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9 最終面接(2)

 楓がユニフォームを着てグラウンドに出ると、そこには目を疑う光景が広がっていた。


 一軍のユニフォーム着たドルフィンズの選手たちがそこにいたのである。


 前回面接の際に訪れた時は、ちらほらとしか選手の姿はなく、その多くが背番号の大きな二軍選手だった。

 しかし、今回は違う。


 ドルフィンズのエース、斎藤武投手。

 元リーグ首位打者、金村虎之助外野手。

 不動の四番、田村翔一内野手。


 大学に入ってからあまり野球を見なくなった楓でも知っているような一軍選手たちが、一軍のグラウンドにいる。

 一塁側のベンチから見る光景は、まるで自分がプロ野球選手であるような錯覚を抱かせるものだった。


 最終面接という名目で呼ばれた場所がとんでもないところであるということを、楓はようやく自覚する。

 しばらくの間、選手たちがキャッチボールをする外野方向を惚けて見ていた。


「立花さん!」


 遠くから声をかけられたことに気づいて向き直ると、三塁側ベンチ、スーツ姿の男女と、大柄なユニフォーム姿の男性が立っている。

 そのシルエットは何度見てもあまりに特徴的であるため、先日の人事担当者、本山奏子、ホワイトラン監督の3人であることがすぐにわかった。


 声の主である蒼子が歩み寄るなり口を開く。


「よく来てくれたわね。やっぱりあなたはユニフォーム姿が一番様になる。」


「ありがとうございます!」


 まるで入社面接のようなやり取りが交わされた後、さらに奏子がおよそ面接では言われないような言葉を続ける。


「今日は、あなたに4人の打者と対戦してもらいます。あなたが本気でただの球団職員に応募したつもりがないのなら、先日の面接で話した自己PRが本物であることを、今日証明してみて。わかるわね。」


 奏子は、身長170センチはあろうかという体格にピンヒールを履いてさらに高いところから、決して目を逸らさずに楓を見下ろしながらいう。


「……はい!」


 身長157センチほどの楓もまた決して目を逸らさずに、奏子を見上げながら答える。

 まるでこれから格闘技の試合でも始めるかのような光景である。


 その間に割って入るように、ホワイトラン監督が話し始め、それを流暢に通訳が訳す。


「条件はこうだ。ランナーはなし、アウトカウントは考慮しなくていい。目の前の打者に集中して、4人と対戦してほしい」


 そして、グラウンドの方に視線を移しながら続ける。


「今日対戦してもらうのは、シュン、タスク、ティガー、ノゾミの4人だ。」


 というと、グラウンドの方に声をかけながら手を挙げる。

 声に応じてホワイトランの元に駆け寄ったのは、内田俊介(うちだしゅんすけ)新川佐(しんかわたすく)金村虎之助(かねむらとらのすけ)、そして江川希の4人だ。


「へえ、君がリッキー監督の言っていた女子大生か。」


 最初に駆け寄って声をかけたのは内田だった。

 内田は身長162センチと小柄ながら、昨季打率.248、21盗塁と存在感を発揮した俊足巧打の二塁手だ。


「俺は新川佐。よろしく。」


 次に紳士的な口調で口を開いたのは新川佐。

 新川は、チームキャプテンも務めるドルフィンズの精神的主柱で、遊撃手。昨季の成績も打率.287、本塁打18本で不動の3番に座り、名実ともにドルフィンズの攻守の要だ。

 チームキャプテンらしく、ツーブロックに刈り上げられた今風の髪型が、整った顔立ちにマッチしている。人気選手になるのも頷ける。


「キミ、なんやすごい変化球投げるんやって?楽しみにしとるわ!」


 2人とは対照的に優雅にスキップしながら外野からやって来たのは、外野手・金村虎之助だ。

 金村は3年前のリーグ首位打者だったが、貧打に苦しむチーム事情により、一番打者だけでなく5番、6番、9番など様々な打順を持ち回ることになっていた。そのためか、持ち前の巧打を生かすことができず、長打を求められる場面が増えたために自分のバッティングを見失い、昨季は打率.288、本塁打10本と自分らしい打撃が鳴りを潜めていた。


