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*20* 一人と一匹と一体、推し事に行く①


 鑑定のスキルを手にしたことで、がっつり実験をし始めて二ヶ月。ほとんどゴミになりそうな素材の欠片も使い方によってはレア値がつくとあり、それはもう色々試したおかげで良いイメトレにもなった。


 その中で新たに生まれた人気商品は、ダンジョンの中に生えていた光る花苔と、蜜蝋、森で採れた野生のハーブで作った、やんわり発光する不眠症撲滅アロマキャンドル、森林の香り。


 ダンジョンにいたサソリの魔物の殻を砕いて陶芸用粘土で焼いた、何を育てても枯らしちゃう人向け、花の育ちと保ちが良くなる植木鉢。


 密造酒を作る時に使うあの植物の花弁は、労働者向けの安い茶葉に乾かして加えれば、翌日に残る疲労を大幅に軽減するお茶になった。


 忠太と味をしめて狩りに行ったパラミラの糸に、金太郎がダンジョン内で倒した蛾の魔物の鱗粉を絡めた愛の狩人(改)は、一段とパワーアップしてそれこそもう飛ぶように売れている。 


 レア度こそないものの、この四点が特に売れ筋だ。財布は潤うし、時々コーディーかブレントの行商で購入した遠方の人から、エドの店にお礼の手紙が届く。勿論どの商品もエドの店で購入が可能である。


 どれも日持ちを考えなくて良いし、一つ一つが小さいのでかさばらないとブレント達からも喜ばれた。そのせいか「お嬢は本当に凄い錬金術師様だ」と言われたが、あれは過大評価がすぎるので止めてほしいものの、総合的に見れば順風満帆と言って過言ではない。


 例の密造酒の方もコツコツ飲用し続けていることで、前まで全然感じられなかった小さい神様の気配が若干分かるようになった。その影響なのかすこぶる調子が良い。体内の魔力の巡り? みたいなのが整っている感じだ。


 おかげでアイテムに魔力を込めるのが楽になっている。忠太からも【まりの まりょく やわらかくて にんきです】と太鼓判をもらえたしな。


 そしてそんな虎の子の出品を予定している、一ヶ月後の魔装飾具師大会の前に、まずはその前哨戦となる祭りが差し迫っていた。


「サイラス。ついに決戦は明日だけど、出店者証明書持ったか?」


「はい!」


「アンソロジー本は向こうに到着してるだろうから忘れようはない。自分の作品と名刺、釣り銭と他の作品を購入する費用は持ったか?」


「あります! 持ちました!」


 なんかこう……いつも賢い奴に向かって、小学校低学年の遠足前日確認みたいなことをするのはちょっと気が引ける。けれど当の本人は緊張と期待で胸を膨らませているので、まぁ似たようなもんかと自分を納得させた。


 金太郎と輪太郎はお留守番だが、準備は一緒にしてくれ……てないな。トランクの中に入ったり包装用のリボンで綱引きをしたりと暴れている。飼い主の出張準備を邪魔する猫か。


「あのギリギリから間に合って良かったな〜。いくら睡眠が必要ないっていっても大変だっただろ」


【なんども かきなおしてた こうはんに むけての どとうの てんかい きっと うけますよ】


「お二人のおかげです! 明日も設営と売り子よろしくお願いします!」


 こんなにハキハキした受け答えをしておきながら、酒で失敗する上司(文官)と部下(武官)の百合ものを書いたとはとても思えない。裏の顔と表の顔があるのは人間だけじゃないんだなと妙な安心感すら抱いてしまう。


「任せろ。サークル名が入ったあずま袋も用意したし。前世のフリマ画像で勉強した立体設営で、他の平積みのサークルを圧倒してやろうぜ」


【ぶーすでの おしの がいねん あくせさり そっきょう せいさくよう どうぐも わすれずに】


「魔石の欠片とか、その他諸々が結構役に立ちそうで良かったよな」


 うんうんと頷き合いつつ、明日の準備のためにまとめた荷物を見やる。一方は段ボール箱に入ったサイラスの長編小説。今回も前回の印刷所に頼んで刷ってもらった。もう一方は売り子である私と忠太の荷物だ。


