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第15話 氷の令嬢と食卓を囲んで

 

 夜ご飯を共にすることを決めた後、冬華は一度自分の部屋に戻っていった。

 ビニール袋の中身の整理や干してある洗濯物の片付けなど色々とやることがあったのだろう。

 朝陽の家のインターホンが鳴った時にはもうほとんど料理は完成していた。


「とても美味しそうですね……」


 白米、肉野菜炒め、ひじきの煮物、ワカメと豆腐の味噌汁。

 シンプルで在り来たりながら、ボリューミーで栄養のある料理が食卓に並ぶ。

 

 そこまでは朝陽にとって日常的な光景なのだが、視線を前に向ければ直ぐに非日常が目に入った。

 

 一人暮らし用とあって小さめのダイニングテーブルに料理が二人分。


 向かい側の席に座っている美少女は、愛嬌のある大きなブロンズの瞳をキラキラと輝かせている。

 何の変哲もない一般的な料理を作ったつもりが、まるで肉野菜炒めを初めて見たかのような反応だった。


「……いただいてもいいですか?」

「もちろん。冷めない内に食べてくれ」

 

 「どうぞ」と短く促せば「いただきます」と透き通った声が静かな部屋に響く。


 自分で提案しておいて何だが、このやり取りが一週間弱続くと思うと朝陽はほんの少しの気恥ずかしさを覚えた。


 冬華と食卓を囲むのはこれが初めてではないが、それにしたって慣れるものじゃない。


 目の前の美少女は味噌汁に口を付ける姿ですら絵になるほどの美貌を持つ。

 恋愛感情は無いといえども、そんな異性が不意に頬を緩ませるのだから気が気ではない。

 元々は全く感情が読めないクールな表情をしているのだから尚更だ。


「……とても美味しいです」

「それはよかった」


 淡々と言葉を返すが、内心は胸の鼓動がゆっくりと速度を上げていた。

 

 味噌汁を一啜りした後、肉野菜炒めに手を伸ばした冬華の艶やかな唇が僅かにたゆんでいる。


 自覚があるのかないのか、朝陽が作った夜ご飯を口にする冬華には微かな笑みが浮かんでいた。


(やっぱ綺麗な顔してるよな……)


 分かってはいた事だが、箸を動かす手を止めて思わず見入ってしまうほどに、冬華は端正な顔立ちをしている。

 普段は大人っぽい美しさが前面に押し出されているが、出来立てほかほかの料理に舌鼓を打っている様子からは年相応の可愛らしさも伺えた。


「……あなたは何かと私の顔を見つめる節がありますよね」

「すまん、やけに美味しそうに食べるもんだから気になって」

「それは……実際に美味しいのですから当たり前です」

「そう言ってもらえると作った甲斐があるな」


 いつの間にか微笑を浮かべていた事に気づいたのか、冬華はいつもの真顔に戻ってしまう。

 ただ、そのクールな表情からも"美味しい"という思いは十分に伝わって来た。

 



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