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*1* 一人と一匹、良質な睡眠を求めて。


【種類・寝具】

【名称・コカトリスと水鳥の羽毛枕】

【効果・常用することで疲労回復値UP、毒軽減(個人差有)】

【レア度・☆1……2?(最大で☆5)】

【市場価値・類似製品がないため未知数】

【予想適正価格大体一個で=白金貨二枚と小金貨三枚(二十三万円)】


「あ、ちょい待ち。今の割合の方がレア度が若干高い」


 ダンジョンの地面に直座りしつつスマホを翳し、ザクザクと無造作にリネンの袋に羽毛を突っ込む忠太を映していたら、袋の上に表示されていた数値が微妙に上昇した。それを認めて待ったをかければ、素直にピタリと動きを止めた忠太がこちらを振り向く。


 スマホをリネンの袋に翳せば、若干迷っていた星の数値が今度こそ☆2に固定される。よしよし。


「大体さっきくらいの羽毛を一掴みとちょっとか。微妙な匙加減なんだな」


「ふむ……そうとなると普通の水鳥の羽毛より、コカトリスの羽毛の方が若干多くなりますね」


「だな。本家本元のダウンよりふわふわな上に疲労回復と解毒もつくとか、コカトリスの羽毛凄いじゃん。まぁ枕に解毒能力がいるかは別としても」


「毒を盛られそうな憶えのある人には売れるでしょう。卵と牙と肉以外も使えるなんて、捨てるとこなしでコスパ良しですね。今日の夕飯はマリが作ってくれる親子丼が食べたいです」


「おー。前回と同じで顆粒だしと醤油とミリンの適当な味付けで良いなら」


「勿論です! やった!!」


 ちゃっかり夕飯のリクエストをしてくる忠太だが、バイト先で教えてもらった簡単な親子丼でここまで喜ばれると、正直悪い気はしない。こちとら一応自炊程度の料理が出来るんだという自負は、まだ捨ててないんでね。


 ちなみにご飯は炊飯器と米と水を買って炊くのが面倒なので、弁当屋で白米だけ注文することにしている。相変わらずどうやって向うの世界からこっちにくるのか不明だが、いつでもホカホカで助かるんだよ。


「狩るのも忠太と金太郎で余裕だしな。弱いから警戒心強くてすぐ逃げちゃう水鳥よりも断然殺りやすいし。いっそ全部コカトリスの羽毛にしても良いかもしれないな」


 その言葉通り、背後では張り切って肉切り包丁(ミートチョッパー)を振り回す金太郎の姿がある。憶えたての解体作業をこなす黒いキュートな瞳からは、一切感情が読み取れない。完全無欠なガチホラー。素人の作った羊毛フェルトのクマが、世界的に有名な猟奇人形(チャッキー)よりも怖いことってある?


 蛇部分と鶏部分を軽々切り離す腕前は、もうマルカの町でよく利用する肉屋のオッサンのそれ。モデルにした動物がクマだから、獲物のバラし方を教えなくても分かるとかなんだろうか。謎だ。


「ありですね。強者の性なのか向かって来ますから、水鳥の羽毛を集める時間にかけている分を回せばすぐ集められそうです。それにしても、まさかあの不道徳なチャンネルで良い情報が得られるとは思ってませんでしたね」


「ほんとほんと、駄神チャンネルもたまになら覗いてみるもんだ」


「魔物の生態系の配信なんて、倒すこと前提かと思っていました」


「まさか利用方法を教えてくれるとは。コカトリスの羽毛がこんなフカフカなんて思わなかった」


 本当に時々気まぐれに覗く程度ではあるものの、駄神チャンネルもとい【四畳半の錬金術師☆ナイトメア】の登録者数は、意外にも三百人を超えていた。どうも仕事に疲れた大人が、深夜に酒を片手にグニャグニャな脳みそで視聴しているらしい。あとはゲーム好きとか、同人ゲーム製作者。


