序章
それは雨の降る夜の出来事だった。
さあさあと不規則に音を立てて降り続く中、金属音と一定のリズムを立てながら進む一群が一国の王のもとへと足を進めていた。
その一群は平時にも関わらず剣や防具を装備し、紋章のような模様の刺繍が入った旗を掲げており、立ちはだかるものがあればすぐにでも帯刀している剣を抜き、切りかからんとするほどの殺気を放っている。
夜で雨が降っているとはいえ、ここは王都である。
まばらながら町の民や行商人、酔っ払いなんか歩いてはいるが、その一団を見た瞬間に目を伏せ道を譲り、民家は窓やドアを締め切り商人は店を畳む、そのような光景が一団の行く先で常に起こっていた。
一団はそのような光景には目もくれず王の居る城だけを一心に睨み続け、石畳の道を進み続け、城の正門へと差し掛かったところで一団は歩みを止めた。
城へと続く桟橋は上がりきっており、深い堀と高い城壁にて一団の歩みを阻害していた。先頭を歩いていた初老の男が隣にいた兵士に明かりを用意させ、それを頭より高い位置に掲げ、風に吹かれはたはたとなびく旗を照らして見せた。
その瞬間一団の歩みを阻害していた桟橋が音を立てながら落ちてゆき、目の前に道を作った。一団はその橋を渡り正門を抜け、王室へと向かった。
普段は王室までの道には衛兵や使用人が往来しているが、この日の夜は誰一人見かけることはなかった。それもそのはず、この一団こそがこの城を守護することを是とする騎士団の面々なのである。
とうとう王室の前に到着し、一団は一斉に剣を抜いたその時、先頭を歩いていた初老の男は右手を上げ「ここからは私一人でいい、ここで待ち敵対する者があれが撃退せよ」と指令を下し、王室の扉を開け中へと入っていった。
初老の男が王室に入るとそこには王が煌びやかな椅子に深く腰を掛けて一直線にこちらを見据えていた。
男は王から一切目線を離さず歩き、王の前までやって来た。
「やっときたか」
王は立ち上がり歩みを進め男の前に立ちはだかる。
男は一瞥して剣を取り、両手で掲げ、振り下ろした。
王室の前にいた兵士たちは剣を振り下ろし王が倒れる音を聞き、握っていた剣を鞘に戻し、隣人と作戦を成し遂げたことを歓喜しその中には咽び泣く者までいた。
この日一国の革命が成し遂げられた。