*5* 一人と一匹と一体、キャンプに行く。
℘₪℘₣■■₪₪₰℘ 100000PP+
₫√₱▼▲▲₪₣℘◆ 10000000PP+
ΔΔΦ//ΨΨΦ 160000PP+
見た瞬間の反応としては「数値ヤバ。あと読めないやつの数字もだけど、天井あるのかこれ?」だった。百歩譲って読める方は使うことも可能なので良いとして、読めない方は現状貯まっていくだけだ。
決済方法が分からない数字が貯まるだけ貯まるって、かなり怖い。
しかしこの数値が何を表すのかを聞きそびれたものの、一緒に上がっている数値は良いやつだし、特に今のところ害もない。使うような状況になれば流石にアナウンスが入るだろうということで、もう何度目になるか分からないソッ閉じを決め込むことにした。
それに一番やりたかった駄神へのヤキ入れは出来たわけだから。追々出てくる不満はまたその機会があれば積極的に叩き込んでいけば良い。もしくは次にあの空間に飛ばされた時に直接聞こう……出来ればあんまり飛びたくないから、それより早く謎が解けると良いんだけど。
――ということで。
一日ゆっくり家でゴロゴロして忠太達のメンタルを回復させた後、やって参りました。隣国アシュバフのオーレルの森。何をしにと言われたら、まぁ当然新しい能力を試すためなわけだが。
どの程度使えるかも分からないのに、いきなりダンジョンに潜るのは得策ではないと忠太に進言され、すっかりいつものダンジョンに潜るつもりだった私は、目的地を口にする前に言ってくれて良かったと内心冷や汗をかいた。
それに採取したい薬草も多いオーレルの森なら、三、四日滞在して使い勝手を確認するのにもちょうど良い。流石は忠太。うちの頭脳担当。
ただ一つ問題があるとしたら、あの白い空間で広げた時はあんまり気に留めていなかったのだが、意外と人の手が入っていない土地で平らで開けた場所というのは難易度が高い。
森なんてどこもかしこも地面なんだし、すぐに良い場所が見つかるだろうと高をくくっていたものの、いつもの拠点である聖女の小屋から出て、巨大化した忠太の背に揺られながら森の中を進むこと四十分くらい。ようやくそれっぽい場所を見つけられた。
地面に落ちる陽射しは他の場所よりも少ないくらいだが、周辺より少しだけ自生する木々の感覚が広く、樹高もそこそこ高い。これならテントの屋根に当たっても枝が折れることはなさそうだ。
それにもう四十五リットル入り透明ゴミ袋一袋分の薬草を摘んでしまった。すべツヤな毛皮の忠太の背中から落とさないように、私の腰に紐でくくりつけているものの、緑色のデカいゴミ袋にはもうこれ以上は詰め込めない。
季節的にいっぱい生えてるからって調子に乗って摘み過ぎた。でも駄神の言うことを信じるなら、テントの中では薬草は萎れない……はずだ。
「あー……この辺りならたぶんいけそう、かな?」
「チチッ」
「ん、だよな。じゃあここにするか。忠太もここまで乗せてくれてありがとな。元の大きさに戻ってくれて良いぞ」
そう言ってピクピクとこちらの声に反応して動く薄ピンク色の耳を撫で、肌触りの良い白い背中から袋ごと滑り降りると、金太郎が素早く私の胸ポケットからスマホを取り出し、忠太の足元に置いた。
スマホ画面を忠太が器用に大きな爪でなぞれば、その巨体が淡く輝いて縮んでいく。掌サイズの大きさになった相棒を持ち上げ、会話(?)しやすいようにスマホを向けた。
「問題は呪文なんだよなぁ。あんなふざけたやつで本当に出んのかよ」
【ま ま ためすだけ やってみましょう】
「忠太がそう言うなら……分かった。でもこれが駄神の嫌がらせで、本当はスマホに出てくる能力名称の【ここを我がキャンプ地とする!】だったとしても、絶対に笑うなよ?」
【わらいませんよ まりなら なにをやっても かわいいので】
「お前は孫が何しても可愛いお祖父ちゃんかよ。そういうのが一番恥ずいから止めろ。それじゃあ唱えるぞ。あー……んんっ〝一緒に遊ぶ奴この指とまれ、玄関に鞄置いたら、秘密基地に集合だ!〟」
人差し指を立ててやけくそ気味に叫んだのは、小学生の頃、学校からの帰り道で見た同級生達が口にしていた言葉。当時は誘われることも誘ったこともなかったのに、まさかこの歳になって自分で言う羽目になるとは。凄いむず痒いし居た堪れない。
発動しない時のことを考え、恥ずかしさで地面に埋まりたくならないように目を瞑りながら唱えたら、指先にモフッとペトッとした感触。
次の瞬間スマホから「〝守護対象者特殊能力【ここを我がキャンプ地とする!】の、発動呪文を感知しました〟」とアナウンスが流れ、ほんのりと心臓の辺りが熱くなる。その時、木々を揺らす風が一際強く吹いて。
恐る恐る目蓋を持ち上げると、目の前にはあの白い空間で見たものと同じ、遊牧民の住居のゲルに良く似た大型のテントが現れた。
「おぉ、こっちで出すと思ったよりデカいな?」
【それは たぶん ひかくたいしょう まわりに あるから かと】
成程、一理ある。確かにあの空間だと、自分と駄神の身長以外に大きさを図る目安になるものなかったもんな。そう一人で納得していたら、左手首に忠太がスマホをタップしている振動が伝わって。画面に【まり なか のぞいてみたい です】と打ち込まれていた。
「ごめんごめん。さっさと中を見てみたいよな――って、金太郎は竈の方が気になるのか? 後で火を使って何か調理してみるから、先に中を見てくれよ。結構凄いんだから」
こちらの説得に竈とテントを見比べていた金太郎は、仕方なさそうに肩(?)を竦める仕草をして薬草の入った袋を担ぐと、先にテントに入る私へと続く。
あの空間ぶりに入ったテント中は、天井を支える柱が二本立っていて、中心には煮炊き用の竈があり、そこから上に向かって伸びる煙突もある。どうやら冬場は暖を取りつつ料理が出来る作りになっているみたいだ。
とはいえ夏場は暑そうだから、テントの半径三メートルに張ってある魔物&対人結界(魔法防御付)をあてにして、外で調理した方が良いだろう。
後は壁際に飲用可能な水瓶(無限湧き)が一つと、ベンチ型のアイテムボックス、最大十人泊まれると言っても、簡易ベッドは五個までらしい。代わりに寝心地の良さそうな毛布が人数分ある。これならベッドを使えない奴等からも不満は出なさそうだ。
快適すぎてキャンプっていうよりも、グランピングに近くなりそうだなこれ。体力と傷の回復と、テント内での時間経過キャンセルは一晩経ってみないと分からないとしても、これだけ装備が充実していたら文句なしだわ。
忠太はぽかんと小さな口を開けているし、金太郎も持ち込んだ薬草の袋そっちのけでテントの探検に夢中だ。うん、これは確かに特殊能力名に恥じない。こんなんテンション瀑上がり不可避だわ。
「よっし、それじゃあここを我がキャンプ地とする! 採取したものが傷むのなんて気にしないで、目一杯採取に――いや、このテントを今日だけで満タンにするつもりで行くぞ!!」
探検隊の隊長よろしく叫んだ時にふと脳裏に過ったのは、日によって勇者になったり盗賊になったりする、夕方の同級生(男子)達の声。