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伯爵は犬のぬい  作者: 龍弥
泣き虫王子の恋
16/17

Ⅰ-2

前話過失修正いたしました。

叫ぶなりくたりと前のめりになったぬいぐるみは、すぐさま顔をあげると小さな頭を抱えた。

「どうしようラヴェン! 自分の身体に戻れない…っ」

「おおおおち着きましょう、クロード!」

「まずはラヴェンも落ち着いて」

同じ場所をぐるぐる回っていたラヴェンは足を止める。油を注し忘れたオモチャのようにぎこちなく目を向けると、談笑している青年を見て固唾をのんだ。

「そうよね。わたしがしっかりしなくちゃあ」

深呼吸をひとつ。

「本人の魂を弾くほど強い存在、ってことよね。魔法の陣も破られたんだろうし」

「それって例えば?」

「神様、ようこそおいで下さいました!」

「神様。なんとお美しい」

「ぼくが神様だなんて、冗談はその顔だけにしろよ!」

暴れるぬいぐるみを宥めるラヴェンの傍らを、色紙で作った花を手にした女の子が通り過ぎていく。花を差し出そうとして転んだ少女に青年が手を差し伸べると、広場は水を打ったようになった。

「大丈夫かな?」

少女の身体を抱えて、砂埃を払う。膝を折って花を受け取る仕草はまるで絵画の一枚のよう。

「ありがとう」

花もほころぶような笑みを浮かべる青年に、人々は膝から崩れ落ちた。一心に手を合わせる人々を指して、ぬいぐるみは怪訝な声を上げる。

「……ねぇ、ラヴェン。ぼくには特別なことをしたようには見えなかったんだけど」

「そうね、つまり」

「つまり?」

(ぬいぐるみに慣れすぎてるのも困りものね)

「つまり、クロードの容姿に説得力があるということよ。早いところ出て行ってもらった方がよさそうだわ、行きましょ」

教会へと向かう青年の背中を追いかけて角を曲がると、待ち受けていた青年にラヴェンは構えた。

「君がミス・ハンガリーだね」

ぎゅっとぬいぐるみを握りしめてラヴェンは言葉を返す。

「……その口ぶりじゃ、貴方、それがクロードの身体だって分かって入っているのね?」

「…これでも色々見て回った。君にさえ気を付けていれば、この器は実に使い勝手が良さそうだ」

「クロードの身体を使って何をするつもり?」

「大切に使わせてもらうつもりだよ」

ラヴェンは眉をひそめる。

(この声、何かしら)

まるで人混みにいるような喧騒が聞こえてくる。一つを聞き取ろうとしても、他が混じって頭が痛い。

「ラヴェン、逃げ…!」

「っ」

ぬいぐるみの声に我に帰ると、いつのまに距離を詰められたのかすぐ傍に青年が立っていた。見慣れた姿だというのに恐怖が込み上げてくる。

「走るんだ、ラヴェン!」

「私は」

「ラヴェン、逃げるんだっ」

「私は神だよ。ミス・ハンガリー」

伸びて来た手が視界いっぱいに広がった。

「ラヴェンちゃんここにいたのね」

「ッ」

「まあ神様と話していたの? ごきげんよう、神様」

「やあ、ミス・レティ」

心臓が駆け足で鳴り響いている。

「お料理を適当に見繕って来たの。ラヴェンちゃんのお口にあえばいいのだけれど」

「あ…」

「どうかしたの? ラヴェンちゃん」

「い、いえ。ありがとう、ございます。でもわたし、そろそろ帰らなくちゃ」

「そうなの? 残念だわ、本の感想とかも聞きたかったのに。…また遊びに来てくれる?」

頷いたのか頷かないのか、ラヴェンは記憶にない。一度走り出すと足を止めるのが怖くなって、広場を抜け、アーチを抜け、突き動かされるように足を走らせた。

「ラヴェン、事務所に戻るのは止めておこう!」

「どうして!?」

「ラヴェンの事を知っていたくらいだ、事務所も把握しているかもしれない!」

「じゃあどこに…っ」

「コート診療所! 不本意極まりないけれど、よくわからない化け物と渡り合えるのはあの二人しかいない!」

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