 一軍のレギュラー選手が目の前に3人も……。

 楓は思わず息を飲んで固まってしまった。


「ほらほらおっさんたち!寄ってたかっていたいけな女子に圧かけないの!」


 そこへ、はつらつとした、しかし女性らしい透き通った声がかけられる。

 声の主は江川希だった。


「希ちゃんさぁ……その言い草はあんまりやわぁ。」

「まあ、おっさんは認めるけど……ちょっと傷つくなあ。」

「どーみてもおっさんが女子大生に鼻の下伸ばしてる絵にしか見えないっしょ!事案だよ事案!」


 金村や新川ら一軍選手とも垣根なく雑談する希を見て、そのペースにさらにあっけにとられてしまう楓。しばらくその場で固まってしまう。


「また会ったね、楓ちゃん!今日はよろしく!」


 楓の方を向き直った希と目があって、ようやく楓は口を開く。


「うん、よろしく。すごく緊張してるけど……」


「私もよくわかってないんだけど、入団テストみたいなもの?受かれば一緒に野球ができるけど、手を抜いたりはしないからね!」


 楓に向けられる希のはつらつとした笑顔は、来るときに駅で見た球団ポスターで見たものと同じだった。

 突然の展開の雰囲気に若干飲まれたまま、楓の「最終面接」が始まる。


 今日も捕手を務めるのは、前回突然の当番でもボールを受けてくれた谷口繁だ。


「また君の球を受けることになるとはね。改めてよろしく。」


と前置きすると、持ち球にそれぞれサインを割り振って決めた。

 リードは完全に谷口に任せることにした。

 なにせ、相手はプロのレギュラー捕手である。

 きっと自分のいいところを引き出してくれるリードをするに違いない。


 もともとドラフトで選ばれなかった日以降、どこか自分が劣等生のような気がしていた楓は、大学時代も捕手のサインに首を振ることはほとんどなかった。

 実際にそれで帝都大学リーグでも抑えてこれたし、その姿勢に疑問を持つこともなかった。


 谷口がマウンドに背を向け、ホームベースの後ろに座る。

 左打席に最初に対戦する打者、内田が入る。


 ホームベースの左右に一度ずつバットの先端を置いて、ストライクゾーンを確かめるような動きをすると、バットを構えた。


 目の前にはプロの捕手と打者、背中にはプロの選手が守りについている。

 思わず肩に力が入るのがわかって、楓は天を仰いで深呼吸する。


 楓がホームベースの方に向き直るとほぼ同時に、


「──プレイ!」


審判員の右手が上がり、グラウンドに走る緊張感がさらに加速する。


◆ドルフィンズ選手メモ(不定期)

内田 俊介

内野手(主にセカンド)。背番号0。28歳。右投げ左打ち。高卒ドラフト3位。

昨季成績、.248 0本。

昨季21盗塁を誇る。身長がプロ野球選手としては小さく、チームで子供扱いされているらしい。堅守で俊足だが、非力。


谷口 繁

捕手。背番号22。32歳。右投げ右打ち。高卒ドラフト1位。

昨季成績、.231 5本。

ドルフィンズ一筋15年目の「ミスタードルフィンズ」。強肩と前監督小谷野氏の指導による老練なリードが武器。


金村 虎之助

外野手(主にセンター)。背番号51。31歳。右投げ両打ち。社会人卒ドラフト5位。

昨季成績、.288 10本。

元首位打者だがチーム事情で一発を狙う打撃を追求して調子を崩す。


新川 佐

内野手(主にショート)。背番号1。29歳。右投げ右打ち。高卒ドラフト1位。

昨季成績、.287 18本。

3番打者でチームの精神的主柱。チームキャプテンも務める。

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