだぞ。今度は何をしやがったんだ」


「おや、心外ですねぇ。けれどそれでしたら勿論理由はありますよ。ですが残念ながらわたしのせいではありませんので、こちらではポイントの減少は止められません。だから理不尽だと言ったのです」


 こちらの怒りを押し殺した発言を、いけしゃあしゃあとそう言ってのける駄神。可哀想な忠太は震えながらくるりとその場に蹲ってしまった。尻尾だけへなっと投げ出されているのを見て、不謹慎ながらこんな形で尻尾を引っ張ったら震えるぬいぐるみがあったことを思い出す。


 その間も緩んだ蛇口から水が流れるようにポイントが減少していくせいで、私から駄神への殺意も温泉のかけ流し状態で止まらない。


「あ゙ぁ゙っ? だったら誰のせいだって言うんだ?」


「コラコラ、年頃の娘がそんな風にドスを利かせるものじゃありません。これはわたしとは別の担当者がゲームから降りる際に残していった置き土産です」


「置き土産……てか、トラップだろが。まさかこの森に小さい神様の気配が薄いのもこいつのせいか?」


「おや、ご明察です。本当はもう少し悩んでほしかったのですが、仕方ありませんね。如何にもこれは魔獣発生イベントです。貴方達も以前森でボルフォや、アダラモや、パラミラの大量発生に出くわしたでしょう? 今回のはその亜種で、下級精霊を素材に新しい魔獣を生み出すランダムイベントですよ」


 そう言いながら、人差し指に髪を絡めてウインクを投げてくる金髪緑眼のエルフ。こいつ……もしかしなくても、地味にあれからも人の金で絵師に依頼して表情差分増やしてやがるな?


 忠太の背中を撫でながら色々言いたいことを呑み込みジト目で睨む。すると「まぁまぁ、そんなに怖い顔をしないで下さい。今回の件はわたしとしてもせっかく長生きさせた個体です。邪魔をされるのも癪ですから解決のヒントを差し上げますよ」と長い耳の先をピコピコと動かす駄神。


 だがこれまでの経験上このギミックは信じてはいけないと勘が告げている。しかしどの道このままだとジリ貧だ。忠太が懸命に貯めたポイントは消費され続けて、長時間の人化も巨大化も出来なくなってしまう。


「ならさっさと教えろよ。その解決のヒントってやつを」


「あ、そうだ。わたし新しい配信機材がほしくてですねぇ」


「はぁ……これまで散々好き勝手に私達の貯金を使ってるんだから、別に今更断りとかいらないだろが」


「いえいえ、今の活動は2Dでやってるんですが、今度3Dにしたいなと思っていまして。そうすると新しいパソコンと、VRヘッドセット、有料の動画編集ソフトに、ちょっと良いモーションキャプチャーソフト、フェイストラッキングソフトと、オーディオインターフェイスなんかを揃えないといけなくて」


 嬉々としながら指折り流れるように説明する駄神。職務放棄してるくせに、遊びへの執着と順応速度どうなってるんだこいつは。あと前よりも強請り方が手慣れてきてる気がする。こんな感じで投げ銭を強請ってるんだろうか?


「正直その手の情報を言われても全っ然分からんから好きに——」


「それと信者に乞われて近々ASMRの配信を始めようと思っているので、マイクも新調したいです」


「ちょい待て。そのエー……何とかは聞いたことあるぞ。あのぉ、ほら、かなりニッチなやつだろ?」


「よくご存知じゃないですか。なんでもわたしに耳元で『雑魚ですねぇ。ミジンコからやり直しては?』と囁かれたいらしいですよ。投げ銭をしてまで見下されたいだなんて、人間とは実に面白い趣味をしています」


「いや、それはかなり一部の特種な変態だけだと思うぞ。ていうか一応訊いとくけど、今の視聴者数何人なんだよ」


「ふふふ、まぁまだたかだか三百人程度の信者ですが、この間えぇと……事務所? とかいう組織に属している方からコラボのお誘いを受けたので、もう少し増えるかもしれません」

 

 VTuberで三百人の視聴者といえば全然大したことでもないけど……三百人の特種性癖持ちの変態がいるのかと思うと怖い。それでもってそんな変態の親玉にコラボを持ちかける奴もどうかしてる——が。


「殺人さえ起こさないなら好きにしろ。だからさっさとヒント寄越せ」


「交渉成立ですね。ではこちらをご覧下さい」


 嬉しげな駄神の言葉と共にスマホ画面に浮かび上がったのは、この森のものらしきマップだ。ご丁寧に現在位置に緑のクローバーマークがある。でもここから結構離れた森の奥にもう一つ赤い王冠のマーク。


 不穏極まりないそれについて尋ねようとしたが、お強請りを終えた駄神は「死なない程度に楽しませて下さい」と言い残して画面から消えて。忠太の守護精霊ポイントも10000PP−溶けた。


 直後に止まっていた周囲の時間が戻ってきたことで、私達の憔悴ぶりを目にしたエッダとデレクが励ましてくれなかったら、立ち上がるまでにもう1000PP−くらいは溶かしていたかもしれないな……。

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― 新着の感想 ―
ポイントの減少っぷりがえげつなさすぎる……! ついでに駄神のお強請りもなかなかえげつないわりに解決のヒントが位置だけとかいう不親切!こ、こわい!
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