2025より、未来へ
人は自分の特別さというものをどこで手に入れるのだろう? 個性というものをどこで手に入れる?
こんな風に私が語る……私はこの世界にあまりにも、あまりにもうんざりしているので、この世界の外の人物に語る事にした。それは神でも良いし、宇宙人でも、化物でも、認識不可能な存在でも構わない。とにかく、現代、現代の人々ではない人々に語る事としよう。そうでなければやりきれぬ……
私は「特別さ」というものについて語りたかったのだ。人々は、特別さというものを、種々の形態で確保しようとしていた。その最たるものは他者からの承認であり、これが為に我々はここ何十年で平板になり、一層弱く、甘えた存在となった。読者達は甘え、自分の欲しがるものだけを見たいと念じ、彼らはもはや離乳食のようなものしか受け付けなかった。少しでも硬い食物を与えると「コックの腕が悪い!」と大合唱し、そうしてただ離乳食のみが「良い食物」となった。これが…(聞いているか?…)二十一世紀初頭の現状だ。
繰り返し言うが、私は外の人に語っている。あなたよ…現在はこのような状態だ…。
このような状況にあって、芸術は劣化し、政治は大衆のご機嫌伺い、誰も彼もが自分で物を考える事はしないが、それにしても常識と合致はするので、彼らの利口さは吐き気がするほどで…インターネットと呼ばれる場所で質問すれば、すぐに無数の答えが返ってくる。だが彼らは、問いを一つも作り出す事ができなかった。彼らは結論から始めた為に、どこにも行く事ができなかった。
友よ…聞いているか? 私は、決して私が見る事のない人々に向かって語りかけているのだ。友よ…君はどこにいる? 私には知る事はできない…。
…我々にとっての問題は、秩序と非秩序の約定だった。人々は念じようとした。つまり、ルールを守り、秩序を守って生きるのであれば、それはまっとうな生き方であると。人々は社会秩序を信じようとしたが、それは無理であると悟り、どうやら自分は生を「まっとう」に送れるものではなく、むしろ、疎外された者、自らが生み出した社会制度によって蹂躙され、情けない生を送るものだと知った時、怒りをぶちまける事にした。そうは言っても敵は見当たらなかったので、各々のグループで敵を作り、敵によって自分達の生が台無しになったと信じようとした。
そこから戦乱が起こった。この戦乱についてあなた方は十分知っていよう。おそらく、あなた達は戦乱が終わった後に生まれているだろう。私は今、戦乱の只中にいるので、その結果を知らない。あなた方は結果はよくご存知だろう。
とにかく、そのようにして闘争が起きった。今や多くの人が死に至り、人々はまたその正当な理由を探し求めるに至った。ある滑稽な…平和時には単なる滑稽で恥ずかしいと思われていた集団が、突然、権力の中枢に現れ猛威を振るったりした。我々は…運命の重荷に耐えきれず、それを他者に転嫁しつづけ、そうして遂に、自分で自分の首を絞めるに至った。
私はもうすっかりうんざりしてしまって、この手紙を書いている。私はこれを誰に書いているかしらない。だが、誰かに届く事を信じている。
戦乱の前には、人々は生を称揚する運動を起こしていた。これはかなり長い期間行われ、人々は生きる事、特にその中でも、「成功」する事を過大視した。人々の中で自分だけが特別になるとは、人よりも金を稼ぎ、多くの人に「見られる」存在である事。そのような生こそが素晴らしいと言われ、これは、神が失われた事による代用品、それも汚らしい紛い物だった。
あなた方が二十世紀終盤~二十一世紀序盤にかけて、ろくな文化物がないのを疑問視しておられるなら、その原因はここにある。人々はただ自分達の生を絶対的に昇華する事だけを求め、その為には、多数者の中で自分をぶち上げなければならず、そのためならどんな下劣なものでも「良い」とされたのだ。まっとうな意志を持つ芸術家・思想家はその流れに巻き込まれ、沈黙を余儀なくされた。人々は猥雑な祭りのように沸き立ち、そうして祭りが終わると、終わった事に腹を立ててそこいらを棒で叩いて回った。人々は祭りが終わって現実を見なければならぬようになったとしても、頑として認めなかった。
我々はそんな風に生きていた。そうして今や戦乱が起こり…個人の言動に対する監視も強まっている。人々はますます、自分達の生が失われた原因を探し求め、少しでもその兆候があればそれを打ちのめそうともくろんでいる。だから、私のこの文章も当然、そうした監査網を抜けられないだろう…。
だからこそ、私はこの言葉を、外部の、私の見知らぬどこかの誰かに向かって記しているのだ。この空間…この吐き気のするような空間、匂いがあなたに伝わるだろうか? …きっと伝わらないだろう。この空間では全ての言説がねじ曲がり、どんな複雑な、高等な言説も全て下劣な、汚れた駄弁になってしまうのだ。だから、賢い人はみな一様に黙り、泥に塗れた者共が嬉しそうに何かを話している。
こうして世界は醜くなり、もう戻れぬものとなった。私はその中で…一人で…この文章を書いている。もしあなたにこの文章が届けば私は嬉しい。私は…もううんざりしている。私の命も長くないかもしれない。私は、この戦乱に巻き込まれて死ぬだろう。私は今、ニーチェの著作を読んでいる。ニーチェもまた私と同じような絶望からあのような著書を記したに違いない。私にはそれがわかる…。感じる…。しかし、この言説もまた……
もう時間のようだ。私はこれから人々が決めた掟に従って「訓練」に出なければならない。この文章は私の唯一信頼できるある人物に託しておく。その人物の方が長生きしそうだから。そうして、私のこの文が「あなた」の手に届くのを私は信じ、信じたままに死にたい。なにせ今はあまりにも醜悪…墓場と、猥雑な空気が支配する世界だからだ。私はこの世界の中で何者でもないまま死ぬだろうが、「あなた」にこの文章が届くと信じて死にたい…。それでは…ここでこの文は終わる…。
あなたがこれを読んだ時には、世界は今のようではありませぬように。
2025・10・5 山田一二三