 本来は浮き玉やルアーみたいな釣り道具を入れるプラスチックケースは、ピアスや指輪、イヤリングにブレスレット、首飾りと髪飾りの金具類と、それぞれDIY中に色々な形に砕けた魔石の欠片や、コカトリスの卵の殻などの魔物の素材、やっとこやペンチといった工具類でパンパンだ。


 これはすでに何回か開かれた小規模な同人誌即売会で、どの作家かは様々分かれるだろうが、各々の作品についたファン層を囲い込むために行うつもりだ。前世だと雑誌やニュースにまで推し活という言葉が出ていたが、あれは確かにありだと思う。


 同人誌自体がまだそう普及していないうちから見出した作者、その作品に登場する自分にしか分からない推しのアクセサリー。推しの色で思い浮かべるものに差はないのが不思議だが、それは置いておいて。


 もしも作者が頭角を現して本格的に作家デビューしたら、地下アイドルがテレビに出るまで認知度を上げた時に、地下でしか手に入らなかった物販品を持っている並の優越感を味わえることだろう。私達はそこを狙う。先行投資だ。


 見本用に櫻子さん――いや、ここはチェリー・ブロッサム先生か。彼女の作品である〝檻の名は、楽園(百合)〟と〝煤と金剛(BL)〟の登場キャラクター達をイメージした指輪とイヤリングを用意した。これも売れたら売る。


 というか了承を取るために手紙を出したコルテス夫人からは、速達便で翌日には〝多めに作って頂戴。売れ残らないと断言出来るわ〟と謎の後押しを頂いたので、五十セットずつ作ってある。モチーフは当然百合とバラ。


 〝檻の名は、楽園〟は留め金部分に貝細工の百合の花と、青い水属性のサファイアっぽい魔石をあしらい、細い金色のチェーンに鳥籠と小鳥を繋げて揺れるようにしたイヤリングに。


 〝煤と金剛〟はブロンズの(いばら)を思わせる指輪の土台に、小粒のムーンストーンと、黄色い土属性のトパーズっぽい魔石を交互にあしらっている。本当はメレダイヤ? とかいう小粒のダイヤを使いたかったんだけど、私の腕には荷が勝ちすぎなのでやめた。

 

 どちらも共にレア度は☆1で、久しぶりに魔宝飾具っぽいものが作れて大満足だった。鑑定価格はどっちも二十万。勉強して十五万くらいにしておくことにした。それでも充分高いし。


 コルテス夫人は貴族相手なんだから、もっと高額で大丈夫だと手紙に書いていたが、材料費を考えると気が引ける。それにいずれは貴族だけじゃなくてもっと色んな人に買ってほしい。


 ただその時は魔石部分をレジンにして魔力付与を外し、価格帯を五千円くらいまで下げるつもりだ。なので最初の限定五十セットには工房名が入った特製の箱と、私のサインと忠太の手形入りの証明書がつく。これなら揉めないだろう。即興制作のものはその都度鑑定して適正価格で売るつもりだ。


「明日はあの仲の悪い商人の子息達もいらっしゃるのでしたね?」


「そうそう。うるさかったら追い払うから心配しなくて良いぞ」


「ああ、いえ、大丈夫です。次の作品への創作意欲が生まれそうなので、楽しみにしているんですよ」


【ひえっ】


 キラキラと輝く瞳が目蓋がないせいなのか、それとも同人誌沼に嵌った人間が見せるという狂気なのか……どっちにせよ、ローガンとコーディーが次の作品の犠牲者になる未来は避けられそうもないな。合掌。



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― 新着の感想 ―
世間では多分、◯コミと言われる戦場とか楽園と言われる聖地。 スポーツドリンクは糖分過多にもなるので水みたいなヤツも併用がお薦め。凍らした飲料系も最低タオルで包みジプロックに入れ再度タオルで包まないと、…
[良い点] 概念アクセという約束された勝利!
[良い点] サイラスがその沼にハマるとは…! ぜひとも二人にはいがみ合って欲しい!。゜(゜ノ∀`゜)゜。アヒャヒャ キャラクターが身につけている小物ではなくて、作品をイメージしたアクセサリーなのが素…
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