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*19* 一人と一匹、いざデュ○ルスタンバイ!

「うわ……エリュシオン工房の奴等、こんな地方に何の用なんやろ」


「また傾きかけてる工房に金積んで採取場奪ったんじゃないスか。どうせ外に護衛山程待たせてるでしょ」


「そんなとこやろな。金持っとるとこはやり口がえげつないわ~」


 入店してきた連中の方に視線を向けながら、珍しく悪態を吐くエッダとデレク。余程嫌な目にでもあったのだろうかと気になり、忠太と目配せをした上で「何か今入ってきた連中と因縁でもあるのか?」と尋ねてみた。すると――。


「ないない、因縁なんかあらへんよ。あっちの連中はあたしらみたいな弱小は、同じ職人や思うてないもん」


「そうそう。全員右の耳に円柱形のピアスしてるの見えるでしょ、あれも純度の高い魔石ッス。感知能力の増幅が出来る優れもので、それを工房の職人が全員着けてる。あれだけ潤沢な資金と採取地があれば僻みもするッスよ」

 

 三人でテーブルの中心に顔を寄せてひそひそ話をしつつ、デレクが教えてくれた右の耳に視線をやると、確かに瑠璃紺に銀の混じった円柱形の魔石が、細く糸状に伸ばした金で編んだ籠の中に収まっている。


 遠目にも分かる繊細なデザイン。あれだけでも相当手が込んだ作りをしていると分かるのに、スマホを翳してみたら名前こそ全職人に配るくらいだから無題だったものの、能力は折り紙付きだった。


【種類・感知能力増幅型魔装飾具】

【名称・なし】

【効果・半径三キロまでの魔石、魔獣探知能力の増幅】

【持続時間・割れない限り六十年〜八十年】

【レア度・☆4】

【市場価値・非売品につき取り扱い不可】


 増幅型魔装飾具ってことは、初期の能力値は個々の持っている才能がものをいうわけか。あと持続時間? というより耐久値にも恵まれてるな。大事に扱えば職人人生を全うするまで使えるってことだ。これを無償でか……太っ腹すぎる。


「従魔もうちらみたいな小型の子らやのぉて、大型の肉食系が多いねん。そやからこういう店内には入ってこられへんねんけどな」


「格好良いんスよね〜。外に出る時にチラッと見てみたら分かるッスよ」


【よそのさいしゅば ばいしゅう ねんじゅう どこかで しざいが とれる つよみ ねたましい】


「「そーいうことー」」


 成程、どうやら大手のエリート職人集団ぽいな。しかも従魔が大型ということは、職人達の魔力も高いに違いない。それで二人にとっては憧れと嫉妬の対象なわけだ。まぁ私にも二人の気持ちはちょっぴり分かるけど。ハリス運輸とクラーク商会の関係性みたいなものだろう。


 世知辛いけど、どこにでも資金の差はついて回る。特に製造業の開発に金をケチってはならないと思う。商会の代表者として職人を有しているチェスターも、その辺は理解してるだろうけど、如何せん駆け出しの商会では先立つものがないに違いない。


 でもチェスターとの旅は短かったとはいえ、密度は高かった。これから大所帯になってのし上がっていくという直感がある。だからそこはこっちが心配するようなことじゃない。


 そしてエッダとデレクには悪いが、あっちの工房の職人達に何ら含むところのない身として、一つ確認すべきことが出来た。


「ふむ……ってことは、あの集団は良い素材を持ってる可能性があるわけか」


「え、ちょ、マリまさか――」


「これを仕上げるのに良さそうな素材がないか、聞いてくる」


 そう答えて未完成のドーナツ型クッションをテーブルの上に出せば、デレクが頭を抱えて大袈裟に溜息をついて口を開いた。


「いやいやいや、初見であんな大手相手に個人工房の職人が素材の交渉とか、無謀すぎて狂人の域ッスよ?」


 その言葉を聞いてエッダの方を見てみるも、同感とばかりに大きく頷かれてしまう。だがここで引いてはならない。何故なら――。


「二人にとっての仮想敵であったとしても、私にとっては自分の尻と腰の無事がかかってるんだよ。何も付き合えってくれとは言わないから。二人は先に馬車に戻ってくれてたら良いし。な?」


 このチャンスを逃したら、未完成品を持って王都に辿り着いてしまう。それは何というか避けたい。オルファネアの職人としてアシュバフに置き土産をしていきたいのだ。


 旅慣れたとかいったところで、尾骶骨(びていこつ)は痛いし、次に乗る馬車が初日クラスに乗り心地が悪いという可能性もゼロではない。そういうわけで一刻も早く完成品を使って楽に旅がしたいんだよこっちは。


【では わたしが くるみを ころがして あちらのてーぶる ちかづきます このくるみ おかりしても よろしいですか らるー】


 胸に手を当てて紳士的にクルミの譲渡を申し出る忠太に、もじもじしながら頷くラルー。文字が読めないだろうに通じてることへの驚きはさておき、可愛いの過密状態。エッダも「ズルイ男やわぁチュータ。そんなんラルー絶対許してまうやん」と悶絶している。


 レオンだけが我関せずとばかりに石を舐めながら、デレクの腕に尻尾を巻き付けて目をギョロギョロと動かして様子を窺っていた。今は紅葉し始めたばかりの楓の色だ。綺麗だけど物足りない色といえば分かるかな。


「話が早くて助かるよ相棒。じゃ、二人は先に行ってくれ。大丈夫、相手にされなかったらすぐに後を追うから」


「……しゃーないなー。そしたら先に戻って待ってるわぁ」


「どうせすぐ追いかけて来ることになるッスよ~?」


 渋々といった様子で席を立ってドアに向かう二人の背中を見送りつつ、こっそりとスマホで今まで作ったアイテムの中から、大手との交渉に使えそうなアイテムを吟味していく。


 代表を気取るつもりはないものの、オルファネアの職人として恥ずかしくないカードを選ぶ。クルミに足をかけた忠太と視線を交わして、いざデュ○ルスタンバイ!

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― 新着の感想 ―
クルミ借りる忠太のやり取りが大変かわいい……
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