 そういえば前世で辞書を選ぶ際には、調べものの途中で眠くならないように、内容の面白さを優先したな。


 その中でも鳥や魚の名前を引くと、美味しい時期と調理方法が載ってるのがあった。残念ながらどこのだったかは憶えてない。


「枕と一緒に布団も作れば、貴族の需要がありそうですよね」


「前世でも良い寝具は高かったけど、こっちの世界の寝具ってただでさえ高いからなぁ……まずは自分の家の分を一式揃えたいよな」


「マリのためならコカトリスくらい幾らでも狩りますよ。ね、金太郎?」


 そうとても良い笑顔で、駆け出し冒険者の悪夢と呼ばれる魔物の大規模駆逐を目論むハツカネズミと、肉切り包丁を肩に担ぐ血に飢えた羊毛フェルトのクマ。頼もしい限りだよ。


 ――あの強烈な文学オタクの祭典から十日。


 帰ってきて荷物を置いたらすぐにレベッカのところに行くつもりが、お留守番で暇を持て余した金太郎と、畑を任せっぱなしにしていて拗ねてしまった輪太郎のご機嫌取りのために、少し遅らせることにしたのだ。


 何より私も双子達とのイカレたお茶会後に、昼休み明け待ちのお客を相手することで、指とか肩とか背中に疲労が蓄積し過ぎて回復が追いつかなかったのもある。けれどそのおかげでサイラスの本と名前もそこそこ売れたし、勿論私達の店の宣伝も大いに出来た。


 次の即売会にも概念アクセサリー出店予定があるかと聞かれた時には、微妙に即答を避けて愛想笑いで誤魔化してしまったがな。一人じゃ無理。捌き切ろうと思ったら忠太を人化させて付き合ってもらうしかないけど、双子と夫人と商売仲間からの追求が怖いから、その線は今のところ最終手段。


 そして今日のこれは三日前から始めた、良質な睡眠で疲労回復を早めようプロジェクトの一貫だ。個人的にこっちの世界にも、エア○ィーヴとかあったら絶対売れると思うんだよ。今回の一件で寝具の大切さを見直したわ。ポーションだけでは得られない回復ってあると思う。


 ちなみにサイラスはあの日一定数のファンを獲得したので、当初の目標だったクロロスの伝記と、次回作にとりかかっている。輪太郎はここに来る途中、身体に使った土をくれたゴーレムを見かけてそっちで遊んでいるので、帰りしなに密造酒を一杯引っかけたら、その後に拾っていく約束だ。


「試作品は何個くらい作りますか?」


「そうだなぁ……ひとまず自分用と、一番の卸先のエド、子育てで疲れてそうなレベッカとウィンザー様への手土産用かな。クラーク親子とかローガンとか双子の分は、そのあとで良いだろ」


「となると、取り急ぎは四個ですね。一旦袋の中からコカトリスと水鳥の羽毛を分けて複製しましょう。そうすれば個々のレア度も低いですし、この量と数値のまま増産出来ます」


「あ、そっか。それ良いな賛成。やっぱ賢いな忠太は」


「お褒めに与り光栄至極です。では金太郎が他の素材をブルーシートで包んでくれている間に、ささっと量産しちゃいましょう」


 ――ということで、モコモコでフワフワな羽毛を量産すること十五分。


 スマホで残りの枕カバーを三枚注文し、片っ端から中身を詰めて枕にした。それを大きめのゴミ袋に入れるころには、金太郎がコカトリス(解体済)を綺麗にパッキングしてくれていたので、衣装ケース大を二つ購入してぶち込む。


 先に一旦金太郎とスマホで家に飛んで荷物を置き、再び戻ってきてから忠太へとスマホを手渡せば、慣れた手つきで守護精霊ポイントを打ち込んでいく。


 そうしてカウントすること五秒。ポヒュンと間の抜けた音と煙幕が立ち込めて。煙が収まるとそこには超大型ハツカネズミが仁王立つ――が、すぐにその場に伏せて、尻尾を足場に背中を差し出してくれる。


「ありがと忠太。輪太郎を迎えに連れてってくれ」


 そう声をかければ、宝石みたいに綺麗な紅い双眸が細められた。私と金太郎が背中に乗ったことを確認すると、忠太がタンッと跳躍する。つい今の今まで最高の寝具を作るとか息巻いていたものの。


 結局は振り落とされないようにしがみつく、このお日様の匂いがする温かい背中が、世界で一番安心して眠れるんだよ。ま、生憎と非売品なんだけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 利用されまくってたコカトリスが文字通りさらに毟られてる……! 意外と役立つ駄神チャンネル、意外と人気な駄神チャンネル。 解体上手な金太郎! 白くてあたたかくてお日様の匂いがする世界で一番安…
[良い点] 血濡れのクマ…(笑) いや能力は申し分ないよ!あらゆる方向でDIYの超優良マスコットだよ金ちゃん! …喋らないし、表情固定だから…ホラーだよね~(*´艸`*) >ま、生憎と非売品なんだけ…
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