*19* 一人と一匹、新ギフトを試す。
三泊四日の現世旅行をして帰宅した翌日。
連日長編作に頭を悩ませているサイラスは戦力外なので、忠太とW太郎と一緒に密造酒の様子を見るついでに、昨日駄神からもらった新しい……いや、別に目新しいとか斬新ではないスキルを試そうとダンジョンへ潜った。
途中の戦闘はいつも通り一方的な蹂躙だったので割愛。忠太と金太郎の後ろを輪太郎と歩くだけの簡単な道程を経て、あまーい醸造香で満たされたもう酒蔵と言っても過言ではない空間にて楽しい試飲だ。
金太郎と輪太郎のW太郎はお酒に興味がないため、部屋の隅で今日倒した魔物の中から、一番キラキラしたものを探す遊びに夢中になっている。有力なのは本体を倒してないけど、道中で拾ったトカゲ系の魔物が脱皮した皮らしい。
私と忠太はそれぞれ百均のワイングラスを手に「「乾杯!」」の合図で煽る。適度な運動で渇いた喉に滑り落ちる美酒。駄目人間ここに極まっているが、一応主目的であるスキルを試すべく、グラスに残った薄桃色に光る酒へ、スカウターよろしくスマホを翳した。すると――。
【種類・果実系薬酒型ポーション】
【名称・ネクター】
【効果・常用することで魔力の保有量増加、補助力UP(個人差有)】
【レア度・☆4(最大で☆5)】
【市場価値・熟成期間により変動する】
【大体三ヶ月熟成物で小瓶一本(30cc)=白金貨三枚分(三十万円)】
スマホに浮かび上がった文字を見た瞬間、百均のグラスでテーブルワイン感覚で飲んでいた手を止める。咄嗟に噴き出さなかった自分を褒めたい。隣で同じように飲みながら、スマホを覗き込んできていた忠太も目を丸くしている。
単純計算で一ヶ月寝かせた30ccが十万円。夜の街のシャンパンタワーごっこしたら破産する値段だ。居酒屋バイトの休憩時間に、バイト仲間とふざけて調べたホストクラブで一番高い酒って一本幾らだったっけ?
「マリ……これが本当なら、わたし達はこれまでにどれだけの金額を飲んでしまっていたんでしょうか……」
「止めろ。過ぎたことは考えるな忠太。胃がおかしくなるから。それにまだ三ヶ月経ってないし、ストックはいっぱいあるから……大じょうっ……ぷ」
思わずすでに空になった素焼きの甕を横目に、新たに漬けた新酒の甕を見て心を落ち着ける。駄神め……絶対にこのタイミングを見計らってたな。というか、あれ? レア度は能力値みたいに十段階評価じゃないのか。でもだとしたらこのポーションは私達の作れるアイテムレベルを超えていることになる。
画面を追う視線の動きから忠太もそこに気付いたっぽい。けれどその表情に私のような驚きや疑問といったものは読み取れなかった。これはいつものあれだ。地頭の作り。素直に聞くのが吉だろう――ってことで。
「なぁ忠太。このアイテムのレア度っていうのなんだけど、これって五段階しかないなら私達が作れるレベル超えてない?」
「ええ。その通りです。おそらくレアアイテム生成の抜け穴があるのだと。仮説ですが、個々のレア度が低いものでも、かけ合わせる際の手順や方法で、その素材が変質してレベルが上がってしまう場合ですね」
「んん?」
「えっと、例えば今回はあの実がレア度がゼロだとして、そこに氷砂糖とホワイトリカーを足しました。どれも簡単に手に入る。等しくレア度はゼロのままです。けれどサイラスの説明を思い出してみて下さい」
「あー……っと、ご、ごめん、半分くらい忘れた」
「ふふ、大丈夫ですよ。要するに〝この空間は地面から自然発生した魔力が充満していて、その地面に直接土を使った甕を埋めることで魔力が染み込み、中の酒が持つ微量な魔力と同調し、それが顕著な効果として出た〟ので、途中の工程でレア度が上がったんです」
「あ、なルほド、へっ、ぇぇ〜……」
うっっっわ、ヤバい。説明の半分くらいとか言っといて本当はほぼ忘れてただけじゃなくて、せっかくの忠太の説明もあんまり分からん。どうしよう。このままではいくら温厚な忠太でも呆れてしまうと身構えた――が。
「つまり、そこに至るまでの工程にはレア度がないんです。ただの作業手順でしかないですから。前々から時々レベルに見合わない作品があったので、今回実証出来たようで嬉しいです」
めちゃくちゃ分かりやすい着地点を用意しておいてくれた。しかも前からそんなこと感じてたとか、賢すぎんかこのハツカネズミ。
「各スキルに星が十段階もあるのも疑問だったんですが、あれ自体が引っかけだったんですね。レアアイテム拾得率上昇が特に。どうしてもレア度が高い物同士で試してしまいますから。本来はマリのように、試行錯誤することでアイテムのレア度を昇華させるのが近道だったんですよ」
もうグウの音も出ない完璧な回答じゃん。余計な発言はしないでおこう。ただ事あるごとに向けられる、やたらと高い私への評価は気になるが。ともあれ忠太が「ちょうど良いですし、これまでのスキル履歴を見てみましょう」と提案してきたので、それに従ってスマホの履歴をタップした。
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【加護持ち++ハンドクラフター】
素材コピー中級(一日に五回まで少し複雑な構造の素材コピーが可能)
一度作ったアイテムの複製☆8(一日二十四個まで。高レア品は不可)
レアアイテム拾得率の上昇。☆6
体力強化(体調不良時に微回復)☆5
手作り商品を売るフリマアプリで新着に三十分居座り続けられる。☆
着色・塗装(ただし単色無地に限る)☆4
製品耐久力微上昇。☆3
対象者の内包魔力量の増加。
アイテムに対しての全属性付与可能。☆
低レベルのレアアイテムを使った作品の複製が可能。
今までに訪れた場所であれば転移出来る。一度に四ヵ所まで選択可能。
悪意ある第三者の干渉が認められる場合、守護精霊ポイントに加算。☆
現地の言葉を話せるようになる。
現地の文字を書けるようになる。
現地の計算方法を身に付けられる。
現地の歴史について身に付けられる。
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【トリックスター】
【バーサーカー】
【精霊テイマー】
【悪食】
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【特種条件クリアオプション】
守護精霊の能力育成。
異世界思念のポイント化。
異世界食材入手での身体強化。
鑑定眼←New!! 感謝して下さって良いですよ(笑)
ライブラリーの一部閲覧範囲が広がりました。
商品カタログ作成が可能(手元にアイテムがなくても複製が可能になる)
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もうかなりスクロールしないと見れなくなったスキルの数々の中で、今まで持ってなかったのが不思議な能力ではある。まぁ前述したように結構無駄に消費させた上で、価値を分からせて絶望を引き出したかったんだろう。つくづく思うが、あいつ悪魔か? あと相変わらず自己アピールがうざい。けど。
取り敢えず片っ端から素材の鑑定をして、色々組み合わせを試行錯誤してみるのは楽しそうで。最近大人しくなりかけていたDIY欲に、ほんの少し好奇心の火が着くのを感じた。